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32話 バックステップ騎士団


 ということで。


 引き続き冒険者ギルド副長補佐であるセオの聴取を受けているルルスとゴルティナは、これまた引き続き、彼のことを困らせていた。


「つまり……この少女はなぜか、地下領域のモンスターを手懐けることが出来るんだな?」

「つまるところ、そうなります」


 ルルスがそう答えた。

 他にもあらゆる金属を自由自在に操ったり、黄金の操作が特に得意だったり、自分と婚約予定だったり、触れながら錬金術を発動すると換金手数料を踏み倒したりできるが、それについては伏せておく。


「その子については、後に詳しく調査させてもらおう。いいね?」

「はい」

「これで一旦解散、としたいところだが。もう一つだけ聞きたいことがある」

「なんでしょうか」

「そのゴルティナ、という子だが……戸籍上の名前は……エイリス?」


 聴取中に取り寄せていた資料を眺めながら、セオがその辺りに突っ込もうとした所で。


 コンコン、と部屋の戸がノックされた。


「誰だ?」


 セオが返事をすると、ノックの主はそれに答えることはなく。

 バンッと乱暴に、扉を叩き開いた。


 乱入してきたのは、甲冑を身に纏った数人の騎士たち。

 彼らはゾロゾロと無遠慮に書斎室へと入室すると、最後に一人の男を通した。


 何人もの騎士たちを先行させてから現れたのは、赤色の礼服を着た男。

 クルクルと巻かれた赤毛に、首に巻かれた白いスカーフ。

 いかにも貴族出身といった出で立ちの、腹と頬が大きく膨れた肥満の男性だ。


「そこからは、我々に引き継がせてもらおうか」


 彼は偉ぶった歩き方で書斎室に侵入すると、そう言い放った。


 その姿を見て、セオは心底驚いた表情を浮かべる。


「騎士団長殿……どうしてここに?」


 騎士団長と呼ばれた赤い巻き毛の太った男は、驚愕しているセオに、フンと鼻で笑って見せた。


「決まっているだろう。事件の調査に来たのだ」

「まだ本件は、我々冒険者ギルドの管轄のはずですが」

「お前たち自身が調査対象なのだ」


 肥満体型の騎士団長は、そう言ってニヤリと笑った。

 彼はセオと対面しているルルスとゴルティナにも目を向けると、控えている騎士たちに命令を下す。


「この場に居る全員、身柄を拘束しろ!」


 彼はよく通る、男性にしては高い声でそう叫んだ。

 騎士団長という肩書きを知らなければ、彼は騎士の長というよりは……その巨漢から重厚な詩を歌い上げる、劇場歌手のようにも見える。


「彼らは国家に対する、重大な背信行為を働いている疑いがある! 全員ひっ捕らえ、騎士団本部に連行するのだ!」

「…………は?」


 ルルスは思わず、そんな声をあげた。

 一体なんと言った? 重大な背信行為?


 そしてこの太った男が、騎士団長?


「ルルよ。一体どうしたのだ?」

「わからないけれど、どうやら僕たちは捕まるらしい」

「どうして捕まるのだ?」

「僕が教えて欲しいね……」



 ◆◆◆◆◆◆



 都市の警察組織としての役割を担う騎士団の本部は、使徒教会総本部と冒険者ギルド本部を地図上の三点で結んだ際に、ちょうど正三角形となる場所に構えられている。


 彼らと共に騎士団の本部まで連行されたルルスとゴルティナは、通路に並べられた取調室へ、別々に入れられようとしていた。狭い一本の通路にいくつも並べられた取調室には、ルルスとゴルティナ、それにセオの他にも、何人ものギルド職員が一列に並べられて、一人ずつ室内へと拘禁されようとしている。


