症「カコ」
「お前なんかいらない!お前なんて産まなきゃよかった!」
「お……お母さん……やめて……よ」
1972年2月10日。
大きな産声をあげ生まれた。後の如月リナ。
「……お父さん……私頑張ったよね……?」
―― お前なんて作らなきゃよかった ――
「……おとう……さん?」
如月ロナは如月家の長女である。如月家は代々女子しか生まれず、毎度問題となるのが跡継ぎ問題である。
ロナには妹がいる。名前をラナ。ラナは姉に異常なほど執着心を持っており、妹である私のほうが一番だと思っている。
そしてロナの不妊の原因。ラナからの暴力および精神的ストレス。
ロナを不妊治療を終えついに出産。しかし父からもう遅いと罵倒される。最後に父から聞いた言葉。
お前なんて作らなきゃよかった。それからロナは父親に勘当され如月家の家系図から消される。
*
あれから5年ほどたち、リナにも感情や物心なるものがあらわとなってきた。
「お母さん、あれ買ってぇ!」
「もう、しょうがないわね。一個だけよ」
この仲睦まじい光景。ロナとリナの会話である。この部分だけ聞けば仲の良い家族。
しかしこれは上辺だけの仲である。続きを聞いてみよう。
「うわ~ん!飴落としちゃったぁ!」
「……また買うの?」
「いやだ!あれがいい!探す!」
「……」
「お母さぁん!」
「さい……るさい……うるさいうるさいうるさいうるさい!」
これが本当の如月家。父は仕事が忙しく子育てに介入したことはほぼなかった。
「お前なんかいらない!お前なんて産まなきゃよかった!あぁうるさいうるさいうるさいうるさい!」
「お……お母さん……やめて……よ。やめてよ……」
「あの飴が欲しいんでしょ!だったらあげるわよ!ほら!食べなさいよ!」
そう言ってロナはリナの口に自分の人差し指を突っ込んだ。リナは苦しそうに嘔吐を繰り返した。
これは如月莉奈誕生の瞬間である。
私如月莉奈は如月リナの中にいるもうひとりの自分。
リナがすべての嫌な記憶を私に押し付けるために作った自分よ。
*如月ロナ
如月家の長女。拘置所にて死亡。50歳、死因自殺。