ヲタクの俺が美容学校という異世界に迷い込み美容師を目指すことになってしまった
初めての投稿で
文章や表現力にまだ足りない部分が
多いと思いますが、少しづつ成長していけたらと思っています
暖かい目で、見守っていただければと思います。
感想や、評価をいただけると幸いです。
「ーーーこれより新入生代表からの挨拶を行います。
新入生代表は、舞台袖にお越しください。」
アナウンスが講堂に鳴り響く。
綺麗だが少し気の強そうな顔立ちの女の子が壇上に上がった。
暗めの茶髪が腰に達するほどの長さで、それがとても印象的だ。
それまでザワザワしていた新入生たちが静かになった。
確かに目を引く美少女だ。さらにこんな子が新入生代表。
カリスマ性とはこんなことを指すのかな。
「新入生代表、猫屋敷 鈴です。
温かな春のおとずれとともに..」
可愛らしい声だが、落ち着いたトーンで堂々としたスピーチである。
スピーチに聴き惚れている場合ではない。
こんなはずじゃなかった。
どうして俺はここにいるのだろう・・・
「新入生代表として、この場に立てたことを光栄に思います。」
なぜこうなったのか。
「私達も、このビジュアルアート美容専門学校の仲間入りを果たし、」
こうなった理由。
その理由は、約2週間前に遡る。
ーーーーー2週間前
「マンメンミ!」
ゲームの効果音が、部屋中に鳴り響く。
俺は、蛇沼 蒼太郎。
ゲームと漫画アニメ、そしてプラモデルをこよなく愛し、
お気に入りの漫画のことを聖書と呼ぶごく普通の18歳の男だ。
高校はほぼ不登校だったが、
担任の優しさのおかげでギリギリ卒業できた。
高校一年生の時につけられたあだ名は
「さぶカル鬼太郎」
略して、さぶキタ
物知りな人と思われたかった俺は高校入学当初に、
ネットで仕入れた話をクラスメイトに披露しまくった。
その結果、「サブカルチャー」と「寒い」、
「蒼太郎」という名前、あとは前髪が長すぎる鬼太郎っぽい髪型をかけてなのか、
さぶキタというよくわからないあだ名を陰でつけられていたようだ。
うまく言っているつもりだったのだろうか。
とにかく俺は高校では浮いた存在だった。
それが理由で学校に行く気がしなくなり、徐々に不登校気味になっていった。
しかしそれだけゲームや漫画を愛していても俺の視力は両目とも1.5だ。
にも関わらずお世辞にも
お洒落とはいえない伊達メガネをかけているのは、
外界の人間と距離を取りたいという
俺の、俺による、俺のための配慮だ。
高校の卒業式(もちろん行かなかった)も終わり3月中旬、
大学受験は私立、国立前期、後期全て不合格。
センター試験も惨敗だったのでセンター利用もできなかった。
本番になると、少しばかり緊張してあがってしまう。
俺に問題があったのは、否めない。
「そうちゃん。ゲームがそんなに好きならゲームの専門学校受けてみたら?」
そう言って、部屋に勝手に入ってくる甲高い声の主は俺の母、恵美子だ。
童顔で、少し天然が入っているため年の割には若く見えると近所では評判だ。
「うーーん、なんでもいいよ。適当にコンピューター系の探して願書だしといてくれ」
俺は、正直進学なんて興味がない。
かといって、就職も嫌なので
大学で適当なキャンパスライフをおくるのも
悪くないかと、いう邪な理由で大学を受けていた。
キャンパスライフに対する情熱も浪人するほどあるわけではなかった。
大学でもどうせさぶキタ呼ばわりされるんだろうし。
「そっかぁ、じゃあそれっぽいの見つけて願書だしとくねー」
そう言い残し、母は出て行った。
この会話が、俺の人生を一気に狂わせた。
ーーーーー試験日
試験会場は、専門学校の教室だった。
学校の建物全体が、ガラス張りで
プライバシーの欠片も感じない佇まいだった。
高さは6階建くらいだろうか。
学校の建物自体が広告になりそうな変わったデザインである。
専門学校というところは金儲け主義である。
この建物はインスタ映えってやつだろうか。
キラキラな高校生が好みそうな外観で生徒を増やし金を集める。
その集めた金を建物や広告にばかり使いさらに金を集める。
それが専門学校である。
校門に学校の名前が書いてあった。
「ビジュアルアート?ありがちな名前のコンピューター専門学校だな。」
俺は、学校の内部に入った。
人形の生首が立ち並ぶ道を過ぎ、二階の隅の教室に入った。
なんで、こんな人形の生首があるんだ?
