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33話 アットホームな雰囲気の騎士団です


「アシュラフの昇格には、あの教王ボーフォール4世の口添えがあったことを、我々はすでに突き止めている」


 肥満体型の騎士団長は、二人に向かってそう言った。


「そして君は、先日にあのアシュラフのパーティーから離脱したばかりだな?」

「そうです」


 とルルスが答えた。


「なぜ突然離脱した? Bランクパーティーだぞ」

「追い出されたんです」

「ふん。口裏を合わせればどうとでも言える」

「正直に言うと、何を疑われているのか……全然わかりません」

「お前たちは、全てが合致しすぎているのだ」


 団長は脇に控えさせている騎士から、何らかの資料を渡すように合図した。彼はそれを眺めながら、今度はゴルティナの方を見やる。


「そっちの娘が使っている偽の戸籍。これは『エイリス・ペンディルトン』という町娘のものだ」

「まあ……そうです」


 ゴルティナがつい先ほど芸術的にクリティカルな自白をしたので、誤魔化しようがない。


「この町娘は、ある日とつぜんに使徒教会総本部に召集され、それから行方が途絶えている」

「教会の総本部に召集されてから……行方不明?」


 ルルスは、いつかの女性司祭の奇妙な言動を思い出した。


 『エイリス』なる少女の身を異常に案じていたような、彼女に何か恐ろしいことが起こったのではないかと心配していた司祭。

 それに関係しているのか?


「一体、どういうことですか?」

「それを聞きたいのはこっちの方だ。今その戸籍を使っているのは、お前たちなのだからな」

「…………」


 そりゃそうだ。


 教会に召集されてから、とつぜんに行方を断った町娘。

 教会に通じているというアシュラフの、突然の昇格。

 彼女の戸籍を使い、彼とつい先日まで行動を共にしていた自分たち。


 自分たちは、何か巨大な厄介事に巻き込まれようとしている。

 ここはもう、最大限正直になるしかない。ルルスは腹をくくった。


「この戸籍は、人を通じて入手した物なんです。ですから、そういったことは知りませんでした」

「なぜ空の戸籍を買った?」

「必要だったんです。こっちの……ゴルティナには、戸籍が無くて」

「なぜ戸籍が無い?」

「ゴルティナは、地下領域(ダンジョン)で育ったんです」

「……一体どういうことだ?」

「だよね? ゴルティナ」

「その通りである」


 ゴルティナは何処か誇らしげに、細腕を組んで胸を張る。


「我の生まれはダンジョンであるぞ」

「ということで、彼女には戸籍が無いんです」

「いや、その経緯が全くわからん」

「僕にもよくわからない部分は多いです」


 ルルスと騎士団長が見合った。

 彼は一旦考え込むような仕草をしてから、尋問がよくわからない未知の袋小路に入ることを危惧したのか、別の話題を振る。尋問の主導権をあくまで手離さないつもりだ。


「その点については後で追及しよう。まずは全体の情報を整理したい」

「それが良いと思います」

「先日のゾイゼンが率いる鎧鍛冶ギルドにおける、物品破損の事件。これについても現在、我々が調査中なのだが……そこで、面白いことがわかった」


 彼は二枚の書類を見比べながら、ルルスのことを覗き込む。


「鎧の破壊には魔法が使われたとみて間違いない。そしてこの手口は、ルルス君。十年ほど前に君の父親が殺害されたときの状況と、全く同じだ」


 樹木によって貫かれた鎧。花開くまで浸食された板金。

 喉仏を切り裂くように貫いた木枝。体内から生長されたように花開いた、遺体の芽。


「このレベルの魔法が使える者は、そうそう存在しないはず。首謀者が誰であれ、実行犯は同一人物だと置いて良いだろう」

「それは僕も、思っていました」

「そいつによって殺されたのは君の父親。そして破壊された鎧をその場で修復したのも、君だと聞いているぞ」

「偶然にも、そうなります」

「偶然というのは便利な言葉だな」


 騎士団長は皮肉な笑みを浮かべると、ペラリと別の書類をめくる。


「そして今日の、アシュラフのAランクパーティー昇格。こちらもきな臭い噂がある」

「というと?」

「彼の昇格に際して、あの教王ボーフォールが冒険者ギルドの長に口添えをしたらしいとの噂だ」

「なぜそんなことがわかるんですか?」

「我々は、ずっとあの男を追っている。奴の周辺には不審な部分が多い」

「たとえば?」

「ここ数年、教会の熱心な信徒が行方不明になる事件が多発している。どれも少女ばかり。『エイリス・ペンディルトン』はその一人で、現在判明している最新の行方不明者だ」


 そして、と団長は付け加えた。


「その失踪事件は、あの教王ボーフォール4世の即位、その直前から始まっている」

「教王には何かがある、と踏んでいるわけですね」

「間違いなく、何かが起きている。奴は何かを企んでいるのだ。現教王は裏で莫大な献金を受け取って資金を集めると同時に、各方に口添えして、自分の手先を各ギルドの重要ポストに据えようとしているように見える。あのアシュラフは、その一人だな」

