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8話 ネコ科です

 夜の墓場っていうのは何故か怖いよね。


 アメリカだとゾンビが出てくるし、日本だと幽霊が出てくる。


 ゾンビは身体はあるけど魂はなくて、幽霊は逆に魂しかない。


 それぞれの文化色が出てておもしろい。



 今俺は夜の墓場のベンチにいる。


 やっぱり墓場は日中に来るものだよ。


 腕時計を見ると、もうそろそろきてもいい時間だ。


 俺は飲み干した缶コーヒーを潰す。


 調子乗ってブラックにしちゃったから飲むのが大変だったよ。


 カバンを開いてミストルティンを取り出す。



 ちょうどそのとき目の前の空間が丸く歪んだ。


 背景が曲がって見える。


 博士の言う通りならこの後すぐに化け物が出てくるはず。


 俺はジュエルを取り出しす。


 左手で服のボタンを全部開けて、右手を左肩の少し上に構える。


「変身!」


 右手を振り下ろすように下げてジュエルを装着する。


 身体が光に包まれる。


 すぐに収縮が始まり、服が入れ替わって変身が完了した。


 やっぱり男なら変身って単語を聞いたらね、やりたくなっちゃうよね。


 変身ポーズ。



 ちなみに変身なんだけど博士がいろいろ改良した結果、前回は20秒くらいかかっていた変身だが5秒ほどに短縮されていたりする。


 相変わらずすごい。



「っと、来るか?」


 歪んだ空間はそのまま渦巻き、中央から開いていって紫に光る壁が現れる。


 そしてその壁から化け物が出てきた。



 口元は人と似ているけど収まりきっていないキバが人ではないことを物語っている。

 そもそも、その巨体と黄色と黒の二色で構成された身体をみた時点で人じゃないことは明らかなのだが。


 眼窩が細長く伸びていて、瞳が見えない。

 耳が丸くて尻尾が長いけど、全体的に凶悪なフォルムだ。


 ネコ科っぽい見た目だが、可愛くはない。



 俺は右手でミストルティンを持つ。


 化け物がこちらを見ている。


「イィィィィィ」


 化け物の目が赤く光った。


 ⁉︎


 消えた⁉︎



 化け物がいた場所には土煙だけが残っている。



「ヌゥ!!!」


 正面!!


 俺は咄嗟に剣の腹で身を守る。


 瞬間、化け物の右ストレートが剣に直撃する。



 ガァァァァァン!!!


 激しい金属音が鳴り響く。



 ぐぅ、手が痺れる。


 敵がまた消えた。



 左!!


 敵が殴る直前、一瞬だけ見える!


 俺は剣の腹で防御をする。


 すぐさま敵の左手が衝突した。



 ガィィィン!!


 さっきより威力が弱い?



「イィィィヌゥァ!!」


 両手から間髪入れずに大量のパンチが飛んできた!


 見えるか見えないかギリッギリの速度のパンチの嵐に俺は必死に耐える。



 ガガガガガガガガガガガガガガ



 くぅぅぅ!


 まずい!

 防御に手一杯で何もできない!


 無茶をしてでも反撃して何か切り口を作らないと、どうしようもない!



 俺はパンチの合間をぬって剣を押し出して振るう。


 思わぬ反撃に敵は怯んで斬りつけられたかと思ったが、すでにそこに敵はいなかった。


 剣を空振りすると必ず隙が生まれる。


 瞬き程度の瞬間のそれを敵は見逃さなかった!



「ぐふっ!」



 ほぼ水平に飛んだ俺の身体がフェンスに叩きつけられる。


「がはっ」


 口から血が出てくる。


 身体中が死ぬほど痛い。


 そして骨が折れたのか、足が動かない。



 敵が歩いてくる。


 まるで“トドメだ”とでも言わんばかりに腕を振り上げる。



 ミ、ミストルティンがない⁉︎


 いやだっ!死にたくない!!