コンピューター科以外にもいろんな科がきっとあるんだろうな。
学科と実技を選べた。
実技なら結果次第で学費免除の特待生になれるらしい。
実技など何をやらされるかも知らない俺が受けるはずもなく、当然学科を受けた。
普通に考えれば生首の人形が並んでいる時点で、
ここがコンピューター専門学校ではないということはわかるはずなのに、
1月のセンター試験から続く長きにわたる試験の疲れと、
さっさと試験を終わらせて家に帰りたいという俺の気持ちが、
この異常な状態を受け入れてしまっていた。
試験は終わり、急ぎ足で、帰宅した。
家に帰り、リビングに入ると妹の凪咲がいた。
「お兄、また試験落ちちゃった?」
「今、受けてきたとこ。結果はすぐ出るだろうけど、まだ出てねーよ。」
「ふーーーん、どうでもいいんだけどね。」
凪咲は、俺のことを見下している。
兄として認めたくはないが、
俺の妹とは思えないポテンシャルの高さがあり、
容姿は可愛く、高校生のくせに茶髪のロング。さらに巻き髪のセットだ。
一言でいうとギャルである。
ただ難点もある。
後先を考えず、人と接することに恐れも知らず、
誰とでも仲良くするが、勉学のほうはからっきしダメ。
これも一言でいうとアホである。
そのポテンシャルを活かし、
高校を卒業したら美容学校に入学してカリスマ美容師になるのが夢らしい。
俺とは、本来、交わることのない人種だ。
俺と凪咲が兄妹だと知った人はみんな驚く。
それほど人種のタイプが違いすぎる。
母が俺に近寄り尋ねる。
「そうちゃん試験どうだった?」
「えらく簡単な試験だったよ。」
母は、にこっと笑みを浮かべ台所に向かった。
そして、試験結果はすぐに出た。
結果は、合格。
母親が満面の笑みで合格通知を持ってきた。
「そうちゃんおめでとう、手続きはもう済ませたから
入学式のスーツ買いに行かなきゃね」
「コンピューターの専門学校って不合格の人いるのかな。」
「きっといるわよ。そんなこと言ったら不合格の人に失礼よ。」
暫くたってから、母親から手渡された合格通知を見た俺の時が止まった。
「ビジュアルアート...美...美容専門学校......」
ビヨウ?
なにそれ? 新発見されたウイルス?
「あぁあああぁあぁぁあああ!!!!」
俺は、発狂した。
慌てて、母と妹がやってくる。
「どうしたの? そうちゃん」
「母さん!! どういうことだよ! これ! コンピューター専門じゃない!!」
「あら? 本当? パソコンで専門学校調べようとしたら、検索履歴にその学校があったからてっきり」
「てっきり? なんだよ! 俺が専門学校なんて調べるわけないだろ!」
「あ! ここ、私が行こうと思ってる専門学校だー」
犯人は、こいつ! 凪咲!
このわけのわからない奇行種が!
まだ高校2年生のくせに
いち早く進路を決め、その情報を仕入れる
凪咲の用意周到さが俺の人生を狂わそうとしていた。
「まぁ、いいや。こんな学校蹴ればいいだけだから」
俺が安心したのは、束の間。
「え?もう入学金から、教材費、その他諸々、全部支払ったよ」
その母の言葉で、周りの風景が色を失った。
「当然、これでまた不登校になるなら、全額かえしてもらうからねっ」
俺の人生は狂った。
これが、事の顛末だ。
ーーーー現在ーーーー
話は冒頭の入学式に戻る。
色を失った世界のまま入学式を終えた。
猫屋敷さんのスピーチの途中から記憶がない。
これから、俺はどうなるのか。
想像するだけで、吐き気と頭痛が治まらない。
美容学校って頭ふわふわなキラキラリア充しかいないだろ。
普通の高校で浮いていた俺が美容学校に行ったら
さぶキタよりもひどいあだ名を付けられるに違いない。
ラ◯フの作者もびっくりないじめに遭うかもしれない。
おめーの席ねーからどころか、おめーの髪ねーからとか言われて
バリカンで坊主にされるかもしれない。
普段からひきこもりの俺にとって
美容専門学校なぞ異世界でしかない。
ラノベで出てくる異世界よりも異世界である。
普段から漫画やアニメにばかり触れている俺は、
仮に突然、オンラインゲームに閉じ込められたり、
特殊能力を与えられ国を救うために戦ったり、
謎の小動物と契約を結んで魔法少女になったとしても
戦い抜けると自負していた。
ファンタジーな異世界の予習は完璧なのだ。
しかし現実世界のまま、
異世界よりも異世界な専門学校の扉を開く事になるとは夢にも思っていなかった。
予習していないファンタジーではない異世界には耐性がない。
白黒の帰路を抜け、白黒の自宅にたどり着いた。
誰とも話す気分になれず、
作業としての食事をとり、床に着いた。
このまま...明日がこなけりゃいいのに。
明日が来るのが怖い...
