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5話 翌朝、そして日常へ


 ジリリリリリリリリリリ


 目覚まし時計は自らの役目を果たすために鳴り響く。


 ご主人様は有能だ。

 だからこそ目覚まし時計は目覚まし時計でいられる。


 「んーっく、あーねみぃ」

 

 侑斗は時間通りには起きれたが、いつもより身体が重い。


 それにしても変な夢を見た。


 白衣の人に誘拐された先で化け物と戦ってる女の子がいて、その化け物と女の子になった俺が戦うっていう変な夢。


 しかも、その化け物が‘あのテロ’の犯人の仲間っていうんだから現実味ないよな。


 でも、手に残る敵を斬った感触がやけに生々しい。


 俺は何かを確認するように手を開いたり閉じたりしながら階段を降りた。


 ⁉︎


「なっ!な、ななっ、なんで⁉︎」


 思わず二度見してしまった。


 だってリビングにいるんだもん。


「なんで博士がいるんだよ⁉︎」


「一旦冷たくなってるはずなのになかなかうまい。緋空、お前料理の才能あるんじゃないかの?」


 リビングで堂々と食ってるんだもん!


「しかもそれ俺の朝ごはん⁉︎」


 博士はやれやれといった感じで言った。


「これしかなかったのか、まったく仕方のない。」


 え、俺なんにも悪くないよね?


「緋空」


 そう言うと博士は俺を手招きした。


「なんです…?」


「ほい」


 渡された。


 カロリーメイトゼリー。


「え?」


 博士はもぐもぐと俺の朝ごはんを食べている。


「ちょっと?」


 博士は箸を止めた。


「昨日の時点で起こせる状況になかったからの。栄養剤を打ち込んでおいたぞ。まあ腹は空くと思うけど我慢してこれだけを食っておけ。」


 「あーはい、朝飯抜きは確定なんですね分かりました」


 俺は悲しみの返事を返すしかなかったよトホホ。


「ところで時間は大丈夫かの?」


 え?


 俺は時計を見てみる。


「やばいやばいやばいやばい!やばいじゃん!!」


 俺は焦って走り出す。


 急いで着替えて、カバンを取るために戻ってくる。


「いろいろとやりたいことがある。今日はバイトが無いのは知っておるから早めに帰ってくるのじゃぞ」


 言いたいことはたくさんあるけど、時間がない。


 俺は答えずに玄関にいく。


「いってきます」


 しまった!


 いつもの癖で言ってしまった。


 聞かれたことが恥ずかしくて、俺は急いで家を出て扉を素早く閉めるために押し込む。


 扉を閉め切る寸前、聞こえてきた。


「いってらっしゃい」


 思わず硬直してしまう。


 どこか懐かしい言葉の響きが、少し嬉しかった。


 俺は全力で走りだす。


 なるべく家から距離をとるように。


 今の気持ちを忘れるために。


 俺は一瞬でも嬉しいと思ってしまったことが悔しかった。


 そして、俺に悔しいと思わせる原因を作った人間が、ただただ憎かった。




 学校には無事間に合った。


 それから2時間の授業を受けて、俺は空腹を紛らわすために寝ようとする。


「おい玲、見ろよ。侑斗がダレてるぜ」


「本当だ。これはすでに覚悟ができてるとみたよ」


 机に突っ伏している俺の耳に何か聞こえてくるが無視する。


 すまんな2人とも、今の俺に何かをする気力はないんだ。


 頭に何かが乗った感触がした。


「ほい、次お前の番だぜ」


 さらに何かが乗った感触。


「どうぞ」


「なにぃ!筆箱を縦向きにだと!負けねぇぞ俺は!」


 さらに何かがズシリとくる。


 かなり重い物が乗ったな?


「ふっ、面の広い辞書とはね。悪いけど勝負を決めさせてもらうよ」


 今度はなんなんだ?


