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1.逃亡

息抜きに書いてたんだけど、読者の反応が欲しくなったので「もういいや!投稿しちゃえ!」ってなったやつ。


「──まだ近くに居るはずだ! 追え!」


 どうしてこんな事態になってしまったのか……まだ幼い主君の手を引き、王城の赤絨毯の上を走りながら私は苦悩する。


「はぁっ……はぁっ……」


 神聖エル・ドラド王国……竜神の血を引くとされる王族が支配するこの国で政変が起きていた。

 偉大な王が統治し、平和を謳歌していたこの国で玉座の簒奪が行われようとしている。

 第一子を産んで直ぐに亡くなられた前王妃様の後釜として入った妃がとんでもない毒婦だった……まさか大臣と密通して王を毒殺し、まだ幼い第一王子の暗殺を企てるなんて。


「クロエ……?」


「っ! ……大丈夫ですよ、殿下。必ずやこのクロエが御身をお守り致します」


 亡くなった前王妃と陛下から……私が忠誠を誓う至上の方々から託された大事な忘れ形見である、幼い主君に微笑んで見せる。

 私がハーフエルフであっても差別せず、ただ実力だけを見て、まだ九歳の小娘でしかなかった五年前の私を従騎士へと引き立てて下さった恩義ある方々の最後の命令──いや、お願いを果たすべく……私はただ走る。


「居たぞ!」


「……っ!」


 前方の通路の曲がり角から出て来たかつての仲間(裏切り者の敵)を視認し、不安そうに私の服の裾を掴む殿下を下がらせる。

 数は正騎士が二人、私と同じ従騎士が四人、平の兵士が十六人……全部で二十二人だけど、さらに後方でメイドが走って行ったのを見るに、時間を掛けると増援が直ぐに来るだろう。


「……クロエ、上官命令だ。その子どもを引き渡せ」


「私に命令できるのは〝黄金の血〟に連なる方々のみです」


 かつての顔見知り……それもご飯を奢って貰い、相談にも乗ってくれた元上司を斬るのは心が痛む──が、それはそれ。私は優先順位を間違えない。

 例え顔の知らない親や兄弟が相手であろうとも、私は殿下の命を守る為ならば誰であろうと斬る。


「簒奪者に与する愚か者よ、お覚悟を」


「……相手は従騎士の小娘一人と侮るなよ? あの『妖精剣』が相手だ」


 本来なら一年後の成人の日……正騎士へと叙任される時に陛下から賜るはずだった細剣を腰から引き抜く。

 殿下と一緒に託されたその宝剣は、鈴を鳴らすような耳に心地よい音色を立ててその艶やかな刀身を空気に晒す。


「ジークハルト殿下、どうか私が良いと言うまで目を瞑っていて下さい」


「う、うん。……クロエも、気を付けて」


「勿論ですとも」


 まだ五歳だと言うのに気丈に振る舞う主君から逆に心配の声を掛けて頂いて奮い立たない従者が居るだろうか……いや、居ない。

 健気に私の言う通りに目を瞑る殿下の為にも、ここは──


「──手早く終わらせます」


 風の魔術を発動し、元上司達の眼球を目掛けて小さな風を発現させる。


「こんなそよ風如きが──」


「いえ、十分です」


 突然乾いた風に目を舐められ、目蓋を視界を狭める元上司達。それが致命的な隙です。

 同時に私の足裏から空気を押し出し、一息に加速して懐へと潜り込んだ。


「──シっ!」


 先ずは先程最期の言葉を交わした元上司の首を()ねる……月明かりに照らされる薄紅色の刀身の剣閃と、細かく降る赤い霧雨がこの絢爛豪華(けんらんごうか)な王城の通路を戦場へと塗り替える。

 細めた目を開いて直ぐに視界に飛び込んでくるその変化で、(ようや)く敵も戦闘開始を悟ったようだ……とても、遅い。


「おのれ、正騎士様を殺すなんて!」


「忌まわしいハーフが!」


 ……表面上は仲良くしていたはずの元同僚から投げ掛けられる罵声に心を閉ざしながら剣を振るう。

 上段から振り下ろされる一撃を膝を曲げながら半回転する事で避け、目の前の元同僚がそのまま剣を振り切ったと同時に曲げたを膝を伸ばし、脇下から抜き出すようにして振るった細剣で首を()ねる。

 そのまま首を失った元同僚の死体に体当たりをする事で後衛から突き込まれた槍への盾とし、仲間の死体を貫いた動揺と、単純に男性一人分の重量が嵩んで動きを止めた槍の穂先を掴んで引き寄せる。


「うおっ──かひゅっ」


 距離が足らず、細剣の切っ先で喉を掻き切るだけに留まるがそれで良い……悶え苦しむ槍兵の首から噴き出す血飛沫によって幾人かの目が潰された。

 そのまま彼らが目元を拭うまでの時間を利用し、反転……目敏く目を瞑って蹲る殿下へと手を伸ばす従騎士の一人へと向けて、槍に貫かれた死体が持っていた剣を投擲……頭を貫く。