世界の中心でそれを叫ぶ思いで
俺は、眠りについた。
当然、明日はやってきた。
初登校日。地獄の通学。
俺の気持ちを他所に、その時間はやってきた。
あのガラス張りの建物がインペルダウンに思えた。
「地獄の始まりだ...」
インペルダウンの扉をあけ、中に入ると
新入生のクラス分けが書いてあった。
俺のクラスは、1年B組。
2階の隅の部屋。
奇しくも、試験の時に使っていた教室だ。
異世界の鍵を手にいれた教室...。
教室の扉の前で
俺は、中に入るのを躊躇っていた。
普通にはいるか。それとも、ちょっと雰囲気作ってはいるか
少なくとも、ヲタクだとバレたらその時点でゲームオーバー。
またさぶキタと馬鹿にされ不登校になり、
100万以上の学金、教材費その他諸々を支払う事になる。
それだけは、絶対に免れねばならない!
だが、身体は、この教室の扉を開けるの拒んでいる。
「ちょっと!」
どうする!体を揺らしながら、オラオラと入るか?
「ねぇ!!」
いや。違う。胸を張って慣れてますよ感を出しながら...
「ねぇって! 聞いてる?!」
その声にびっくりし、俺は後ろを振り向いた。
そこにいたのは、新入生代表で挨拶をしていた猫屋敷 鈴だ。
「教室の前で、ボーーーっと突っ立てたら入れないでしょ! さっさとはいってくれる?」
「ぁ、ごめん。ちょっと緊張してて...」
俺は目も合わさずに下を向きながら小声で言った。
俺は少し横に避け、道をあけた。
猫屋敷が扉に手をかけた。
「あのさ、インテリ美容師目指してるのか知らないけど
その格好、長すぎる前髪、後ろでちょっとくくってる後ろ髪
なんか、おっさんっぽいメガネ、それに服装。
よれよれの眩しい蛍光色の長袖Tシャツ、ドン◯に売ってそうなデニム
それに、見たことないメーカーのスニーカー。はっきり言って、変よ」
そう言い放って、教室にはいった猫屋敷
俺は、絶望した。
あ。これだめだ。
俺の一張羅を変と言われた。
もう、居場所ないわ。
落ち込みながらも、教室に入った。
そこには、本当の異世界が広がっていた。
赤、青、ピンク、銀、金!
いろんな色の頭が雁首そろえて座っていた。
なんだよ! これ! アイドルのコンサート会場かよ!
サイリウムにしか見えねえよ!!
頭の中だけで叫び、席番号を見た。
一番後ろの左から二番目の席が
俺の席みたいだ。
俺は席についた。
「ふぅ...」
もはやため息しか出ない。
「その前髪、邪魔じゃないの? 視界悪そうだよね。」
いきなり話しかけられた。
話しかけてきたのは、左隣の席に座っている
可愛らしい子。
その姿は、かなり明るい金髪で
ショートカット、前髪に二本のピンがついている
こんな可愛い子に話しかけられた!
さっきの猫屋敷さんとは違って、
俺にちゃんと興味があるようだ。
人として扱われている。
俺は、舞い上がった。
「え? これ? いや切るの忘れててさ
近いうちバッサリいこうとおもってるんだよ」
少し声色を変え、得意げな雰囲気を醸し出しながら俺は言った。
「へぇぇ、そうなんだ。僕も前髪切ろうか悩んでるんだよね。
今度、一緒に切りに行く?」
と、微笑みながら、その子は言った。
え? あれ? 僕?
あ! ボクっ娘か!
もしかしたらこっち側の子なのかも!
そんな期待を俺は寄せた。
「うん! いこう! 」
俺は、人生で一番の笑顔で答えた。
その時、右隣の女の子が
小さい声で話しかけてきた。
「あのさ、なんか勘違いしてるっぽいけどその子、男の子だよ」
男の子?
男の娘じゃなくて?
いや、それもおかしいけど。
俺は、頭の中で一人自問自答した。
「え? 女だと思ってた? 普通に男だよ!
初めまして、僕は、三島兎丸よろしくね!」
色白で体型も華奢。
目鼻立ちがはっきりしていて可愛い。女の子にしか見えない。
三島兎丸ーーー。
俺は、衝撃を受けた
異世界怖ぇぇぇ!!