「さ、30センチ定規!卑怯だぞ、玲!」


「夏樹君、この世には‘勝てばよかろーなのだ’っていう言葉があるんだよ?」


「くぅこのっ!おい、ちょっとイス借りるぜ」


 カコン、カコンと音がした。


 そうとう慎重にイスを動かしたようだ。


「どうだ!昼飯のエイトトゥエルブのパンだぜ!」


 クラス中から‘おぉ〜〜’っていう声が聞こえてくる。


「ここで形を変える不安定なパンを選ぶとは、やるね、夏樹君。」


 まずいぞ、これは。


 もしここで俺が動いてしまったら、クラスの全員から大バッシングをくらうだろう。


 プ、プレッシャーが…


「負けるな智中ー!」

「いけるいける」

「緋空動いたらぶっ殺すぞー」

「なにやってんだこいつら、もっとやれ!」

「もっと攻めろ!」


 もはやヤジすら飛んできてる。


 ってかなんか聞こえた!やばいやついるって!!


 そんな感じでさらに3ターン。


 この間、俺はピクリとも動いていない。


 みんなもっと俺を褒めてくれてもいいんじゃないの⁉︎



 そして1人の女子が出てきた。


「私のリップ使ってもいいよ」


「いいのかい?じゃあ使わせてもらうね」


 ちっ、玲のイケメン野郎が。

 ちょっとばかしモテるからっていい気になってんじゃねーぞ?


 そしてクラス中から歓声があがる。


 人さらに増えたか?


「日和ったな、玲!俺は勝ちにいくぜ!」


「君がどうこようと、僕はそのさらに上に乗せるだけさ!」


 ナツが机に登る音がする。


 クラス中が静寂に包まれ、誰もが緊張感を露わにしているのが肌で感じられた。


「……っと………よしっ!」


「「「おおおおおぉぉぉーーーーー!!!!」」」


 静寂が歓声に変わって、ものすごい盛り上がりを見せている!


「これは智中詰んだだろ!」

「いや、智中ならあるいはあるか⁉︎」

「それになんだあの異様に尖った鉛筆は!」

「そもそもなんで鉛筆なんてあるんだ⁉︎」

「知ってるわ!あれは美術部特有のデッサン鉛筆よ!」

「でもいったい誰が?」


「ぼ、僕だよ」


「田所君!」

「クラス唯一の美術部員、確かに君しかいない!」

「でも田所君ってあんまりこういうことしない印象だったから意外だわ」

「確かに」

「それほどまでにこの勝負が熱いってことだろ!」

「どうでる智中!」


 いったいどんな感じになってるんだ⁉︎

 写真が見たい!写真が!


 クラスのとてつもない盛り上がりに智中は答えるように言った。



「生半可な覚悟では勝てないようだね。でも僕はあきらめ「コークスクリューショット‼︎」」



「「「ああっ!!?」」」



 突如飛んできたチョークの弾丸によって、俺の頭上の建造物は崩壊した。


 もちろん瓦礫は俺に降ってくるわけで


「いてっ、いてててっ」



「あきらめろ馬鹿野郎。もう授業始まってるぞ」


 この声は担任だ!


 もちろん教室はブーイングの嵐だ。


「なんでことを!」

「先生ひどい!」

「いくら担任だからってそりゃないよ!」

「非道だ!」

「ちくわ大明神」

「ないわーないない」

「わーわー」

「誰だ今の」


「隣のクラスから苦情が来たんだぞ。流石の俺もちょっと怒ってるからな。」


 先生怒ってるの?


 大丈夫、たぶん俺は悪くない…よね?



 一人の女子が言った。


「先生、これが青春ってやつですよ」


「む、うーん。それじゃあ仕方ないのか。」


 なぜか許された。


 なんで?



「よし、苦情は全部先生が受け止めてやる!でも次からは気をつけろよ。」


「「「「はーい」」」」


「時間ないから号令はしなくていいぞ。じゃあ巻いていくからな」


 授業が始まるかと思ったその時、1人の女子が手を挙げて話し始めた。


「せんせーい、なんで先生は来るのが遅かったんです?」


 あ、言われてみれば確かに。


 先生が来たの授業開始時間よりも全然後じゃん。


 クラスのみんなもハッとしたような顔をしている。


 先生は明後日の方向に目線を向けて、頬をヒクつかせながら言った。


「しょ、職員室で苦情言いに来た先生に起こされるまで、ね、寝てたから」



 教室はさっき以上のブーイングで包まれた。



 俺も参加したかって?


 もちろん。


 全力で叫けばしてもらったよ。


 笑いながらね。


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