12話:策に嵌める
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12話:策に嵌める
時は、プロヴァンス国右翼が接敵した頃に戻る。
「アリオン伯爵!右翼、接敵した模様です!」
「わかった。全軍!微速前進!あの丘まで進んで停止する」
「ハッ!全軍!微速前進!」
~ダルク国視点~
「べスター侯爵様!左翼が敵右翼と接敵した模様です。それに伴い、我が方の敵左翼が前進し、この丘にて停止しております」
副官が地図を広げて、敵左翼が停止した個所を示す。
「うん?この丘には何かあるのか?」
「いえ、単なる丘です。戦略的にも重要と言える場所ではありません」
「・・・何かある・・・そう考えた方がいいか・・・防御陣形を取り、敵左翼の動きがあるまで、待機だ!」
「ハッ!」
コウジュンが打ち立てた戦略に、ダルク国右翼はまんまと嵌まってしまい、いたずらに時間だけが過ぎていった。
それは敵中央軍もである。敵左翼が戦略上、特に意味を持たない丘に移動したとの報告があり、左翼に対し注意するよう各所に伝令を出していたのである。
そして、コウジュンたちの部隊が敵左翼2000を撃破したところまで、時は進む。
「なに?!壊滅だと?!」
「ハッ!準男爵以下1000人は敵の罠に嵌まり挟撃をうけ壊滅したとのことです」
「たかだか1000人相手に何をしているんだ!?」ドンッ!
開始早々、男爵部隊の1000人が壊滅し、その後、準男爵の2部隊、騎士爵4部隊の1000人を追加投入したが、それも早くに壊滅してしまった。
このままでは辺境伯に合わせる顔がない。こちらはまだ3000、対してあちらは2000を倒したと言っても、リタイアして数が減っているだろう。
ここは一気に敵を殲滅すべきだな。
「は・・・伯爵、どうされますか?」
「今、敵軍はどこにいる?」
「準男爵部隊を倒した後、こちらに向かってきております」
「調子にのりおって!!無いとは思うが、急襲されぬように外側を警戒しつつ伯爵軍3000で殲滅する!全軍前進!」
ザッザッザッザッザッ
「敵軍およそ700、あの丘を越えれば接敵します!」
「よし!数の差で押しつぶせ!」
我が軍の3000で、いざここからプロヴァンスの右翼を全滅させようと思い、丘の上へ到着した時、目にした光景は理解しがたいものだった。
「こ・・・・これは!?・・・敵右翼の数は700ではなかったのか!?」
報告では右翼は1000。そのあとに数を減らし700ほどという話だった。しかし今、私が見ている光景はその倍以上。およそ3000近くの敵軍だ。
なぜだ?この数はどこから出てきたのだ・・・・・
・・・ここで時間は、前日の軍議に戻る・・・・
「初手で1000人ぽっちの部隊にその倍の2000人が倒されたという事実は、相手に精神的不安を与えます。そして不安が回復する前に、もう一手。右翼が初手の敵を撃破したら、そのままの勢いで敵左翼へ襲い掛かります。接敵場所はこの丘を登った場所です。そこに本陣の8000のうち、2000を右翼の援軍として出し、右翼本軍と同時に攻撃を仕掛けます。相手は前回の挟撃のことが頭に入っているでしょうから、外側は警戒しても軍の内側である中央軍側は警戒しないでしょう」
「なるほど!そこで一気に敵左翼を全滅させるということか・・・援軍を出す際に敵中央軍と左翼に気取られないように注意を払う必要があるな」
「ライセン辺境伯の仰る通りです。なので、起伏を利用してバレないよう動いてもらいたいのです」
「オーリス子爵、右翼への援軍はそなたに任せる!決して悟られることのないよう頼むぞ!」
「ハッ!開戦と同時に小隊に分かれて移動させていきます・・・・ん?・・・もしかして我が左翼の移動の本当の目的は・・・」
そこまで話すと軍議に参加している貴族全員が気づいて、オレを見る。オレはそれに対して笑ってみせた。
左翼の無意味な丘の上までの前進は単なる時間稼ぎだけでなく、我が中央軍から右翼への援軍がバレないよう、左翼に意識を向けさせることが本当の目的だったのだ。
「ハッハッハッハッ!まさかそこまでの策とは・・・脱帽だぞ、コウジュン!ここにいる味方全員がわかっておらんかった」
「誠にですな。コウジュン殿が仲間でよかったと心底思いました」
「コウジュン、お前はやはり凄いな!」
「良し、この策で行くぞ!皆も良いな?」
「「「「ハッ!」」」」
・・・時間は戻り現在・・・
「コウジュン様!敵左翼、指揮系統が混乱している模様です」
「見事に策がハマりましたな、コウジュン様!」
副官のレスターとカールが話しかけてくる。敵は、700人ほどだと思って攻撃態勢でいたところに、その倍以上の2700人を目の前で見てしまい、固まってしまった。
その隙を逃すわけもなく、援軍2000と共に一気に敵左翼へ突貫した。これにより敵左翼はズタズタにされ、立て直す時間を与えなかった。
既にオレは敵陣に突っ込んでいる。もちろん周りには騎士爵軍200人も一緒だ。いくら敵側が混乱しているといっても、こちらも損害がないわけではない。
既に騎士爵350人中180人が戦死扱いで退場している。うちの部隊も50人中20人がやられ、残り30人だ。
準男爵の部隊も600人中250人が既にやられ、右翼は550人まで減らされている。
この後の敵中央軍を倒すためにも、これ以上の損害は避けなければならない。
だからこそここが勝負所だと考え、スキルを発動させる。
「スキル《士気高揚》ここが勝負所だ!この右翼の戦いは我らが決着をつける!オレの背中を見て突き進めぇぇ!」
《士気高揚》
自らが率いる部隊の士気が10%向上する
「オオオオゥゥ!」
「スキル《電光石火》速さが勝敗を決する!このオレに付いてこい!」
《電光石火》
自らが率いる部隊の素早さが10%向上する
「スキル《一騎当千》立ちはだかる全ての敵は斬り伏せる!」
《一騎当千》
自身の武勇が10%向上する
スキルの重ね掛け!一度の戦争遊戯で使えるのはそれぞれ1回。ここぞ!というときに爆発力を持たせるために、今まで温存していた。
目指すは敵左翼本陣にいる敵将の首!
