症「ムジンゾウ - 壱」
楽しいすき焼きパーティーは終わりを迎え、何か虚しいものだけが残る。祭りの後の喪失感。それが私を襲った。
ただ明日からユキと一緒に登校できると思うと、その虚しさはいつの間にか消えていた。その代り一つの感情が私を襲う。
謎。その感情は私に寝る暇も与えずに脳を刺激する。なぜかあの本。「無尽蔵にある夢のカケラ」に惹かれていた。どんな内容だろうか。物語なのか説明文なのかすらわからない。
私は思った。明日あの本を借りに行こう。
私は結局眠ることができず、ひどい顔のままユキと待ち合わせ場所に行った。
待ち合わせ場所は幸崎神社。鬼が丘にあるもう一つの神社だ。神主もいないし、結構ガタがきている神社だ。
社務所なんてものはもちろんない。ただその代りと言っては何だが温かみのようなものを感じた。
「……なんであんたがいるんだ……」
「私は雨宮月美!年齢は14歳!ただの女子中学生なのです!」
そこには当たりかのように見た目が雨宮の女学生がいた。
どうやら学校で調べたいことがあるらしくしばらく潜入調査(笑)をやるらしい。神様だからなのかは知らないが見た目を自由に変えれるらしい。
月美という名前は偽名。本当の名前はもっと長いらしい。
さて、私たちは学校までの道のりを一緒に歩くことにした。その途中夕依がこんなことを持ち掛けてきた。
「あっ…あのさぁ。私、部活を作ろうと思ってるんだけど……」
部活ねぇ。私の高校には部活がない。というより部活をする場所がない。
野球部やサッカー部は広い空き地が必要だし、文芸部や書道部には教室が必要だ。ただ私の高校にはそれがない。あるのは教室と職員室と仮設トイレだけ。
場所がいらない部活って何だろうか?私は思いついた勘で聞いてみた。
「夕依が作りたい部活って……宝探し部とか?」
私はとっさに思いついた単語。「宝探し」の部活か聞いてみた。
「……よくわかったね!なんでわかったのぉ!?」
やっぱり最近の私はどこか冴えている。すべての予想が当たる。面白いくらいに。
さて、私は気になるいくつかのことを聞いてみた。
「宝探し部って何をするの?部員の候補は?」
「活動内容は鬼ヶ丘村の秘密を探ろう……みたいな…? 部員の候補は一応はぅちゃんと、ユキちゃんと、雨宮…かな」
他校の生徒と部活するって、恐ろしいほどにフレンドリーな部活だ。
と夢中になって話しているとすぐに学校についた。体感時間は3分。実際に歩いた時間は15分。
「はい!今日は数学抜き打ちテストをします!勉強していない生徒はコチョコチョの刑ですよ~」
始まった。担任青山特性抜き打ちテスト。うちの学校では定期テストがない代わりに2カ月に一度程度、いつあるかわからないテストがある。
テストの内容自体は難しくないものの、40点以下の点数を取ると教壇に立たされ先生からコチョコチョされる。
大人なら何だこれくらいかと笑ってしまうくらいにバカバカしいが、高校生にとっては羞恥をさらすことになってしまう。
「さて、先生は夕依さんから部活制定の申請を受けているわけですが……夕依さんとリナさんが70点以上をとれば受け入れます」
「ただし、70点以下であるようなら……コチョコチョをいつもの100倍にします!」
これを聞いた夕依は絶望の顔を見せていた。夕依の苦手教科は数学。で今日の教科は数学。つまり結果は見えているも同然。
「うぅ……宝探し部……早くも崩壊の危機!」
夕依の額に冷や汗がポツポツと現れる。すると急に鉛筆を握りしめ、悪あがきのように数学の勉強をし始めた。
それはまるで食べられる前のカエルのように。ジタバタとしているだけだった。
それから10分ほどたった。青山は無慈悲にも試験開始を命じた。
私は別に難しいテストでもなかったので残り時間13分を残しテストを終えた。テストを終えて教壇の机においたら自由に席を立っていい。
もちろんしゃべることはできないが、祈ることぐらいなら許される。
私はすぐさま席をたち夕依の方を向いた。顔にはやはり汗が流れていた。私は思った。
このままだと宝探し部はできない。