記「ショウジョ」
私は院瀬見家のすき焼きパーティーを邪魔しては悪いと、足早に帰った。
いつもの左側に山、右側にマンションがある道に来た。夕依と合ったのもここだし、あいつとあったのもここだ。
下を向きながら歩いていると、目の前に人の気配を感じた。誰かと思い前を向いた。
そこにはあいつがいた。
私はそいつを知っている。茶髪で短髪。後ろからなので見えないが、おそらく両手で学生バッグを持っている。
そいつは後ろを向き、少し笑って言った。
「あっ!リナちゃんだ!」
私は恐怖した。なぜ彼女は私の名前を知っているのか。そして夢のことも相まり
「キャァァァァァァァァ!!!来ないでぇぇ!!」
気づいたら発していた。誰だっていい。夕依や村長や父さんじゃなくたっていい。誰か助けて…!
「ちょっとリナちゃん!外で叫ぶのはまずいって!」
こいつ美少女のマネをしていやがる。ホントは殺人鬼のくせに。お前の方が鬼だ!
「すぐそこに病院があるからおんぶするね」
私の記憶はそこで途切れた。おそらく過度なストレスにより気絶でもしてしまったのだろう。
気づくと私は布団の上で寝ていた。いや違う。これはベッドだ。天井にいつもの蛍光灯は見つからない。つまりここは自宅じゃない。
「はぅちゃん…気がついた…?」
私は背筋が凍った。そこには少女がいた。しかし寝起きということもあり、やけに冷静だった。
彼女がなぜ私の名前を知っているのか。それは学校で自己紹介したからだ。夢の中だと何故殺してきたのか。この村の住人は全員移住反対派だからだ。
つまり、彼女は引っ越しのことを話さない限り、ただの少女だ。しかも美少女。
「はぅちゃん大丈夫?まだ先生が安静にしてろって言ってたよ」
なぜ私のあだ名がはぅちゃんということを知ってるのか、今はどうだっていい。
「ありがとう…助けてくれて…」
「どうだっていいのさ、そういえば名前言ってなかったね。私の名前は堀口命、みんなからはミコとかって言われてるよ」
私は堀口という名前に聞き覚えがあった。私がここへ来た原因。私の父が追われている原因。そうだ。堀口組だ。
「ごめんねっ!はぅちゃん大丈夫?!」
「はぅちゃん大丈夫かい?」
カーテンを開けて私の名を呼んだのは、院瀬見親子だった。すき焼きパーティーを邪魔してしまって申し訳ない。
「私がね呼んだの。混乱して誰に連絡すればいいかわからなくて。とりあえず村長さんに連絡をしておいたけど、知り合いみたいで良かった」
だから夕依親子が来て私のことをはぅちゃんって呼ぶのか。
「ごめんね、聞いたところによるとミコちゃんの前で叫んだらしいね。どうしちゃったの…?」
私はありのまま話すか迷ったが、短時間で嘘を考えれなかったので正直に話す。
「今日殺される夢を見ちゃってね。私を殺した犯人とミコちゃんが似てて…しかもその夢が結構リアルだったの」
仕方がない。初対面で犯人呼ばわりとは失礼極まりない。でもいい嘘が思いうかばない。
「ごめんね、でもなんで初対面のミコちゃんがでてくるのかなぁ?」
私もそれは思う。今日始めてミコにあったはずなんだ。だから夢に出るはずがない。予知夢ってやつなのかな?