また、頭の中で叫んだ。
「三島君、女装趣味あるから気をつけたほうがいいよ」
右隣の女の子がまた小さい声で話しかけてきた。
この右隣の女の子は
身長148cmくらいだろうか?
小柄で三島君に負けず劣らず可愛い。
おとなしい雰囲気があり
可愛い声なのに
声がとにかく小さい
金髪のロングヘアー、前髪は、ぱっつん
髪を、両サイドから編み込んで、後頭部あたりで、とめていて
毛先だけが少し出ている。
なにより、胸がでかい!!
かなり、俺好みだ。
「ちょっとー! はじめて会う人にそんな事いうなよー
あ、あのね、この小さい女の子は、栗鼠 志摩ちゃん。
高校の同級生なんだ」
三島君が、照笑しながら言った。
「そ、そうなんだ、俺は、蛇沼 蒼太郎。三島君、栗鼠さん よろしくね」
初日、俺はいじめられるわけでもなく
いじられるわけでもなく、ただ、平和な会話をした。
世界の色が鮮やかに鮮明に戻った。
案外悪くないかも...ここ。
なんて事を、俺は思った。
程なくして、教師が教室に入ってきた。
「はい! みなさんおはよう! 私が1年B組担任
美しく可憐、立てば芍薬、座れば牡丹、美を書くと私の顔になる
そんな、私の名前は、牛込 岬みーちゃんとでもよんでね」
かなりキャラの濃い目の担任教師の自己紹介
28歳くらいだろうか?
スレンダーで、モデルの様な体型。
6、4くらいに分けた前髪に、ほんのりと赤みのある髪色。
全体的にカーリーな髪型は色気を感じる。なんかエロい!
だが、美人ではあると思うが、飛び抜けてというほどではなく量産型だなと俺は内心思っていた。
SNSの美容垢ってこういうひとがやってそうだな。
牛込先生は、そのままつづけた。
「はい! 今日は入学式お疲れ様でした。
今日のホームルームは私とあなた達の顔合わせだけでおしまいです。
明日から普通に授業になるけど、今年の一年生は優秀で
A特待生が、なんと二人います! 前代未聞だよ
さらに! このクラスに一人、A特待生の子がいます。
だから、わからない事があったら、先生だけじゃなくて
そのA特待生に聞くのもアリだからね! ラッキークラスだね」
A特待生?
特待生にもランク付けがあるのか。
モンハンのクエストみたいだな。
「三島君、ちょっと聞きたいんだけど、A特待生って何?」
俺は三島君に小声で尋ねた。
「この学校、実技で特待生になれるのしらない?」
思い出した! そういえば、試験の時に
そんな話があった!
三島君は、続けて話した。
「特待生には、種類があってC特待生、B特待生、A特待生っていうのがあって
実技試験の結果の出来によって、その三つに分けられるんだ
Cは、入学金免除、Bは、入学権免除と教材半額
Aはね、全てが免除になるんだよ。
B特待生は、毎年6〜10人いたりするんだけど
A特待生は、一年に1人でるかどうかくらいなんだ。
だから、二人もいる、今年がすごいんだよ。」
「なるほどーーー、で、そのA特待生って誰?」
俺のこの問いに対し、三島君は、少し驚いた表情で言った
「新入生代表の猫屋敷ちゃん、それとA組の百翁 獅堂君だよ」
猫屋敷って、俺のことを、いきなり罵ってきたやつだ。
あいつって、実はすごいやつなのかな?とあまり興味がないなりに関心してみた。
「てな、わけでー、私からの挨拶はおしまい。帰っていいゾーーー」
牛込先生は、教室から出て行った。
なんと適当な担任なんだろうか。
こんなんでいいのか?こんなものなのか?
俺の高校の担任はもっとちゃんとしてたぞ?
そう思いながら席を立った。
三島君に軽い挨拶をして、
俺は、教室を出た。
教室を出た瞬間、
教室側から、慌ただしくバタバタと走る音が聞こえる。
このパターンは、大体把握できている。
このまま、まっすぐ歩いていると後ろからぶつかられて、
「キモ」と、一言、言われる未来が俺には見えた。
だが、俺も、そんなに甘くない。
左足を右へスライドさせ
その足についてくように体をワンステップ。
そして左肩を、前に向けると、ぶつかられることは...
ドン!!
これだけ、道をあけわたしたのに
何故かぶつかられる。
メガネは飛ばされ
運動不足の俺は、簡単に地面に這いつくばってしまった。
「ごめんね! よそ見しててぶつかっちゃった! メガネ取るね」
よそ見してて? 絶対嘘だろ
躱したのにのに、ぶつかられるなんてわざととしか...