 ルルスとゴルティナの二人は、隣同士で並んで立たされ、その順番を待っていた。


「冒険者ギルド副長補佐、セオ! 取調室へ拘束!」


 ルルスとゴルティナの一つ前に呼ばれたセオが、周囲に立つ騎士たちによって取調室の一つへと押し込まれる。命令を下している肥満の騎士団長は、手にした木板に何かを書きつけると、次の名前を呼ぶ。


「冒険者ギルド加盟員、パーティー名『ピカ☆ピカ軍団』……ってなんだこの名前は。まあいい。エイリス・ペンディルトン! 取調室へ拘束!」


 呼ばれたのは、ゴルティナが使っている空の戸籍の名前だった。

 騎士団長が読み上げた命令に従い、周囲の騎士たちがゴルティナを取調室へと押し込もうとする。

 そこで、ゴルティナがぷいと手を挙げた。


「待つのだ」


 ルルスの隣の部屋に入れられようとしたゴルティナは、自分を取調室へと押し込もうとする騎士に対してそう言った。逃亡を防ぐため、幅の狭い通路には何人もの騎士たちが配されている。そのうちの自分の真後ろに立つ騎士に向かって、ゴルティナが尋ねる。


「我は、この部屋に入るのか?」

「そうだ。早く入れ」

「隣の部屋がいい」

「は?」


 ゴルティナが指差したのは、隣に立つルルスが入れられる予定の取調室だ。


「いや、お前はこの部屋だ」

「嫌だ。我はこっちが良い」

「わがままを言うな」

「なぜルルと離れなければならない? ルルは我の婚約者であるのだぞ?」

「ゴチャゴチャ言うな。サッサと入れ」


 痺れを切らした騎士が、強い口調でそう言った。

 見かねたルルスが、ゴルティナに声をかける。


「ゴルティナ。ここは大人しく従おう」

「だって我、ここまで大人しく従ったぞ?」

「それはとても偉い」

「でしょう」


 事実、わけもわからないまま連行されることになったゴルティナを、暴れないように制止しておくのは大変だった。彼らがルルス達を乱暴には扱わなかったおかげで、なんとかここまで連行されることができたが……大人しく連行されるということが、ここまで難しいことだとは。


「でも、ルルと別れるのは嫌だな」

「ゴチャゴチャとうるさいぞ。入れ」


 分厚い甲冑を身に纏った騎士が、いよいよドンとゴルティナのことを押した。


 その瞬間。


 ゴルティナの背中を小突いた騎士の身体が、すぐ背後の壁に、爆発したかのように弾き飛ばされる。

それは見ようによっては、彼が突然に、後ろへと凄まじい脚力でバックステップをしたかのようにも見えた。


 恐ろしいほどに不平等な作用反作用の法則が働いたようだ。


「ゴガァッ!?」

「どうした!?」


 突然真後ろの壁に吹き飛んで叩きつけられ、廊下に転がった騎士。

 その異様な光景を見て、その場を監督していた肥満の騎士団長が叫んだ。


「何をやってるんだ、貴様ぁ! そんなところでバックステップをするな! ふざけているのか!」

「いや違うんです! こいつに押されたんです!」


 わけがわからないままゴルティナのことを指さす騎士に、ズカズカと歩み寄ってきた騎士団長が、呆れた表情で返す。


「押されたって……押したのはお前だろ」

「いや!? えっ、えっ!? 自分が悪いんですか!?」


 どういう原理で吹き飛ばされたのか知らない騎士は、混乱しながらも、とにかく立ち上がった。


「くそ……どうなってる! ほら、入れ!」


 騎士が再び、ゴルティナのことを部屋へ押し込もうとして、その肩に触れた瞬間。

 彼は再び、背後の壁に弾き飛ばされた。


「ウグァアッ!?」


 …………。


 その奇妙な光景を、ルルスは困った様子で眺めている。

 お察しではあるが……この騎士。入室を拒否しているゴルティナを無理やり押し込もうとして、触れた瞬間に、身に纏っている金属甲冑ごと吹き飛ばされているのだ。

 かわいそうに。彼は自分の職務に、忠実に従おうとしているだけなのに。


 しかも二回目は、ご丁寧に足の板金まで操作して、まるで彼が自分の意思で飛んだかのように見せかけられていた。恐ろしや最高黄金精霊。金属に対して彼女ができないことはほとんど無い。