ザシュッ!
ズバッ!
グハッ
ガハッ
ギャッ
ザシュッ!
ズバッ!
斬って斬って斬りまくる!スキルがきちんと発動しているのだろう・・・すこぶる動きにキレがある!
既に数十人を倒しているが、まったく疲れは出ていない。この調子ならホントに一騎当千できるのではないかとも思えてしまう。
後ろを見てみるが、部下たちの動きもいい。士気も高いまま維持されてる。既に敵左翼本軍の深い所まできた。
援軍の2000が、かなり良い動きをしてくれたおかげだ。それでこちら側の厚みが薄くなった。
それで敵陣深くまで斬り込めたのだ。
ズバッ!
ブシュッ!
スバッ!ザシュッ!バッ!
それからまた数十人と倒していく。部下たちも含めれば、倒した数は数百にも上る。そして遂に目当ての人物を見つけた。敵左翼の大将である。
「グッ、まさかこの左翼がここまでやられるとは・・・」
「人数差に胡坐をかいた結果だ!まぁオレもここまでうまくいくとは思わなかったけどな。練度が低いお陰で予想以上に事を進めることができた」
「まさか貴様がこの右翼を率いていたのか・・・貴様、名を名乗れ!」
「人に名を尋ねるときは、まず自分からって教わらなかったのか?まぁいいや。オレはプロヴァンス国、騎士爵のコウジュンだ」
「騎士爵だと!?たかが騎士爵に私が手玉に取られていたというのか・・・・」
「策に貴族の階級なんて関係ないんだよ。さて、時間もないんでね・・・倒させてもらう」
「舐めるな!たかが騎士爵のお前に、伯爵の私が負けることなどありえん!スキル《万夫不当》喰らえ!」
《万夫不当》
自身の武勇が20%上昇する。
敵伯爵が上級スキルを使って斬りかかってきた。伯爵なだけあり、攻撃は苛烈といえるものだ。
キン!…カキン!…シュッ・・・ガッ!
ドン!・・・ガッ!・・・バッ!・・・バギッ!
しかし、伯爵がコウジュンを攻めているように見えているが、その実、コウジュンは伯爵の攻撃を全て受け流し、逆に伯爵へ傷を負わせていた。
これに対して、伯爵は意味が解らなかった。上級スキルを使い、武勇の底上げをしている伯爵位の自分が下級貴族の騎士爵に押されているこの状況に。
何故だ!?何故なんだ!?
キン!・・・ガキンッ!・・・ザシュッ!
「ガハッ、何故だ?何故倒せん!?私は伯爵だぞ!レベルだって60を過ぎてる」
「これで終いだ!・・・高城流剣術・・・二の太刀要らず《一刀両断》・・・ハッ!」
ガキン!
ザシュッ!
伯爵の剣をカチあげ、隙だらけになった姿を、一刀の名のもとに上段斬りで斬り伏せた。
「な・・・ぜ・・・」
「レベルはあくまでも倒した数の目安でしかない。個人が持つ武勇はレベルでは測れないんだよ」
武勇は日々の鍛錬の積み重ねだ。元の武勇の差が大きければ大きいほど、いくらスキルで底上げしたとしても、その差は埋まらない。
「・・・・・・・・」バタンッ
あっ!?結局この伯爵の名前、聞いてない・・まぁいいか。オレはこの地一帯に聞こえるよう、叫んだ。
「ダンク国左翼大将である伯爵はプロヴァンス国、コウジュン騎士爵が討ち取ったーーーー!」
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