そいつは、メガネをもって、俺の側にやってきた
そのぶつかってきた奴は、表情から優しさが滲み出ている
アイドルみたいな顔立ち
ピンクの髪色が、このサイリウムみたいな頭の奴しかいないこの学校の中でも
やけに目立ち、肩下くらいまでの長さの毛先はしっかりと巻いてある。
元気そうな声で話かけてくる。
「あれ? 君」
そう言ってピンク頭の女の子は俺の手を掴んでまた走り出した。
妹以外の女の子に手を握られたのは
生まれて初めての事で三島君に話しかけられたことに続き、これまた舞い上がった。
しかし突然の事で嬉しさや下心よりも混乱が勝った。
なんで、俺、どこに連れていかれるの?
俺の腕を引っ張って走ってる女の子は
富士ヶ嶺 美狐さんだ。
教室に入った時、ピンク色の髪色が気になって
自分の席を、確認する際に
名前を見てしまっていた。
「ちょっとー、どこいくの?」
後ろから、追いかけてくるショートカットの茶髪の女の子。
元々、運動部に所属していたのだろうか、
スカートの下にスパッツをチラつかせ
若干つり目な目と、アヒル口が特徴的な活発そうな子だ。
おそらく、富士ヶ嶺さんの友達なのだろう。
走りながら、富士ヶ嶺さんが叫ぶ。
「この男の子、磨けば光るよ! うちのサロンに連れていく!」
サロン?
「えぇ?! あんた、本当に勢いばっかりだね!」
富士ヶ嶺さんの友達が後を追いながら言う。
そして、到着したところは...
美容院!
サロンって、美容院の事だったんだ...
人生初美容院。
なぜ連れてこられたのかも
なぜこうなったのかも分からないまま、
富士ヶ嶺さんに引っ張られ店内へ押し込まれた。
「いらっしゃいませ」
イケメンと美女の店員に、囲まれる。
「あ。この男の子カットしてくれない?」
富士ヶ嶺さんが、そのイケメンと美女に言う。
「かしこまりました、では、美狐さんとあひるさんは、あちらのお席でお待ち下さい」
そう言って、俺は奥の部屋に連れていかれシャンプーをされた。
人にシャンプーされたのは、生まれて初めてだった。
すぐにでも寝れそうな心地よさだ。
うちの犬も月1回散髪に連れて行くがこんな気持ちなのだろうか。
気持ち悪いところないですか?とか、美狐さんのお友達ですか?とか
色々聞かれたが、あまり人と接するのが得意じゃない俺。
ましてや、初めて行く美容院の店員さんに、話しかけられても
そんな良い受けごたえができるはずもなく、ひたすら相槌と苦笑いしかできない。
シャンプーは終わり、やたらと豪華な席に案内された。
その席の両隣に富士ヶ嶺さんと、富士ヶ嶺さんの友達が座っている。
可愛い女の子二人に挟まれて嬉しい気持ちよりも俺はここにいていいのだろうかという気持ちになった。
「ごめんね、美狐が唐突に引っ張りまわして
連れてきちゃって、びっくりしたよね
私、進藤 あひるよろしくね」
そう言ったのは、さっき後を追いかけてきた富士ヶ嶺さんの友達の茶髪ショートカットの女の子だ。
「あのさ、これ伊達眼鏡だよね?
なんで伊達眼鏡してるのかわからないけど
君、メガネしてない方がいいよ!
