6話 俺、死にかけてたってよ
説明回みたいなものです。
たぶん他に比べてつまらないと思います。
家に帰ると人の気配がなかった。
それは当たり前であったことなのだが、今朝からはそうではなくなっている。
今思えば普通に不法侵入なんだけどな。
そう思って靴を脱ぐと玄関の先、トイレの前の床に穴が空いた。
いや、正確には床が‘開いた’。
おかしい。絶対に何かがおかしい。
しかも下に階段が通じている。
俺はもう全てを察した。
こんなことする人間、1人しかいねーんだわ。
俺は荷物を置いて下に降りることにした。
体感2〜3階分くらいだろうか、やたらと長い。
降りた先の扉に近づくと、ガシャっという音を立ててスピーディに扉がスライドした。
その先は、なんかラボって感じ。
全体的に白く、清潔感があって色々な物が置いてある。
問題があるとすれば全てなのだが、特にやばいのが、明らかにここが家の敷地よりも広いことだ。
口をあんぐりと開けて絶句していると、博士が片手に靴を持って歩いてきた。
「ようやくお披露目じゃの。ここがわしの新しい研究施設じゃ。どうじゃ、すごいじゃろ?」
まあ、すごい。すごいんだけどね、
「俺の家が改造されてる!しかもこんなでかいのいつから⁉︎」
「だいたい1ヶ月くらい前からかの?」
「イッカゲツ!!」
ななな、なんてことだ!
「安心しろ、使ったのは昨日が初めてじゃよ?」
なんにも安心できないよッ!
ん?昨日?
「博士、昨日って俺」
「そうじゃな、そこらへんをしっかりと話す必要がある。ついてこい、ちと長くなるぞ。」
やっぱり昨日のあれは夢じゃなかったんだな。
いや、今更その感想もおかしいか。
とりあえず俺は靴を履いて博士についていく。
連れられた部屋には少し大きめのモニターがある。
机を挟んでお互い対面に座った。
「まず結論から言おう。緋空、昨日意識を失っていたとき、お前は死にかけていたのじゃよ」
衝撃の事実!
「あれはけっこうやばい状態じゃったの」
博士はホッホッホと笑っている。
「笑い事じゃないんですよ…」
あのまま二度と目覚めなかったのかもと考えたら怖くなってきた。
「まあ、今からいろいろと話してやる。質問は随時受け付けてやる。わかったかの?」
俺は首を縦に振って続きを聞くことにする。
「まず、お前が肉体の形状と特性を変えることを変身と言うことにしよう。
変身するとき、お前の肉体は全て別の物質に変えられておる。
一度変換してから再構成するため、ミストルティンはお前を女と認識してくれるのじゃな。」
んー、全然分からん。
あと、ミストルティン?とかいう知らない単語も出てきた。
「もっとわかりやすくお願いします!」
博士はため息を吐いた。
思ったより説明するのが面倒くさいことに気付いてしまったようだ。
「あとミストルティンってなんですか?」
俺はなにも知らないんだ。
博士には頑張って俺に教えてほしい。
「ふーむ、じゃあまずはミストルティンについてじゃが、説明できることはほとんど無いの」
博士も知らないんだ。
なんか意外だな。
「分かっていることは2つ。
ひとつはあれが8年前に見つかったこと。
もうひとつは何故か女にしか扱えないことじゃ。」
「つまり、ミストルティンは女にしか扱えないから俺を女にしたってことですよね?
だったら最初から女から選べば良かったんじゃないですか?」
「普通ならな。」
そういって博士はモニターのスイッチを入れた。
それぞれ全く見た目の違った10個の武器の写真だ。
その中には昨日女の人が持ってたクナイと、俺が使った大剣があった。
「ミストルティンは10個、しかし使用者は9人しかいない」
「なんでです?」
「最後のミストルティン、この大剣だけは誰にも扱えなかったのじゃよ」
でも、間違いなく昨日俺は扱えてたはず。
あれ?
