悪役令嬢が全てを捨てて魔法使いの弟子になったりするだけ
もしよろしければアルファポリスの方もよろしくお願いします。
どうせ捨てられるのならこちらから捨ててやるわよ!
私はキャロライン・ロイヤルフェザー。公爵令嬢。婚約者はこの国の王太子、レオナルド・オラクル殿下。私は正直に言って家族とも婚約者とも上手くいっていない。
実の母は私が幼い頃になくなり、今の継母は当時の父の愛人。当然のように私は邪魔者扱い。うちには男子がいないから、継母の産んだ娘が遠縁の親戚を婿に取り、ロイヤルフェザーを継ぐことになっている。…いや、なっていた。
しかしこの継母の産んだ娘…一応、腹違いの妹はやり手だった。ありもしない私からの虐待をでっち上げて、私の婚約者を見事に寝取ったのだ。相談女というやつだ。で、私とは婚約破棄、新たな婚約者の座には忌々しいあの妹。ロイヤルフェザー家は元々妹の婿になるはずだった遠縁の親戚がそのまま継ぐことになった。
で、私はというと。王太子殿下から正式に婚約を破棄されて、その後釜にあの妹がおさまった時点でもう国すら見捨ててとっとと出て行くことにした。
着の身着のまま国外に出た私は、しかし行く当てはあったのでそのまま、隣国にいる知り合いの魔法使いのところに行く。
「アロ、いる?」
「もちろんいるとも。やあ、キャロル。面白いことになったようだね?」
「そうなのよ。あいつら、私が聖女であることすら知らないで私を邪魔者扱いした挙句に冤罪まで着せて、しまいには婚約破棄よ。呆れたわ」
アーロゲント・ウィザード。私の唯一の異性のお友達。魔法使いで、千里眼持ち。人嫌いなくせになぜか私には甘い。
「まあ、国を出るにはちょうどいい切っ掛けになったじゃないか」
「まあねぇ」
「そもそも、君が聖女だと誰にもバレずに済んだのは彼らの無関心のおかげだし」
とんがり帽子を脱ぎながら彼は言う。まあ、その通りよね。
「君の国では、十五歳になる少女には教会で聖女認定式が執り行われる。もちろんハズレの年もあるけれど、毎年やるのが恒例だね」
「ええ。そして、両親からも婚約者からも疎まれていた私は見事に仲間はずれにされたわ」
「で、その年は本当なら君という大当たりがいたのにハズレの年だと思われていたね」
「まあでも、聖女なんかに認定されて、一生教会に閉じ込められるよりは今の状況の方がマシね」
「それは良かった。…行くところはないんだったね?」
「ええ」
「それなら早速だが、私の弟子にならないかい?きっと君と過ごす日々は楽しい」
「衣食住を保証してくれるならね」
「それは良かった。実は君が婚約者破棄された時点からハウスシェアの準備をしていたんだ」
「行動力すごいわね、貴方」
「それだけが取り柄さ」
さて、アロの言う通り私は聖女として大当たりだ。ただいるだけで、国を守れる。元々聖女は、酷い災害に見舞われる年にこそ力の強い聖力を得る。特に何もない年には聖女すら誕生しないのが常だ。私の加護は隣国であったこの国に移った。さて、我が祖国は天災、人災、魔物の被害にどこまで耐えられるかしら。
ー…
アロの弟子になって数ヶ月。我が祖国は灰燼と化した。魔物に襲われたらしい。平民達は幸いにも重傷者も出さずにこの国に来られたけれど、貴族や王族は何故か集中的な攻撃を受けて壊滅したらしい、いい気味ね。まあ、平民達だけが無事だったのは私の祈りのおかげ。平民達に手を出せなかった魔物達が貴族や王族を嬲ることになるとは予想していたけれど。王太子と両親と妹には恨みがあるし、あの婚約破棄の場で私を嘲笑った貴族や王族のことは忘れない。これは報復よ。
ところで、私の魔法の適性はというと、実は全然ない。聖女の力とはまた別だし。魔術は得意なんだけどなぁ。
「キャロル。ヒーリングは使えるようになったかい?」
「多分…どう?」
「とても上手だね」
また上手いことばかり言って!
「もう!私は真面目にやっているのよ!」
「うん、私も素直に褒めているさ」
もう、アロったら。
「ねぇ、キャロル」
「なに?アロ」
「月が綺麗だね」
「貴方となら死んでもいいわ」
「…回りくどいのは似合わないね。私達、そろそろ付き合わないかい?」
「…結婚前提ならいいわ」
「なら、交渉成立だ」
こうして私は、魔法使いにとって特に役にも立たない弟子から、弟子兼愛おしい恋人になったのでした。
結局は全部が手に入った魔法使いの独り勝ちかも?