あと前髪も切って、長さも短くしたら
結構良い感じになると思う!」
富士ヶ嶺さんが言った。
どうやら、富士ヶ嶺さんがここに連れてきてくれた理由は
俺に、幻想を抱いたかららしい。
「どんな感じの髪型にしましょうか?」
イケメンの美容師さんが、俺に尋ねてくる。
その問いに俺が答える前に富士ヶ嶺さんが、あれやこれやと指示を出していた。
俺はただ黙って切られてるだけだった。
その間、富士ヶ嶺さんと進藤さんの話を聞いているといろんな事がわかった。
まず、この美容院は富士ヶ嶺さんのお父さんの美容院らしい。
そして、進藤さんと富士ヶ嶺さんは幼馴染で、
二人とも学生時代は同じ高校のテニス部に所属していたようだ。
富士ヶ嶺さんは、破天荒。
進藤さんは、活発そして面食い。
そんなイメージが、俺の中で確立した。
切り終わり、鏡を見た俺は、驚きを隠せなかった。
「これが・・・俺?」
ネットで美容師を喜ばせる言葉にランクインされそうな
言葉が自然と出てきた。
前髪はすっきりと眉下くらいで整えられ、
全体的にふわっと立体感とボリュームを出され
アニメの主人公みたいな髪型になっていた。
それを見た富士ヶ嶺さんは
「やっぱり! 全然雰囲気違うし、かっこいいじゃん!」
そして、進藤さんは、少し顔を赤らめながら
「え...結構タイプかも...」
そう言った。
この二人は、褒め上手だな。
こういう人達が、美容師になって
男に変な理想を抱かせるのだろうと卑屈な俺は思った。
カット料金は、富士ヶ嶺さんのおかげで無料。
富士ヶ嶺さんと進藤さんとイケメン美容師に見送られ
俺は富士ヶ嶺さんの美容院をあとにした。
家に帰ると、凪咲が俺を見るなりコップを落とし驚いた。
「え?! 誰?! お兄?! うそ! 普通に一緒に歩いても恥ずかしくない
感じになってんじゃん!」
まさかの妹も、褒め上手になっていた。
どうなってるんだ?と思ったが、
妹は嬉しそうに言った。
「これで、服装も変えたら、もっといい感じになりそう!」
「あら、それなら買ってらっしゃい、お金あげるから」
そう言って、母は、俺に3万円を授与した。
そこからは妹、凪咲の独擅場だ。
言われるがままに試着し、服を選び
もはや俺は着せ替え人形と化した。
見た目が完全に変わった俺、
鏡で見ると、これ結構イケメンなんじゃないか?と
自分でも思う。
美容学校に入ったのは、案外間違いではなかったのか?と思い始めた。
こうなると、俺が美容学校で生きて行くためには
ヲタクである事を絶対にバレてはいけない。
自分も、美容やファッショに興味があるフリをしなければならない。
それをこなす事ができれば、
俺にも、バラ色の学園生活がまっているのでは?
そんな、思いが俺の心を躍らせた。
次の日の学校では、
話した事ない人から話しかけられたりして
あれだけ俺の事を罵った猫屋敷さんでさえ、俺を見ても
何も罵倒しなくなった。
俺が今まで味わった事のない学園生活が幕を上げたような気がした。
そして俺の新しい学園生活が始まり2週間がたった。
授業は訳のわからない専門用語が飛び交い、
理解するまでには、多少時間がかかったが
2週間もあれば人は慣れるものだ。
同時にクラスの仲の良いグループも多少なり決まってきた。
クラスは、男3女7の割合くらいで、ハーレム気分も味わえる。
俺が所属してるグループは、富士ヶ嶺さんグループ。
メンバーは富士ヶ嶺さん、進藤さん、栗鼠さん、三島くん。
それと、猫屋敷...
2週間あればさすがに、このグループの人達の性格や性質も見えて来る。
猫屋敷はすぐ怒るが優しい時は、優しい。
所謂、ツンデレだろう。
家は貧乏みたいで、A特待生は絶対条件だったみたいだ。
さらにかなり真面目だが、恐ろしいほど食いしん坊
そんなに食べて太らないのは、不思議で仕方ない。
富士ヶ嶺さんは、それと対照的だ。
父が、全国に180店舗構える大型サロンのオーナー
お嬢様で、B特待生。
誰にでも分け隔てなく話す富士ヶ嶺さんは、俺達のような人間には
オアシスのような存在。
苗字で呼ばれるのを嫌い、俺にも、美狐と呼ぶように言ってくる。
女の子を下の名前で呼び捨てにするのは、気分が良い。
しかし、美狐は、破天荒。
さらには、その破天荒さのせいで、たまにカオスを引き起こす。
そして、アホだ。
栗鼠さんは、いつも少し眠そうにしてる
眠そうな目というのが関係あるのかもしれないが、
この子は、機嫌の良し悪しで髪型が変わる。
わかりやすい人種。
この2週間でわかったことだが、
機嫌の良い時は、編み込んで後頭部あたりでとめている。
普通の時は、ハーフアップ、右側に髪をまとめている。
逆に悪い時は、ストレート。何もせずおろしているだけ...