「貴様ァ! 騎士らしく(・・・・・)戦わんかぁ!」


「……あなた方如きに私の騎士道(・・・・・)は勿体ないので」


 憤慨する元上司その二の正騎士サマには悪いけど、事実として今この場で騎士らしく戦う事に必要性を感じない……手加減する訳ではないけれど、今はこれが一番効率が良いのも事実。

 少ない労力で、最大の成果を……まぁ忠義も何もないハリボテ騎士には分からないかな。


「囲め! 囲んで袋叩きにしろ!」


 いやいや、それは悪手でしょう……こんな横に五人が並ぶがやっとの狭い通路……武器を振るうならさらに狭くなるこの場所で団子になってどうすると言うのか。

 仲間を巻き込まない様に突くか振り下ろししか出来なくなった敵の攻撃を読むのは容易い。

 剣が振り下ろされる前に脇下を通り、無様に晒されたその脇下から肩へと細剣を振り上げて片腕を斬り飛ばす。

 頭上を降り注ぐ血飛沫に隠れ、軸足から半回転……隻腕となった兵士の背後へと回り込み──そのまま蹴り飛ばして私が居た場所(お仲間の集中攻撃)へと押し込む。


「きさっ──?!」


「よくもっ──?!」


 喋るよりも前にまず手を動かすべき……なぜ先にこちらへと振り向くのが武器ではなく、自身の顔なのか。

 間抜けな二名の額と首に、それぞれ細剣による高速の二連突きで孔を空けて始末する。

 ……さすが陛下から下賜された宝剣だけあって、人間の頭蓋骨も簡単に通す。凄い。


「死ねっ!」


「くたばれっ!」


 先ずは動きを止めようと言うのだろう……私の胴体目掛けて幾つもの槍が突き出される。

 まぁ狙い自体はまぁまぁ良いけれど、私を相手にするにはそれだけでは不足かな。

 その場でそのまま軽く跳躍し、突き出された槍の群れの上へと音もなく着地──そのまま細剣を高速で降るって全員の首を刈り取る。

 これで正騎士を一人、従騎士を四人、平の兵士を七人討ち取った。

 残りの兵士達はもはや戦意を喪失しているのか、仲間を失ったこの状況よりも増援を待った方が良いと考えているのか……どちらにせよ、もう私と戦う気はないらしい。


「……化け物め」


「……陛下への忠義も恩も忘れ、自らの私腹を肥やす為にまだ幼い殿下の命を狙う……貴様の方が余程化け物だよ」


 まぁ、あれだ……お前は毒婦(現王妃)簒奪者(大臣)へと付き、忠誠を誓ったのだろう?


「──最期くらいは騎士らしく殉じて見せろ」


「──うおぉぉぉおおおお!!!!!!」


 力強い踏み込みと同時に強烈な上段からの一撃……それが振り下ろされる前に素早く懐へと潜り込み、細剣を振り払って肘から両腕を切断する。

 奴の汚い血で汚れる前にそのまま右脚を軸として回り込み、背後から細剣を薙いで首を()ねる。


「……死にたくなかったらそこを退きなさい」


「『……』」


 恐怖を貼り付けた表情で道を開ける兵士たちへの警戒は怠らず、そのまま殿下の手を引いてこの場から離れる。


「クロエ? もう終わった?」


「……そうですね、そろそろ目を開いても良いですよ」


 ここからならお目汚しする物はもう見られないだろうという場所で殿下に許可を出す。


「敵は? もうみんな居ない?」


「えぇ、ご安心ください。このクロエが全員倒して参りました」


 まだ刺客が襲って来る可能性はあるでしょうけれど、まだ幼い殿下に一々それを言っても仕方がない……それにまた来ても私が倒せば良いだけ。

 今はそれよりも、如何に早く王族専用の隠し通路へと辿り着き、追っ手を振り切るか考えるのが先決。


「そっか、クロエは強いね」


「えぇ、私は強いのでご安心下さい」


 微笑んで応えると、殿下がそんな私の顔を覗き込むように見る。


「クロエ、ほっぺに血が……怪我したの?」


「おっと、返り血ですね、お目汚し失礼しました」


 これは失態ですね。

 殿下の目に入らない様に配慮したというのに、最後の最後で詰めが甘かった様です。


「拭いてあげるよ。ほら、しゃがんで」


「えっ、あ、いや、そんな殿下のハンカチを汚すわけには」


「いいから。ほら」


 と、そんな様子の私を強引にしゃがませ、ハンカチで私の頬をこしこし拭く殿下。


「ほら、可愛い顔がもっと綺麗になった」


「……あ、ありがとうございます」


 まだ子どもだと言うのに、殿下のこの気遣いの上手さはなんでしょう……これは将来有望です。


「クロエ。僕も、頑張るから」


「……殿下はお強いですね」


 この、幼くして両親を亡くし、部下の大半から裏切られたにも関わらず気丈に振る舞う健気な殿下の命を守る為にも……私は修羅となって何人(なんびと)であろうと斬り伏せよう。

 前王妃様から託され、陛下から頼まれたこの小さき命が──


「クロエ。ずっと側にいてね」


「勿論です、ジークハルト殿下」


 ──いずれ、自分の国を取り戻すまで。


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2話も連続投稿しちゃいます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 騎士様がザコい。 三下臭漂わせてあっさりやられてしまった。
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