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18話 もっと超余裕になりたーい!!!


 ということで、また朝が訪れる。


 がばりとルルスが起き上がると、半身に大きな重しがくっついていることに気付いた。


 ゴルティナだ。


 一緒に寝ていた彼女は、今日は腕どころか身体にしがみついて、ルルスのことを抱き枕にしている。

 それはルルスの急死を防ぐための措置ではあるのだが、順調に加速度的に、色々な意味で距離が縮まっていることに違いはない。


「……起きよう」


 いつものようにそう宣言すると、しがみつくゴルティナをそっと引き剥がして、いつものようにうがいをする。窓の外にうがい水を吐いていると、ゴルティナが物音で目を覚ました。


「んんぐぁああー」


 低い雄叫びを上げながら目を覚ましたゴルティナは、「んーんー」と唸りながらベッドで転がる。


 まだ、完全に起きる気配はない。


 その間に、ルルスは家賃の滞納分を支払いに行った。

 銀貨の山で支払って証書に印を押してもらい、部屋に戻る。


 寄り道せずに戻ってくると、ゴルティナがベッドの上に座ってむくれていた。


「むー」

「……どうしたの?」

「ルルこそどうしたのだ」


 ゴルティナはそう言って、やや怒ったかのように頬っぺたを膨らませる。


「朝っぱらから、我を置いてどこかに消えおって」

「ごめん、用事を済ませてた」

「我より大事な用事か?」

「ゴルティナより大事な用事ではない」

「なら消えるな」

「それは無茶苦茶だ」

「我のことが好きではないのか?」


 そういう問題じゃない。


 という台詞が喉まで出かかって、ルルスはそれを飲み込む。


 目の前にいるのは、喧嘩が発生して運が悪いと、即死ルートに突入する系の少女だった。

 しかもこの質問は、答え方を間違えるとけっこう危ない代物に思えた。


「……いや好きだよ!?」

「本当?」

「う、うん!」

「どれくらい?」

「ええと……これくらい?」

「尺度がわからぬ」

「その……ええと……!」

「……やっぱり、我のことが好きではないのか?」

「いや!? 好き好き大好き愛してる!」

「ピカピカに照れちゃうぞ!!」


 不意に垣間見えた、デッドエンド分岐が回避されたようだった。


 何故かぜえぜえと息をしているルルスに、ゴルティナが再び尋ねる。


「それで、何をしてきたのだ?」

「部屋を追い出されないように、家賃を払ってきた」

「いくら払ってきたのだ?」

「3ヵ月分で、60,000ゼルくらい」

「そう言われてもわからぬ」

「銀貨60枚くらい」

「昨日に稼いだのはいくらだったか?」

「90枚くらいだね」


 本当は100枚ほどであったのだが、10枚ほどは『究極の闇』の面々に手間賃として分けてしまった。


「そうか。ふああ……」


 欠伸をすると、ゴルティナは再び寝っ転がり始める。


 半裸で身体をくねらせる彼女の姿に、ルルスは健全な少年として、思う所が無いわけではない。


「そうかぁ……90枚の内、60枚も無くなってしまったかぁ……」


 寝返りを打ちながらそんな風に呟いていると、ゴルティナの動きがピタリと止まる。


「……半分以上も消えてしまったではないかぁ!?」

「まあ、あと30枚は残ってるし」

「そういう問題ではなーい! どうするのだぁー!」

「まだ30枚もあれば、まだ大丈夫だよ」

「全然余裕じゃないー! もっと超余裕になりたいー!」

「それは同感」


 神格と世知辛い話をしていると、黄金精霊はガバリと起き上がる。


「よし、もっと稼ごう!」



 ◆◆◆◆◆◆



 ということで、再び冒険者ギルドを訪れる。


 ギルドの待合室に入っていくと、ドタドタと駆けてくる者が五名ほどいた。


「兄貴!」

「おはようございます!」

「あ、おはよう……」


 ルルスが返事をしたのは、昨日の『究極の闇』五名。


 彼らはルルスに対して挨拶をした後に、隣のゴルティナにも恐る恐る声をかける。


「あの、おはようございます……」

「おはよう! お前たち! 殊勝であるな!」


 存外ご機嫌な様子のゴルティナに、五人はほっと胸を撫で下ろした様子だった。


 どうやら、ルルスのことを尊重していれば特に文句は無いらしい。


「兄貴、例の物が……」

「あ、さっそくですか?」

「はい! 昨晩何とか手に入れました!」


 待合室の隅の方で確認すると、彼らが入手してくれたのは二種類の戸籍。


 二種類といっても、戸籍が二つ分という意味ではない。

 一人分の戸籍に通常必要とされる、二種類の登録を両方入手してくれたという意味だ。


「身分登録証と人頭登録証だ。ありがたい」

「はい! 二つとも必要だと思って!」

「これは何なのだ?」


 ゴルティナが二枚の証書を覗き込んできた。


「こっちが政府に登録される身分登録。こっちが教会に登録される人頭登録」

「教会?」

「正確には使徒教会。彼らにも税金を払わなくちゃならないから」


 国教たる使徒教会。

 指導者たる教王……現在は教王ボーフォール4世を頂点として、精霊を信仰する宗教団体。


 首都たるこの都市に総本部が存在し、組織の指導者たる教王もそこに所在している。総本部はちょうど、ゴルティナと以前にご飯を食べに行ったときに、建物の上の部分だけは見えたことがあった。


「ふむふむ。これがあるとどうなる?」

「冒険者ギルドに加盟できる。彼らが手に入れてくれたんだよ」

「本当か! お前たち、ご苦労であったな!」

「はい!」

「ありがとうございます!」

「滅相もない!」


 証書を眺めてみると、それは元々エイリスという名前の、工夫の娘の戸籍であるらしかった。


 しかしその証書と戸籍が裏で出回っているということは、彼女は何らかの理由で帰らぬ人となってしまったか、この土地からこっそりと離れてしまったのだ。


 しかも恐らくは、親ともども。


 それには色んなパターンがあって、中にはかなりの悲劇が含まれている可能性も無きにしも非ずではあるが……とにかく、空の戸籍が手に入ったのは有難い。


「ゴルティナ。これからは、ギルドの職員とかには『エイリス』と名乗ってね」

「我はゴルティナであるぞ」

「でも戸籍上は『エイリス』になるから、公にはそう名乗った方が面倒事は少ない。ゴルティナは愛称ということで」

「面倒事は嫌いではないぞ」

「僕は嫌いだな」

「嫌いな方に」

「合わせよう」


 偽の戸籍を使って、冒険者ギルドへの加盟手続きを済ませる。


 これで晴れて、ゴルティナは『エイリス』という名前で冒険者ギルドの加盟員となった。

 登録料やその他諸々に、半強制的にあてがわれる住居の家賃を一か月分前払いすると、手元に残ったお金は銀貨10枚ほどになってしまう。


 しかしこれにて、ゴルティナはギルド加盟員の証であり、同時にダンジョン侵入の許可証ともなる登録証を受け取る運びとなる。


「これが我の登録証であるかあ! なんだか嬉しいのう!」

「彼らに感謝しないとね」

「お前たち! 我は嬉しいぞ!」

「はい!」

「有難き幸せ!」


 ルルスがしきりに誘導していると、ゴルティナと『究極の闇』の関係は段々と良好になっていた。


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