この時の栗鼠さんは、氷のような感じで、少々怖い。
基本誰とも話してない時は、ヘッドホンで音楽を聴いている。
10-FEETとeveというバンドが好きだそうだ。
知らないけど。
進藤さんは、ミーハー。
流行りを常に追いかけている。タピオカばかりを飲んでるイメージ。
自分の事をお姉さんキャラだと誤認しているが、
少し天然要素があり、お姉さんキャラではない。
そして、あの髪を切った日から、
妙に俺に近づき、やたらとボディタッチが多い。
押しが強いタイプなのか、ただのビッチか。
俺にはよくわからないが、慣れてない俺は
触られるたびに、実は興奮している。
やたらと腕を組んでくる時に、胸があたる
興奮しない男子はいないだろう。
今は、美狐と同じような理由で、あひると呼んでいる。
三島君は最初に栗鼠さんから
聞いてはいたが、女装趣味がある男の子。
だが、恋愛対照は女。
わりといつもニコニコしていて、怒っているのが想像できない。
こういうタイプこそ、怒った時は怖いのだろう。
姉が3人いるらしく、女装趣味はそのせいもあるのかと俺は思っている。
俺の趣味と同じくらいかそれ以上、世間的には隠したい要素だと思うが、
三島君は、女装趣味を隠さない。
ちなみに三島君は学校に女装して来たことは、いまのところない。
俺は三島君のことも、現在は兎丸と呼んでいる。
兎丸は、俺のこと、蒼君と呼んでくる。
ここまでが、この2週間で俺が仕入れたグループの情報だ。
だが、俺はすごく恐れてる人がいる。
俺の右斜め前の席の犬飼 聖夜君だ。
話したことはないが、とにかく見た目が怖い。
金髪の短髪、額に古傷があり目つきが鋭く怖い。
身長も185cmほどあり、常にイライラしてそうな顔をしてる。
B特待生らしいが、俺にとっては天敵。
楽しくなった学園生活をぶち壊すとしたら、
絶対こいつだ! と俺は常に警戒している。
この学校での1年間のスケジュールも概ねわかった。
5月に、オリエンテーション合宿
7月に、最初のクラス対抗コンテスト
8月に全国理容美容学生技術大会
夏休みを挟み
9月に球技大会
11月にビジュアルフェスティバル、学園祭みたいなやつだ
冬休みを終えたら
1月に男女別ファッションショー
がある。
最初に、待ち受けるのは
2泊3日のオリエンテーション合宿
略してオリキャン
オリエンテーションスタッフ(オリスタ)の二年生も
同行して行う強化合宿らしいが、その実はただの遊びらしい。
楽しみ反面、俺の実態がバレないかと不安を抱えている。
「蒼太郎さぁ、なんでもできちゃうよねー」
俺に話しかけてきたのは、あひるだ。
最初と態度が全然違う。
俺のことを名前で呼ぶのはあひると、美狐と、兎丸、栗鼠さんだけだ。
「そうかなぁ? 俺は普通にやってるだけなんだけど」
そう、実はプラモデルのおかげで
俺には、並外れた手先の器用さが備わっていた。
そのため、この学校で主に行われる国家資格に必要な3つの技術
・カット(髪の毛を切る技術)
・ワインディング(パーマをあてる技術)
・オールウェーブ(今では、国家試験以外ですることはない、ローションを用いた技術)
この3つは人並み以上にできるようになっていた。
「そうね。普通にやってるだけ、鼻の下伸ばして調子に乗ってる
暇があるなら、もっと練習すれば?」
キツめの言い方をする猫屋敷。
「そうはいうけどね、蒼君は
猫屋敷さんには、敵わないにしても
クラスで2・3番目に上手いと思うよ」
兎丸が俺のフォローをしてくれる。
「ソータロー、あんまり努力してないように見えるのに結構やるよね」
相変わらずの小さい声で、栗鼠さんも、フォローしてくれる。
猫屋敷は俺を見て
「ま、その調子だと、そのうちみんなに追い抜かれるのが関の山ね」
と、少し罵る。
俺は、苦笑いしながら、ふと少し下を見ると
カバンに手作りで作ったような人形のキーホルダーが見えた。
それは、俺の好きな聖書に出てくるキャラに似ていた。
「ん? そのキーホルダーって...」
思わず口に出してしまった。
「あ?」
ふと、そのカバンの持ち主を見ると、よりにもよって犬飼聖夜だった。
キレた表情で振り向き、俺を座りながら見上げる。
やばい! 殺される!
「いや、あの、それ犬飼くんに似てるよね
あはは。そういうキーホルダー俺も好きだな...」
少し声が震えてた気もするが、俺は必死に弁解しようとした。
「......」
何も言わずに、犬飼聖夜は、前を向いた。
なんとか、難を逃れたようだ...。
あんなヤンキーが、もってるキーホルダーが
俺の好きな聖書のキャラのわけがない。
自分の浅はかさを呪った。
その日の帰り道。
俺の運のなさが垣間見えた。
ゲームセンターの前で犬飼聖夜が、仲間のDQNを5匹ほど連れて立っていた。
げぇ! 絶対関わりたくない!