「なるほど……ということは、待てよ?」


 ルルスは昨日の、ゾイゼンの鎧鍛冶工場で起きた事件のことをふたたび思い出す。


 破壊されていたのは、教会に納品予定だった五体の高級甲冑だけ。

 他の鎧や板金は、無傷のままにされていた。

 ゾイゼンのギルドを潰そうとする連中の犯行なら、手当たり次第に破壊しても良さそうなのに……。


 あれが約束の日までに納品できなかった場合、困るのは教会だけだ。もしもゾイゼンのギルドが納品に失敗していた場合、彼らは教会に何とか許しを請わなくてはならないところだった。莫大な違約金を請求されただろう。つまりは……


「鎧鍛冶ギルドへの攻撃も……使徒教会が、あの教王が主導していた?」

「良いところに気が付いたな」

「ギルドを潰さないまでも、契約違反と違約金を盾にしてゾイゼンを追いやり……ギルドの存続を交換条件にして……教会にとって都合の良い、教王の側近をギルドの長に据えるために? 事実上の支配下に置くために?」

「私はそのように考えている。さらにその翌日、アシュラフの昇格と同時に発生した、モンスターの集団暴走(スタンピード)。これをたった二人で制圧して大きな功績を上げたのは、全ての点と妙な繋がりを持ち続ける、よもやのお前たち二人」


 騎士団長はそう言って、ルルスとゴルティナのことを見つめた。


「まさか無関係であるとは宣うまいな……たとえそれが本当に偶然だったとしても、お前たち二人の身柄は拘束させてもらうぞ。全てを明らかにするまではな」

「…………僕たちが、教王の手先だと言いたいんですね」

「そのように疑っている。もはや確信めいている。お前たちは、奇妙に関係しすぎているのだ」

「でも、そうだとしたら」


 ルルスは純粋な疑問点を口にする。


「僕たちはどうして、ゾイゼンのことを助けたんですか?」

「何が言いたい?」

「僕たちが教王の手先であって、彼の計画通りに行くなら……僕たちは彼らの鎧なんて直さないで、放っておかないですか?」

「……つまり?」

「いやですから。僕たちがゾイゼンのピンチを救ったのは、おかしくないですか? 教王は、彼らのことを嵌めようとしてたんですよね。僕たちが教王の味方なら……どうしてそんな、自分の陰謀を自分で阻止してしまうようなことを?」

「ふん。そんな妙なロジックで言い逃れようとしても……」


 肥満の騎士団長はそう言いながら、固まった。


「………………」

「………………」


 数秒の時間が流れた。


「……そうじゃん! それはおかしいじゃん!?」

「えっ、ええっ!? そこは考えてなかったの!?」


 ルルスが逆に焦っていると、騎士団長は「ぐぐぐ……!」と喉を鳴らして机に縋りつく。


「ほ、本当だ……! それマジじゃん……! お前たちが奴の手先だったら、そこおかしいじゃん……!」

「えっ!? そんなにクリティカルでした!?」

「騎士団長失格じゃん……! そこ全然考えてなかったじゃん……! 複雑すぎて気付かなかったじゃん……!」

「し、しっかりして!? なんか妙なキャラ出ちゃってますよ!?」

「団長! お気をたしかに!」

「人間誰でもミスはありますって!」


 ルルスと傍の騎士たちが、あまりにうろたえまくる騎士団長を励まし始める。


「もう嫌じゃん……! すごい高圧的な感じでいったのに、大事なところ見過ごしてたじゃん……!」

「いや、ただ疑問に思っただけなので! 全然大丈夫ですよ!」

「そうですよ、団長! お気になさらず!」


 傍に控えていた騎士が、たまらず声をかける。

 彼は先ほどの、バックステップ騎士団の一人だった。


「死にたいじゃん……めっちゃかっこ悪いじゃん……騎士団長のくせに肥満だから、こういう時くらい団長らしくやりたいのにじゃん……」

「妙な語尾出てますよ!? というか太ってるのコンプレックスなんですね!?」

「やめろ! 団長は太っていない! 人より数倍ふくよかなだけだ!」

「優しい職場ですね!」


 バックステップ騎士団はアットホームな職場だった。


「死にたいじゃん……穴があったら入りたいじゃん……穴があっても太ってたら入れないじゃん……」

「何言ってるの!?」

「一生懸命考えたのに、全然違ったじゃん……」

「団長! まだそう決まったわけじゃないですから!」

「そう! 大丈夫! まだ僕が正しいと決まったわけじゃないですから! まだ手先の可能性ありますから! いや僕は何を言ってるんだ!?」

「なんだかよくわからないが、元気を出すがよいぞ!」


 ゴルティナが最後に、ピカピカな笑顔でそう言った。


【お知らせ】


明日18時からこっそり、本作のルルス&ゴルティナの子孫世代のお話を投下します。


タイトル『法術大戦 ~世界を救って死んだ英雄、復活した世界で再び伝説に~(仮題)』です!


本作から、千年単位で後の時代のお話になります。

主人公の名前は同名のルルスですが、遠い子孫世代の別人です。

世界の様子は様変わりしてしまっていますが、大体あの二人のせいです。


本作からほぼ独立したお話になりますが、世界の成り立ちや裏側などなどについては、本作を読んでいると微妙にわかる感じにしていますー!


よろしければ、お願いいたします!

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