13話 “ス”責めであるぞー!!!
薬草採取のクエストを受けたルルス一行(計2名)に手渡されたのは、以前にゴルティナが一瞬で錬金した黄金製の籠だった。
それを担いでダンジョンの入り口へと進み、守衛に許可証を見せて侵入口を解放してもらう。
ルルスと一緒に反転した世界……つまりは地下領域に足を踏み入れたゴルティナは、暗い土作りの洞窟の中で息を吐いた。
「よぅし! ジャンジャンピカピカに採るぞ! ルル!」
「うん、頑張ろう」
「やっすい仕事とはいえ! 一度で大量に取り切れば問題あるまい!」
ズカズカと進んでいくゴルティナの後ろ姿を眺めながら、ルルスはギルド非加盟員のゴルティナが依頼を達成した場合……報酬額の5割がギルドに持っていかれることを、いつ説明しようか迷っていた。
ダンジョンを進み、その合間にチラホラと生えている薬草を籠の中に放り込んでいく。
その様子を眺めていたゴルティナは、本日何度目かのゲンナリした顔を浮かべていた。
「そんな風にチマチマ採っていても、仕方ないではないかぁー」
「薬草採取なんて、こんなもんだけどね」
「もっとガバーッと! ピカピカーって採る方法は無いのか?」
「うーん。あるにはあるんだけど……」
「あるのではないか」
「ダンジョンの奥の方……上の階層に、薬草がたくさん群生している所があるんだよね」
「ふむふむ」
「そこまで潜れば、一気に採れるかも」
「よし! そこまで行こう!」
ゴルティナは薄い胸当てで隠された薄い胸を張り、そう宣言した。
「途中の些末な薬草は全部無視! そこに行くまで採るの禁止!」
「でも、2人でそこまで潜るのは危険だよ。上の階層に行くんだからさ」
「心配するでない! 我がいるではないか!」
あっ、そうだった。
僕、上位存在の最高精霊と一緒にダンジョンに潜ってるんだった。
ついつい弱小冒険者の思考で安全策に囚われていたルルスは、彼女の提案に乗っかることにする。
どんなモンスターが現れても、ゴルティナがいれば問題あるまい。
たぶん。おそらく。
◆◆◆◆◆◆
「クエスト、クエスト、たっのしいなあー! ピッカピカー!」
妙な歌を歌いながら機嫌が良さそうに歩くゴルティナの後ろを歩いていると、ルルスはあることに気付く。
全然モンスターが出ない。
異常なほどモンスターと遭遇しない。
「……モンスター、全然出てこないね」
「んぅ? 当たり前であろう」
「当たり前?」
「だって、我がおるし」
ゴルティナが振り返ってそう言った瞬間、洞窟の向こうの曲がり角から、一瞬だけゴブリンが顔を出したのが見えた。
そのゴブリンはゴルティナが前を向く前にサッと影に隠れて、姿を消してしまう。
「どいつもこいつも、この最高黄金精霊たる我に恐れおののき、隠れているのであろう! 殊勝なことであるぞ! お前たちー!」
「…………」
なるほど、とルルスは思った。
ダンジョンに巣食う弱小モンスター達にとっては、各属性の代表者たる精霊はラスボスどころか神格級の存在。ゴルティナは人間にとっては可愛らしい金髪の女の子にしか見えないが、モンスター達はその辺りの格の違いを本能で、鋭敏に察知してしまうのかもしれない。
……マジか、とルルスは思った。
ずっとこんな調子なら、ダンジョン探索とかぬるすぎないか?
楽勝すぎないか?
「しっかし暇であるなあ。ルルよ、何か暇つぶしでも無いかな?」
「うーん。それじゃあ、しりとりでもする?」
「するする! それじゃあ当然! 我が先行だな!」
上位存在であるゴルティナが常に先行なのは、当然らしかった。
「ゆっくぞールル! りんご!」
「ご……ゴマ」
「マチュリシュタリアニアスシアゼリアバス」
「待って」
「どうかしたか?」
「マチュリ……マチュリなに?」
「マチュリシュタリアニアスシアゼリアバスだぞ。わからないのか?」
「申し訳ないけど、全くわからない」
「炎の精霊アダマスの、前々任者の名ではないか」
「そうなんだ」
「ルルったら、意外と物知らずであるなあ! 常識であろう!」
しまった。
この子は人間世界じゃなくて、精霊世界の常識でしりとりしてくる系の子なのか。
「じゃあ、たしかスで終わったね」
「マチュリシュタリアニアスシアゼリアバ“ス”だからな!」
「す…………スルメ」
「メドヴァ・ローロング・ゼキス・セイント・ガイルドスタミス」
「それは誰の名前?」
「精霊の名前ではなくて、太古の昔の都市国家の名前ー! 火山の噴火で消滅したところ!」
歴史の新事実が多数発見されるしりとりになってしまった。
「“ス”責めであるぞー!」