「お前、まじで勝てるとおもってんの?」
「こっちは5人、お前一人でどうこうできるとおもってんのかよ」
なにやら、その仲間に見えた5匹のDQNが、犬飼聖夜にくってかかってるように見えた。
犬の群れじゃなかったのか。
どう考えても同じ群れの仲間だろ?同類じゃん。
「さっさと来い、いちいちめんどくせぇ」
そういって、犬飼聖夜が、そのDQNたちを連れて行こうとしていた。
え?喧嘩するなら、たぶんここでするよね?
ゲームセンターの前で、移動するってことは
あ! これ、ゲームの話だ!
格闘ゲームかな?それなら俺も話ついていけるし
むしろいいところ見せれる!
犬飼はもしかして格ゲーヲタなのか?
格ゲーヲタってヤンキーもいたりするしな。
そうなれば、犬飼と仲良くなれるかもしれない。
俺のこともただの格ゲーヲタだと思ってくれるだろうし、
俺の秘密がバレる可能性が減るのでは?
格ゲーヲタは別に恥ずかしくないだろ。
そんな策を0.5秒で考えた俺は犬飼とDQNたちに近づいた。
「あの、俺も混ぜてくれない?」
犬飼含む、他の5人もハァ?と言いたげに俺を見た。
「お前、こいつのツレか?しゃしゃりでてくんな」
5人のうちの一人が言った。
言ってることは、なかなか怖いが
所詮は、俺の得意なゲームの話。
まったく負ける気がしない。
「いやいや、俺こう見えて相当自信あるんだよ。
なんなら、5ひ、5人まとめて相手にしても勝てるよ」
俺は、自信に満ち溢れた
微笑みを見せた。
少し、間をあけて
「ちっ、どうでもいい。次から気をつけろよ!」
そう言い放って、5匹は仲良くゲームセンターの中に入っていった。
ん? どういうことだろ
ゲームしないのかな? ついてこいって事かな?
「てめえ余計な事すんな。
助けたつもりかしらないが、お前に助けられる理由も必要もねぇ。とっとと消えろ」
ちょっと仲良くなれるかもと
期待してたのに、そんなキレられると思っていなかった。
しかも助けるってなに?!
言ってる事の意味もわからないし、怖い!
やっぱり、相見える事のない人種だ...
俺は、逃げるように帰宅した。
家に帰ってから思った。
猫屋敷が言ってたように
ちゃんと練習しないと、気づけば
みんなに追い抜かれてる、なんて事あるかもしれないよなぁ
よし、練習しよう!
カバンからウイッグを出したがローションでベタベタだった。
「・・・明日から本気だそう」
俺は、眠りについた。
⚫︎⚫︎⚫︎
「さぁ! みんな! 明日からオリエンテーション合宿!
わくわくドキドキがとまんない! 準備はできてるかぁぁ!!」
異常なテンションで牛込先生が、合いの手を求める。
「おおーー!」
これに合わせるのは、美狐と、兎丸だけ。
「2泊3日、一応強化合宿だけど
みんな、美容学校に入って間がないし
遊ぶも良し、恋するもよし、
もっと、友達作って輪を広げるも良し!
勿論、練習して、自分のレベルを上げるのもいいよ。
とにかく、楽しいオリキャンにしよーー」
牛込先生は、完全に学生気分でテンションを上げている。
「なんか修学旅行みたいで楽しみだよねーわくわくすっぞ!」
美狐も、テンションが上がってる様子だ。
「俺は、あんまり友達と旅行とかしたことないから不安の方が多いなぁ」
俺がそう言うと、大きな目をパチクリさせながら
不思議そうに頭を傾げて、美狐は言った
「え?友達と旅行したことないの?」
しまった! ぼっち宣言してしまった!
焦って、言葉を付け加えた
「いやいや、あの、修学旅行とか
学校の行事では、行ったことないってだけで
いつも、そういう行事の時は、めんどくさくて
さぼっちゃってたから、勿論、友達と普通に
旅行とかなら、行ったことあるよ」
「そうだよね! びっくりしたぁ
いきなりぼっちっぽいこと言うから
びっくりだよー。蒼太郎くん人気ありそうだし
そんなはずないよねー」
おい。ぼっちって言葉は俺には、禁句だぞ。と頭の中で叫んだ。
そもそも、お前が、俺の容姿をいじったから
こうなってるだけで、元は...
嫌な事思い出して、俺は勝手に落ち込んだ。
思えば、昔の俺では
今のこの俺の姿なんてまったく想像すらできなかった。
ーーーー翌日の朝ーーーー
「さぁ! みんなーーー!
バスに乗り込んでーー
出発するよーーー!」
昨日に続きテンションが上がったままの牛込先生。
俺にとっての初めての友達とのお泊り会。
オリエンテーション合宿
開幕...