1話 不幸にも金ピカの絶対存在と遭遇してしまう
ダンジョン。
この世界の裏側にピッタリと張り付いている、永遠の未開拓領域。
そんなダンジョンの奥深くで、ルルスという少年が腰を抜かしていた。
「ひっ、ひぃい……っ!」
唇から零れるのは、恐怖の色を帯びた微かな悲鳴。
そこはダンジョン深部の、少し開けた洞穴。
剥きだしに突き出された無数の金属片が石壁を覆い尽くす、異様な空間。
そんな異形の領域に足を踏み入れてしまったルルスは、その場に尻餅を付いて、ヘビに睨まれたカエルのように動けなくなってしまっていた。
彼の視線の先には、一人の少女が立っている。
「愚かな人間種よ」
不思議に反響する声色。
仄かに発光する金色の髪。
四肢の末端に纏われる、黄金に輝く分厚い手甲足甲。
しかしそれ以外は、ほとんど全裸に近い。
そんな幼い裸体を申し訳程度に覆い隠すのは、煌びやかに光る金細工の装甲。
まるで、人間が着るような衣服など不要といった様子。
着飾れど隠さぬ威風堂々。
神々しさの塊たるその御姿。
胸に覗くは、金色に輝く不思議な鉱石。
彼女の素足がひたりと伸ばされると、周辺の物質が緊張して身構えるかのように軋み、金属同士が擦れ合うかのような高い音が迸った。
背筋が疼くような音だ。
「不敬にも、我が洞穴に足を踏み入れるとは」
金髪の少女はそう言って、細い腕を組んだ。
腰を抜かしたままで動けないルルスは、その少女を前にして、奥歯をガチガチといわせている。
精霊……!
神的存在の一つ。
世界の各属性の顕現にして代表者。
最強最高位の存在の一人!
どうして、こんなところに!
「我が名はゴルティナ!」
少女がそう叫んだ瞬間、洞穴を覆い尽くしていた無数の金属片がまるで生き物のように蠢き始めた。それらは互いに組み合わさり、彼女の感情を代弁するかのようにして、その形態を変えようとする。
「この世の全ての“金属”の代表者! 誉れ高き前任者の後継! 最高黄金精霊!」
彼女の名乗りと同時に、周辺に存在する全ての金属が首を垂れるかのように折り曲げられた。それはまるで忠実な従者のようにして自ら蠢き、ゴルティナという名の精霊を中心として整列する。
こ、殺される――!
ルルスはそう思った。
ちょっとソロでダンジョンに潜っただけなのに、どうしてこんな存在に出くわすんだ!
国一つと対等か、それ以上の存在として君臨する絶対存在に!
運が悪いとか、そんなレベルじゃない!
「ふはははは! 哀れな冒険者よ! 不敬にも我が領域に足を踏み入れ、我と出会った幸運を喜ぶがよい! 我と出会ってしまった不運を嘆くがよい!」
少女の形をした絶対存在は、そう言って高らかに笑う。
ど、どうしてこんなことに……!
ほんの数時間前のことが、走馬灯のように思い返される――