ふとした疑問が浮かんできた。
「そもそも扱えない人が使ったらどうなるんです?」
「鈍になる。紙一枚すら切れなくなるのじゃよ。」
なるほど、扱える人が使う必要があるわけだ。
「それで、誰も使えなかったミストルティンをお前が使えた理由が」
んー、なんとなく察した。
「ジュエルってわけですか」
「正解じゃ。拾い物を改造したら上手くいって嬉しかったぞ」
でも、ジュエルを使う人に俺が選ばれた理由が分からないな。
絶対に俺よりも適任な人はいると思うんだよね。
「話が逸れたな。お前が死にかけた原因なんじゃが、ものすごく簡単に言うなら過労じゃ」
過労ですと!?
「俺、毎日ちゃんと6時間は寝てますよ!」
「お前は過労をなんだと思ってるんじゃ…」
働きすぎなければかからない病気じゃないの?
知らんけど。
「とにかく、お前は変身するとき肉体を一度別の物質に変質させて……
これじゃ分からないんじゃったな…」
はい!わかりません!!
俺は頷く。
「これまたものすごく簡単に言うなら、うーむ、そうじゃな、蝶の幼虫と成虫みたいなものかの」
ほう?
「今の俺は幼虫ってことであってます?」
「そんなところじゃ。ただ違うところは成虫が完成形ではないってことかの」
ふーん、なるほどね。
「それで、完全変体する虫は全部そうなのじゃが、蛹になると身体がドロドロの液体に溶けておることは知っておるかの?」
「なんか聞いたことはありますね」
どこで聞いたのかな?
中学生の頃授業でやったのかな。
そんな気がする。
「ならば良し。まあ、これはあくまでただのイメージじゃ。実際起きてることは全然違うが…
お前は知らなくてもいいじゃろうな」
知ろうとしても理解できないだろうしね。
「さっき、わしはお前に変身するときに一度まったく別の物質に変えられると言ったな。
その“別の物質”が蛹の中のドロドロと捉えてもらって構わない。
そして、わしはこの物質をメタモルジンと名付けた」
「じゃあ俺の身体は変身するとき溶けてるんですか?」
全然想像できないが。
「メタモルジンになった、と捉えておけ。
虫と違って溶けているわけではないからの。」
メタモルジンね。
よく分からないけど、そういうことにしておく。
「それでお前、変身したら今より小さくなるじゃろ?
するとメタモルジンに余りが発生するのじゃ。
そして、ジュエルはその余りのバッファとしても機能しておる」
すげーなジュエル。
変身させるだけじゃなくてバッファとしても使えるなんて。
「そして、一時的に保管されたメタモルジンはお前が身体を使うときに最適な部位に転送され、お前の動きを補助するのじゃよ。
いや、補助というより強化の方がいいかの」
だから俺はめちゃくちゃ速く走れたし、空高く跳べたし、あんなにでかい剣を軽々と振るえたのか。
「あの力が湧き上がるような感覚もメタモルジンのおかげですか」
「いや、それはわしのせいじゃ」
「え?」
「わしが追加で付けた機能のせいで、転送されたメタモルジンがジュエルに戻らなくなっておったようじゃ。
そのせいで全身にメタモルジンがあり続けたから力が湧くように感じたのじゃな」
なるほど?
「それで全身に負荷がかかり続けた結果、過労状態になったのじゃな。
特に心臓は止まりかけておったから、それがお前が死にかけた直接の原因じゃろう」
あれ?
つまりそれって
「俺が死にかけたのって博士のせいってこと⁉︎」
「まあ、結果的にはそうじゃが、殺す気なんて無かったぞ?それに科学に失敗はつきものじゃ。」
「殺す気なくても殺しかけたんですよね⁉︎」
「ふむ」
博士はおもむろに白い液体が入ったボトルを取り出した。
「それは?」
「硫酸バリウムじゃ」
たしか、胃のレントゲンとか撮るときに使うやつだっけか。
「科学に失敗はつきものじゃ。しかし同じ失敗を繰り返さないようにするのも科学じゃ。」
博士は立ち上がって、ニヤリと笑った。
「さあ、実験に付き合ってもらうぞ」