「どうしてバックステップするんだ!」

「してないんです! 吹き飛んだんですよ!」


 混乱している騎士たちや騎士団長を余所眼に、ルルスがゴルティナに耳打ちする。


「まずいよゴルティナ。ここは大人しく従おう」

「嫌である。ルルと一緒の部屋がいい」

「いや、これ取り調べだからね? 宿泊施設とかそういうのじゃないからね?」

「嫌だー。もう決めたからなー。我は絶対にルルと一緒じゃないと入らぬぞー」


 駄々っ子精霊が発動してしまっていた。


「くそっ! 早く入れ! …………ウゴバァッ!?」

「なんで!? こんな狭い通路でバックステップするな!」

「すいません! 自分の意思じゃないんです! おかしいんです…………ウガァッ!?」

「ええっ!? どうしたの!? 大丈夫か!? お前大丈夫か!?」

「くそっ! 今度こそ! ……ウギャア!?」

「お前のバックステップが凄いのはわかったから! やめろ! どうした!?」

「逆に、どうして俺がバックステップしてると信じて疑わないんですか!?」

「いや、だってしてるだろ!」


 そういう風に見えるように、巧妙に足を動かされていた。

 吹き飛ぶ直前に足の板金を操作されて、豪快な屈伸運動で後ろに跳ね飛んでいるように見せかけられているのだ。わけがわからなすぎる状況ではあるが、実際に目の前で起きてそう見えるので、仕方なかった。


「その女の子がおかしいんですよ! 触れたら弾き飛ばされるんです!」

「いやだから、お前がめちゃくちゃバックステップしてるようにしか見えないぞ!」

「違うんです! その……魔法だ! 魔法を使われてるんです!」

「相手にバックステップさせる魔法なんて、あるわけがないだろうが!」

「団長も触ってみてください!」

「ええと……失礼?」


 肥満の騎士団長が、ゴルティナに断ってからそっと、その肩に触れてみる。

 何も起こらなかった。


「……何も起こらないぞ?」

「えっ!? なんで!? どうして!? ……ウゴガバァッ!?」

「だからなんでバックステップするの!? どういう精神状態なの!?」

「ええ……なんで……? 俺、もしかしたらバックステップしてるの……? 無意識にしてるの……?」


 自分に自信を失わないで欲しかった。


「ダメだ! お前はもう駄目だ! 誰か、別の奴……お前が入れろ!」


 騎士団長に命令されて、他の騎士がゴルティナを取調室へと入室させようとする。

 その騎士もやはり、豪快な屈伸運動をかましてから、後ろに弾き飛ばされた。


「ウギャア!?」

「なんで!? どうしたの!? うちの騎士団でバックステップ大流行中なの!? バックステップ騎士団なの!?」


 もはやわけがわからなくなっている騎士団長が、混乱してそう叫んだ。


 そんなひと悶着や二悶着や三悶着……四悶着くらいがあってから。


 なぜか取調室にどうやっても入れられないゴルティナは、ルルスと一緒の部屋に入ることになった。

 あの部屋にはどうやっても入れることができなかったが、ルルスと一緒ならばすんなり入ってくれたのだ。疲弊した騎士団長ならびに騎士団員たちは、もうそれで良しとしてくれた。


 要求をゴリ押しできてご満悦な様子のゴルティナは、ルルスの隣で嬉しそうに鼻歌を歌っている。


「ゴネてみるものであるなあ」

「かわいそうに……」


 ルルスはややげっそりしながら、そう呟いた。



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[良い点] バックステップ、クッソ笑いました。 色々な作品読んでますけど、読みながらリアルでニヤけてしまったのは、久しぶりな気がします。
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