22話 尻派
「あー。時間も余ったし、クエストでも受けてみる?」
「…………」
「夕飯なに食べる?」
「…………」
「ゴルティナー?」
「…………」
「はあ……」
困った。
完全に拗ねている。
ズカズカと歩くゴルティナに話しかけながら、ルルスはため息をついた。
ううむ。こんなに拗ねられてしまうのは初めてだ。
胸の大きさでここまで拗ねてしまうとは。以後気を付けないと。
この少女型の精霊は、この不機嫌状態からいつ怒髪天精霊モードに切り替わってしまうか見当も付かないので、細心の注意を払って付き添わないとならない。不意の即死ケースがあるので……とにかく今は、片時も目が離せない。
「……僕、胸は小さい方が好きだけど」
「本当に?」
ゴルティナが立ち止まって、ルルスの目を覗き込む。
しまった。
この精霊、見破ろうと思えば人間の嘘を判別できるんだった。
「…………」
「…………」
命を賭けた貧乳派と巨乳派の魔女裁判にかけられて、ルルスは冷や汗をかく。
正直、真偽がどっちなのかルルス本人にもわからない。
考えたことすらなかったから。
「……微妙であるな」
「どういうこと?」
「嘘でも本当でも無さそう」
「じゃあ、そもそも気にしてないのかも」
「そういうことであるか」
ホッと胸を撫で下ろす。
よくよく考えてみると、ルルスは尻派だった。
◆◆◆◆◆◆
露店で軽食を買ってから、そのまま部屋に帰る。
買ったのはゆで卵と、サラミのような細長い枝のような形をした肉の加工品。よく買う奴なのだが、ルルスにはこれが何の肉なのか未だにわからない。塩っ気に騙されているだけで、肉ですら無いのかもしれなかった。
一緒に細肉をポリポリと齧っていると、ゴルティナがふと呟く。
「こんな貧相な物ではなくて、もっとピカピカでキラキラした物が食べたい」
「お金が無いから、仕方ないよ」
「どれくらいあれば食べられるのだ?」
「うーん」
ルルスは考えてみた。
そもそもゴルティナが考えているような豪華な料理というのは、通常上流階級にしか振る舞われない。料理人のギルドは基本的に貴族連中に囲われているため、多少の金があるくらいでは、下々の人間にはお目にかかる機会すらない。
つまりはお金の問題ではなく、階級の問題。お金でこの辺りの問題を解決しようと思ったら、それこそ恐ろしいほどの額になる。ギルドの上級パーティーであろうと、そんな料理は年にいくらも食べていないはずだ。
「貴族とかにならないと厳しいね」
「どうすればなれる?」
「偉い役職に長年勤めたり、活躍して王様から授けてもらったり、あとはお金で買ったりかな」
「どれくらいあれば買えるのだ?」
「金貨一山じゃ足りないと思う」
「それではまず、お金を貯めようかの」
貴族の封土を購入するレベルでお金を貯め始める系の少女だった。
「それか、なんかピカピカーッ! って大活躍する方が早いかの?」
「多分、そっちの方が現実的だと思う」
現実的ではない選択肢の内の、どちらかといえば現実的な方だった。
「どれくらい活躍すればいい?」
「……国を救うレベルとか?」
「そんなの我がいれば、ちょちょいのピカピカで楽勝であるな」
ゴルティナは細肉を齧りながら寝っ転がると、鼻歌を歌い始める。
「ふんふふーん。早く来ないかなー。国が攻め落とされる感じの大軍勢とか、明日辺り来ないかなー」
恐ろしい願望が垂れ流しだった。
寝耳に水にもほどがある。
「明日はどうしようかの?」
「とりあえずクエストでも受けて、パーティーの実績を付けていこうか」
『ピカ☆ピカ軍団』、ギルド公認の冒険者パーティーを目指して。
「地道な道のりであるなー」
「お金は降って湧いて出て来るものじゃないからね」
「なにか他に、ピカピカーっと一獲千金できないものかー?」
「うーん」
考えてみたところで、ルルスはそういえば、と思い当たる。
「ゴルティナってさ……」
「どうした? ルルよ」
「最初に会った時に作ってくれたような、金属製の籠って……簡単に作れるものなの?」
「あんなの、片手間の片手間の片手間にピカッと作れるぞ」
「…………」
そういえばこのゴルティナは、超一級の鍛冶職人か錬金術師が何日もかけて作るような工芸品を、金属製ならば一瞬の片手間に造形できる系の少女だった。
『究極の闇』一行も手伝ってくれるだろうから、今なら人手はある。
……それでいけるかも?
百均でシルバーラックの組み立てセットを一式買ったら、部品を一つだけ買い忘れて泣きました。
ブックマークは、お部屋を整理してから!




