1/35
記「ハジマリ」
―― W120584 ――
1989年、つまり平成元年の二月。
私はある村へ引っ越してしまう。
親の仕事の都合でだ。
私の親は仕事でやらかすことが多いらしい。
いや、知っている。
私の父は堀口組から逃げているのだ。
堀口組は「一度貸したものは20倍で返してもらう」
のスローガンで有名なヤーさんだ。
私の親は多額の借金をしている。
額は正確には知らないが、おそらく500万以上。
堀口組換算だと1億円。
私は親も引っ越しも気に入らなかった。
学校では友達が出来てもすぐに他人になるし、
お気に入りの喫茶店もすぐに行けなくなってしまう。
引越し先は「鬼ヶ丘」
山を切り崩して作った土地らしい。
ド田舎ってわけじゃないけど、
都会って言われると違和感がある。
「田会」って感じだろうか。
鬼ヶ丘がどんなところだっていい。
もう引っ越したくはない。
ずっとこの村にいたい…
ずっと…