31話 「ご職業は?」「精霊です」「何を担当されていましたか?」「黄金です」
ということで。
こちら側の世界に殺到して来ていたモンスター達であるが、彼らはゴルティナがあやして落ち着かせることに成功し、そのまま地下領域へと退散させる運びとなった。
ゴルティナが一人でモンスター達を引き連れて扉の奥へと消えて行ってしまっている間、ルルスは集結していた冒険者たちから、質問責めにあっている。
「お前ら、一体何なんだ……?」
冒険者の一人が、ルルスにそう尋ねた。
「僕たちは、その……『ピカ☆ピカ軍団』っていう名前のパーティーでして……」
「『ピカ☆ピカ軍団』……?」
「どうしてそんなパーティー名に……?」
「それは僕も、常日頃から疑問に思っています」
「あの女の子は何なんだ?」
「ですから彼女は、特殊な訓練を受けた特殊な子でして……」
「職業は何だ?」
「元Aランクパーティー所属か?」
「脱退して新規パーティーを作った感じか?」
「どういう魔法を使ってるんだ?」
「二人の関係は?」
「恋人同士か?」
「あーもー! そんな一度に聞かれても答えられませんよ!」
興味津々な冒険者たちに取り囲まれているルルスは、たまらずそう叫んだ。
彼らはつい先ほどの昇格式など完全に忘れてしまっているようで、いまだに待合室の隅で伸びているアシュラフを、起こしに行こうとする者すらいない。
彼らの強烈な興味関心は、たった一人で冒険者ギルド……ひいてはこの都市の危機を救ってみせた……凶暴なボストロールやモンスターを子犬扱いする謎の少女と、その連れであるルルスに向けられている。
「どけ」
ルルスを囲む冒険者たちの合間を縫って、先ほどのギルド幹部が現れた。
彼がルルスの目の前に立つと、空気を読んだ冒険者たちが一旦、質問責めを中断する。
「ルルスといったか」
「ええと……はい、そうです」
「ラオンの息子だな? 知っているぞ」
「あ、そうですか……」
彼はルルスを立たせると、手で払って冒険者たちに道を開けるように指示した。
退路を確保すると、その男はもう一度、ルルスに向き直る。
「聞きたいことは山ほどあるが、とにかくよくやってくれたな。大手柄だ」
「相方の手柄ですけどね……」
「彼女と君のパーティーの功績だ。彼女はいつ戻って来る?」
「すぐに戻ってくると思います」
ルルスがそう答えると、侵入口に繋がる通路から、ゴルティナがペタペタと歩いて帰還してきた。
「ルルよー。帰してきたぞー」
「あ、おかえり」
「ただいまピカピカ」
「大丈夫だった?」
「みんなビクビクで、大人しく帰ってくれたぞ」
神格の連れ添いで退散を願った結果、スムーズに地下領域へと帰ってくれたようだった。
「どうしてこっちに来ようとしてたか、わかった?」
「聞いてみたんだけど、わからなかったぞ」
「答えてくれなかったの?」
「言葉が通じなかった」
前提部分でつまずいていた。
聞く前に気付いた方が良さそうだった。
「二人とも、私と一緒に来てくれるか」
ルルスとゴルティナに、ギルド幹部がそう尋ねた。
「私の名前はセオ。冒険者ギルドの副長補佐だ」
◆◆◆◆◆◆
アシュラフを表彰した後に、先ほどの危機状況に対する陣頭指揮を取っていたセオという名のギルド幹部は、後から応援に駆け付けた冒険者パーティーに引き続きの警戒態勢を取らせると、監督を他の職員に任せ、ルルスとゴルティナを自分の書斎室に招いた。
一般の冒険者は滅多なことが無い限り、ギルド本部の上層階に足を踏み入れることはない。セオの書斎は本部上階の三階部分にあった。その広くは無いが整頓された部屋に足を踏み入れると、ルルスはなんとなく緊張する。
「まずは、ご苦労だった」
小椅子に二人を座らせ、自分も書斎机についたセオがそう切り出す。
「こういうことは、何十年に一度あるかないかと言われているのだが……前回は都市にモンスターが逃げ出してしまって、大変なことになったんだ」
「そうなんですか」
相槌を打ったのはルルスだ。
「今回も危ないところだったが……君たちのおかげで、とりあえずは危機を脱することができた。ギルドを代表して、礼を言わせてもらうよ」
「なんもであるぞー」
とゴルティナが言った。
「それで、早速なのだが……」
セオはそう言いながら机に両肘をつくと、ゴルティナに視線を合わせる。
「さっきの君の、アレは……一体どういうことだったんだ?」
セオはゴルティナに、当然の疑問をぶつけた。
殺気立ってこちら側へと殺到しようとしていたモンスター達。
それを怯え上がらせてあやして幼児の付き添いよろしく、子犬でも退散させるが如く超穏便に地下領域へと帰してしまったゴルティナ。
その経緯において当然発生しまくっている疑問点について、明らかにしておきたいらしい。
「どういうこと? っていうと?」
首を傾げたゴルティナが、ぶっきらぼうに聞き返す。
「君の職業はなんだ?」
「精霊をやっているぞ!」
「……精霊?」
セオの眉間に皺が寄った。
ルルスはゴルティナに、たまらず小声で耳打ちする。
「ゴルティナ、それ内緒にする奴だよね」
「そうだった。忘れてた」
困った様子のセオは、今度はルルスの方に質問してみる。
「この女の子は、つまり何が言いたいんだ?」
「ええとですね。つまり彼女は……自分は精霊にも匹敵する実力の持ち主であると言いたいわけです」
「それで、職業は精霊だと」
「変わった子なんです」
「大きく出たものだな」
「彼女の自信は大きいんです」
ピカピカに。
ルルスに確認を取って一応の納得を得ると、セオは彼からしてみれば自分のことを精霊だと思い込んでいる微妙に精神状態が怪しい少女にしか見えないが、本当のところは本物の最高黄金精霊であるゴルティナに向き直った。
「君の自信のほどはよくわかった」
「うむ」
「それで、君の職業は?」
セオに再び聞き返されて、ゴルティナは少し唸る。
精霊と答えてはならない縛りがあるので、彼女なりに返答を考えているのだ。
「しいて言うならば、黄金をやっているぞ」
少し悩んでから、ゴルティナはそう答えた。
黄金であることが職業である系の女の子だった。
セオがふたたび、ルルスに通訳を求める。
「この子はつまり、何が言いたいんだ?」
「つまり彼女は……自分は精霊並みの実力がある凄い冒険者なので、それはもう……その……人生ピカピカで、もう黄金みたいな生涯を送ることが仕事みたいな感じだと言いたいんです」
「……つまり、彼女の職業はなんなんだ?」
ルルスは釈明に失敗した。
「しいて言うなら、彼女の職業は錬金術師です」
「錬金術師。そうか」
ルルスの超拡大解釈に、セオはなんとか自分自身を納得させる方向で思考してくれた。
というよりも、とりあえずはその方向で考えるしかないようだった。
「それで、あれは……錬金術の、どういうスキルを使ったんだ?」
セオが、再びゴルティナに質問し直す。
「別に、スキルなど使っていないぞ」
「それじゃあ、どうやってあのモンスター達を……手なづけたんだ?」
「それは我なんだから、当然であろう」
セオはルルスに助けを求めた。
「この子は何を言っているんだ?」
「まあ、もうそういうことなんですよ。はい」
ルルスは通訳と釈明を諦めた。
なんにでも限界というものがあるのだ。
肉を大量に買いこんで冷凍庫にぶち込んだ結果、自炊面倒くさい病が完治しました。