 俺は思わず目をつぶってしまう。



 胸に何かがぶつかる。


「ひっ」


 でも殴られたにしては弱すぎる衝撃だ。


 目を開くと、膝には化け物の手が乗っかっていた。



「手出し、させてもらうよ」



 俺と化け物を挟んだ位置にいたのは、全身黒い服を着た女の人。


 その両手にはクナイを持っている。


 たしか博士に八号と呼ばれてた人だ。



「イィィィィィィィヌゥゥゥゥ!!!」


 左手が切り落とされた化け物が吠える。


「あなたは初めて見るわ。新しい型かしら」



 化け物が右ストレートを放つ。


 俺が防ぐだけで精一杯の攻撃を八号はいとも簡単にかわして、クナイで下から腕を串刺しにした。


「ボスに報告しなくちゃ」


 化け物のすでに再生した左手が八号へ襲いかかる!


 八号はそれを当然のように避け、さらに腰からクナイを取り出して左手も串刺しにする。



 両腕を潰された化け物は逃げようとしたが、八号はそれを許さなかった。


 すぐに敵の正面に回り込んで胸をX字に斬り、胸を蹴って跳ねる。


「イィィヌゥァァァァア!!!」


 紫の粒子が溢れ出し、化け物が叫び声をあげる。


 八号はX字の傷の中心にクナイを投げ刺す。


「終わりよ!」


 ワンステップ、ツーステップからの回し蹴りでクナイは完全に化け物の胸の中に沈み込んだ。



「イィィィィィィヌゥゥゥゥゥゥ………ニャン」


 断末魔と共に化け物の身体が光の粒子となって消える。


 刺さっていた5本のクナイが八号の元へ飛んでいく。



 綺麗だ。


 見事な完封勝ちだ。



 対して俺は完敗。


 何もできなかった。



「大丈夫、なわけないよね。動ける?」


 目元まで布で覆われてるせいで表情はわからないけど、心配そうに声をかけてきてくれた。



 そういえば、もう身体のどこも痛くない。


 足も普通に動くようになっている。



「大丈夫みたい、です」


「あれ喰らって大丈夫だったの⁉︎」


 八号は驚いたように言った。


 俺は頷いた。



「よっぽどいい当たり方したのかしら。それにしたってありえないわ。ゲルツハイム様が何かやったのだとしたら納得できなくもないけど。そもそもなんでこんなにちっちゃい子に戦わせてるのかも分からないわ」



 八号はなにやら高速でつぶやいているが、ほとんど聞き取れない。



 俺が立ち上がると八号が話しかけてきた。


「わぁ、本当に大丈夫なんだ」


「あの、助けてくれてありがとうございました」


「いいのいいの、大丈夫だよ。でもね」


 八号は真剣な眼差しで俺を見る。



「ここは私が守ってるから戦わなくてもいいんだよ?どうして君は戦ってるの?」


 どうしてって言われても、答えられない。


 俺は黙り込んでしまう。


「ゲルツハイム様が絡んでるってことは、君には何かあるんだよね。

 君がどうしたいのかは分からないけど、戦う理由の一つや二つははっきりと決めておいた方が強くなれるよ」



 俺が戦う理由。


 漠然としててよく分からない。



「決めなくてもいいよ。ここらのウバグージは私が全部倒すから」



 でも俺はあいつらを倒さなきゃいけないんだ。



 そこに理由はなかった。


 心の底から浮かび上がって来る気持ちだけが存在していた。



「っ!ボス」


 八号が誰かと話し始めた。


「はい、倒しました。おそらく新型です」

「すぐに映像を送りますね」

「博士には送らない、ですか」

「エサですか、うまくいくといいですね」

「はい、極力すぐに送ります」

「はい、失礼します」



「ごめんね、もうちょっと話したいこともあったんだけど、そんな時間はないみたい」


「待って!」


 まだ何も分かってない!



「ごめんね、今は待てないんだ。

 もし次に会うことがあったらいろいろ話してあげる。

 君が戦い続けるなら、また会えるはずよ」



「っ!」


「君の名前も、その時に聞くことにするわ。

 またね」



 そう言うと八号は土煙を残して消えた。




 再び静寂に包まれた墓場には、一本の剣が突き刺さっている。


 墓石たちがピンク色の光に照らされる。



 俺が戦う理由。


 博士にやらされてるからっていうわけじゃない。


 でも理由らしい理由なんてどこにも見つからなかった。



 だから負けたのかな。



 ジュエルを持った右手がやたらと重い。


 ざわめく周囲の音全てが俺を嘲笑っているかのようだ。



 帰ろう。



 俺はこれ以上この場所にいたくなかった。


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