記「トモダチ」
引っ越しの手伝いで忙しく昼から学校へ言ったため、昼からの授業はクラスメートの紹介だった。
楽しくもなく、暇でもなく。でも私にはこれぐらいが一番良かった。
一人で下校しようと思った。今日中には友達もできなさそうだし。
「ねぇ、一緒に帰ろうよ」
びっくりした。女性の声ということだけはわかった。早く正体が知りたく、後ろを振り向いた。
茶髪で短髪。両手で学生バッグを持ち、天使のような笑顔を浮かべる。大和撫子と呼ぶにあたいする少女がそこに立っていた。
私はその姿と自分の姿を無意識に比べてしまい、少しの嫉妬がまじっていたのだろう。こう言った。
「も、もちろん。美人さんだね。」
彼女は少し顔を赤らめ、下を向いた。とてもかわいかった。
「ありがとう…実はあなたのことが気になって、ずっと後をついてきたの…怒ってない?」
ずっと後をついてきたに少し戸惑ったが、転入生である私に友達がいないことをかわいそうと思ったのだろう。
その少女の隣を歩いていると、私の父が数十メートル先に立っていた。上はピンクのTシャツに下は灰色のズボン。
父の不格好な姿に恥ずかしくてその少女と顔を合わせれなかった。
「どうも、リナの父です。娘をありがとうございます。」
父は鼻の下を伸ばしていた。死んだ母に申し訳ないと思わないのだろうか。ま、美少女だから仕方ないか。
「私達はね、昨日岐阜からここへ越してきたんですよ。まだ私もわからないことばかりなので、色々教えて下さいね。」
ここまで気さくに話をすすめる父を初めてみた。この人可愛い人に対して何でもするタイプだからな。そう思った。
「そうなんですね」
私は感情のこもっていない声にびっくりして少女の顔の方を見た。何故か彼女は下を向いて拳を握っている。
目は見えなかった。その挙動は怒っている。そうとしか捉えれなかった。
「あれれ…私怒らせるようなこと言っちゃったかな?リナ暗くなる前に帰ってくるんだぞ。父さんは買い物に行ってくるから」
父は逃げるように去っていった。その際も隣から邪悪なオーラが漂ってきていた。
「リナちゃん。ちょっとこっち来て。このムラを紹介してあげるよ。」
その少女は形容しがたい顔の形をしていて。さっきまでの美少女が消えてしまっていた。
「でも、早く帰れって、父さんが…」
「つべこべ言わずに、早く来い!」
ついに彼女の言葉遣いさえも壊れてしまった。私はその暴言に唖然としてしまった。
彼女は私の腕を無理やりつかみ、どこかへ連れて行こうとしていた。その握力は私の骨を砕いてしまいそうなほど強くて、なにか恨みを持っているような感じがした。
私は気がつくと、「不法投棄禁止」と書いてある看板がぽつんとあるが洗濯機、扇風機、車までもが捨ててあるところへ来ていた。でもなぜか生臭い匂いがした。こんなところに生ゴミまで捨てるなんて。
「ねぇ、リナちゃ~ん。ここはね、私の秘密基地なんだ~。み~んなここに宝物を捨てていくんだ~」
フテキな笑みを浮かべていた。見えなかった目が見えた。その目はつり上がっていた怖い、怖い、怖い。
自分は殺される。本能的にそう思った。気づくと彼女の手にはゴルフクラブが握られていた。
「あんた、引っ越してきたんだろ。どこかは知んないけどさ…でもねぇ…」
「どこから来たとしてもあんたは敵なんだよ!」
私は頭に強い衝撃を感じた。赤い液体が周りの木々についた。目の焦点が合わない。左目は上を向いているのに、
右目は下を向いている。汗が顔を滴る。いや、違う。これは血だ。血には鉄分が多く含まれている。
それがわかるくらい、気持ち悪いくらいに、鉄の匂いがした。上を向いている左目が頭を見た。
嫌だ死にたくない...
脳ミソが飛び出している。これが私の脳なのか。その脳ミソにはウジやボウフラがたかっていた。
嫌だ死にたくない...
「嫌だ...嫌だよ...死にたくないよ...嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
そんなことを最後に叫んでいた。
私は...死んでしまうんだ...
最後に見たものは、自分の脳ミソと狂気を帯びた少女そして、壊れた自分だった。
・・・
気がつくと、私は布団の上で寝ていた。