「とりあえず大事じゃなくてよかったよ。はぅちゃん、わしは意識が戻ったこと、医院長さんにつたえてくるよ」
数分して医院長がやってきた。体に異常はなかったので、すぐに病院から出ることが出来た。
病院から家までは数キロメートルあるので院瀬見親子に送ってもらうことになった。その時ミコと話す機会ができた。
普通は言わないべきなんだろうが、堀口組に対する怒りもあってかもう喋っていた。
「ミコちゃんって、もしかして堀口組の…」
ミコは少し黙った。しかしすぐにいつものきれいな笑顔を取り戻して、
「堀口組組長の孫だよ。じっちゃんは二十年前に鬼ヶ丘に来たらしいんだ」
二十年前…待てよその時は鬼ヶ丘は閉鎖されて…
「…いたはずだ。そう思ってるでしょ?」
私の言いたいことを先に言ってくれたので、私は申し訳無さそうに頷いた。
ミコは私の左耳に手を当て口を近づけていった。
「堀口組は鬼だったの」
鬼…鬼ヶ丘に引っ越してきた人のことを指す言葉だ。つまり堀口組は閉鎖されている村に引っ越してきたということなのだろうか。
すると夢で私を殺した理由が完全に納得できる。ミコは一族が鬼であることに後ろめたい気持ちを持っていた。
そのため私が鬼であると知った時、彼女はそれを隠そうとした。しかしそれが村人にバレると、そして堀口組の一族が鬼だとバレるとどうなるか。おそらくミコは殺されるか村八分に合うだろう。それに加えてミコは堀口組に何をされてもおかしくない。推測でしかないが、そうとしか考えられない。
ミコも心の中で葛藤があったのだろう。気づけば私はミコの耳に口をちかづけ言っていた。
「あのね、ミコちゃん。実は私も鬼なの…」
私は殺される覚悟で打ち明けた。殺されたっていい。でも「友達」には嘘がつけなかった。
私が謝るように下を向いていると、車内にポタッポタッと何かがたれていた。顔を上げると、ミコが涙を流していた。
「打ち明けてくれてありがとう…私、はぅちゃんの強さに感動しちゃった…私もそうなりたいよ…」
気づけば殺されなかった安堵で…いやミコの私とは違う強さに気づいたからだと思う。私は泣いていた。
「ごめんねっ!大丈夫?!どこか痛いの?!」
ミコは言った。
「大丈夫、グスッ、そっとしておいて…」
私は初めて人の前で泣いた。どれだけ怒られても、どれだけ感動的な映画を見ても泣かなかったのに。そういえば殺されたときだって泣かなかった。
「ミコちゃん、もう着くよ。はぅちゃんも後でおくってあげるじゃ」
ミコの家についた。ミコは最後に手を振って家に帰っていった。その時もうあの夢の面影はなかった。そして数分後、私の家についた。私の家は途中歩く必要がある。少し狭い道があるからだ。
「ごめんね、私、はぅちゃんおっくてくるね!ゲンじいちゃんは車で待ってていいよ!」
私は家までの100メートルほどを夕依と一緒に歩くことになった。時間はもう午後八時。どこを見ても真っ暗だ。夕依は小さな懐中電灯をバッグから取り出し、足元を照らした。
歩き始めてから少したった頃だった。
「イテッ…」
注射を刺されたぐらいの痛みが人差し指に走る。おそらく少し鋭利な葉で切ってしまったのだろう。
「ごめんね、大丈夫かな?」
血が出始めた。怪我をした時急に笑いたくなることはないだろうか?ドーパミンが関係するらしいが、今はどうでも良い。
傷口を見て少し笑っていたら、
「ごめんねっ!ハムッ!」
一瞬何が起きたのかわからなかった。夕依は私の人差し指を咥えていた。そして夕依の舌は私の指先を舐め回し始めた。
エr…ノベルゲームみたいな展開にドキッとした。
「ごめんね、怪我したときはこうやってつばをつけるといいんだよ」
つばをつけるって、ペッペッってやるやつじゃないのか?怪我をした時は可愛い子に指を舐め回させるといいなんて聞いたことないぞ。
「はぅ、そういう趣味があるのかと思ったよ」
夕依は笑って私の赤くなった顔を見た。小学校の時。まだ母がいた時。夕依みたいな性格の青年がいた。
年上らしく私を世話してくれて、怪我していたところに絆創膏を貼ってくれた。その時はすごく恥ずかしくてありがとうって言えなかったけど。
そのことを思い出すとまた泣きたくなった。でもそんな姿を夕依に見られたくなかったので、上を向いて涙がこぼれないようにした。
「ごめんね、もう出発するよ」
夕依はまた歩き始めた。
*ミコ : 堀口命のあだ名
*はぅ : 如月リナのあだ名
*院瀬見家 : 院瀬見夕依と院瀬見玄次の二人家族
*夢 : 1989年2月15日に見た夢。はぅがミコに殺される悪夢だった
*すき焼きパーティー : 院瀬見家がはぅの鬼ヶ丘症候群完治祝(引っ越し祝い)に行ったパーティー