19話 アトリエ
続けて、かねてからゴルティナが所望していた冒険者パーティーの申請も済ませてしまう。
パーティーの申請には、これに参加する複数名の名前と、それぞれの登録証が必要だ。
「申し訳ないんだけど……」
申請書に色々と書き込みながら、ルルスは五人の『究極の闇』たちに声をかけた。
「パーティーの申請に、みんなの名前だけ貸してくれたり……できないですかね?」
「パーティーに入れてくれるんですか!?」
「複数パーティーへの参加は禁止でなかったはずだから……嫌だったら、アレなんだけど……」
「いや! ありがたいっす!」
「じゃんじゃん登録しちゃってください!」
登録証を預からせてもらうと、彼らがコソコソと話し合うのが聞こえてきた。
「おいおい……俺たち、すげえパーティーの初期メンになれるかもしれないぜ」
「あの二人のパーティーだったら、絶対これからデカくなるぜ」
「棚ボタってレベルじゃねえぞ。恩を売っとかねえとな」
「大手パーティーの初期メン最高幹部とかになれるかもしれないぜ」
「俺たちのサクセスストーリー始まったか?」
まあ、どう思ってくれようと構わない。
すでに公認パーティーである『究極の闇』に入れてもらえば早いわけではあるが、これには不都合がある。ルルスの中途加入は問題が無いのだが、ゴルティナの方は冒険者としての実績等が足りないため、公認パーティーへの加入がまだ認められていない。
ペンを走らせていたルルスの手が、『パーティー名称』の欄で止まった。
「ゴルティナ? パーティーの名前、何にする?」
「名前を決めてもよいのか?」
「呼びやすい名前にしよう」
「じゃあ、『ピカピカ団』!」
「それは……ちょっと苦しいかな」
「どうしてであるか?」
「だって、これからその名前で呼ばれるんだよ? 職員の人から、「ピカピカ団の皆様」とか呼ばれるんだよ」
「素敵でピカピカではないか」
困った。
ネーミングセンスに難がある系の無邪気な少女ときどき上位存在だった。
「じゃあ、『キラキラ団』」
「方向性を変えたい」
「『ピカピカキラキラチーム』」
「『ピカピカ』と『キラキラ』から離れてみない?」
「『ピカ☆キラ』」
悪化した。
何とか方向性を修正したいルルスは、『究極の闇』五人組を呼ぶ。
「パーティーの名前なんだけど……何か良いアイデア無いかな?」
「ゴルティナさんは、何て言ってるんですか?」
「我は、『ピカピカ団』か『キラキラ団』か『ピカピカキラキラチーム』が良いと思うな!」
「すっげえ良いと思います!」
「最高です!」
「『ピカ☆キラ』も捨てがたいと思っているぞ!」
困った。
彼らはそもそも、自分たちのパーティー名に『究極の闇』と名付ける男たちだった。
強力な増援を呼んでしまった。
ルルス的には、『ピカピカキラキラチーム』と『ピカ☆キラ』だけは絶対に避けたかった。
「普通に、『黄金の剣』……とかは……?」
「おうごんのけん?」
「それってダサくないですか?」
「かっこよさげな単語くっつけただけって感じで、センス無いっすよ」
「『ピカピカ団』の方が個性的で良いっすね」
「そう思うー!? 我もそう思うー!」
ぐぐぐ……!
パーティー名ってそんなもんだろ……! とルルスは思う。
というかどうして、急に僕への当たりが強くなってるんだ……!
「じゃあ『ゴルティナ隊』……もしくは、『ゴルティナ一行』とか……」
「どうしてパーティー名なのに、我の名前を入れるのだー」
「だって、リーダーはゴルティナみたいなもんだし……」
「でもたしかに、『ピカ☆キラ』だとパーティー名なのか何なのか、わからないっすよね」
「そうだろ!? 僕もそう思うんだよ!」
ここぞとばかりにルルスが同意した。
そこで一旦考え込んだ『究極の闇』たちは、ふと口を開く。
「『ピカ☆キラ団』で良いんじゃないっすか?」
「おお! ナイスアイデア!」
「☆を活かしたいので、やっぱり『ピカ☆ピカ団』の方がピカピカ感が出ていいんじゃないですかね?」
「『キラ☆キラ団』は?」
「きらきら星みたいだな」
「じゃあ『ピカ☆ピカ団』か」
「『ピカ☆ピカ隊』は?」
「『ピカ☆ピカ軍団』」
「うむ! よいぞよいぞ! 素晴らしいアイデアがザックザクと出てくるのう!」
『ピカ☆ピカ』の方向性が修正不可能になりつつあった。
ルルスは民主主義による敗北を認めて、特に意見を出さずに静観を決め込む。
奇跡のネーミングセンスの一致を見せたゴルティナと『究極の闇』たちは、パーティー名を決める熱い議論を通して急速に仲良くなっていく。魂のフィーリングが合うのかもしれなかった。
最終的に決定されたパーティー名を申請書に書き込み、ルルスが受付へと提出しに行く。
「お願いします」
新規冒険者パーティーの申請書に目を通すと、受付嬢は丸眼鏡の奥で眉をひそめた。
「……『ピカ☆ピカ軍団』?」
「……はい」
「このパーティー名で、本当に良いんですか?」
「彼らはこれで良いみたいです」
受付嬢は目を細めながら、『ピカ☆ピカ軍団』のパーティー結成申請を受理してくれる。
受理されてしまった。
受付からゴルティナの下に戻る際に、ルルスはふと、待合室の壁にかけられた複数の肖像画に目が留まった。待合室の窓側の壁には、横一列に並ぶ窓を挟みこむようにして、肖像画がかけられている。
公認パーティーの最高峰……Aランクパーティーの肖像の一部が、そこに飾られているのだ。その中には、現在は冒険者ギルドの長や最高幹部に収まっている者や、現在でも現役の者。または、すでに死んでしまった者も存在している。しかし、その誰もが冒険者として超一流であったことに変わりはない。
「…………」
並べられた肖像の一つに、ふと目が留まってしまう。
その集団肖像画の下には、『工房』というパーティー名と活動期間、創設メンバーの名前が銀枠に彫られていた。固まって座り込んでいるメンバーたちの肖像は、一人の男を中心に描かれている。
黄色がかった茶髪の、優し気な表情でほほ笑む男。
年齢は、三十半ばといったところだろう。
それはルルスの父親だった。




