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歴史学教師の鬱憤

なんで自分は歴史学の教師なんかやっているんだ?


私、オルタナ・カーチェスは常に不満だった。

本当なら今ごろは、王宮で魔法使として働いているはずだったのに。

私の実力で落ちるはずはないんだ。

考えられる理由はたった一つ私の出身が男爵家だからだ。

その証拠に今の王宮魔法使は、カイルの親である伯爵家だ。

私は自分の生まれを呪った。

せめて貴族が通う名門の学園で魔法学の教師をするはずだった。

私の実力で落ちるはずはないのに、なぜか俺は歴史学なんかを教えてる。

何より屈辱だったのは、魔法学の教師であるアルーシャは、私と同じで男爵家出身だったことだ。

くそっ。同じ身分なら、実力で私が負けるはずないのに。

なんで自分は歴史学の教師なんかやっているんだ?


そんな不満だらけの生活のなかで、授業中にアリス・サーフィスが質問した内容をとるにくだらないことだと私は取り合わなかった。

しかし、後からその質問が、私の重大な誤認に気づかせた。

歴史学の教師として致命的なほどの歴史の誤認だ。

不満だらけの現状に辟易していたが、それでも歴史学の教師であることさえも否定されることは私には耐え難い苦痛だった。

くそっ。

それからはずっとどうやったらアリス・サーフィスを貶められるかということばかりを考えていた。


殿下やカイルがダンスパーティーで罪を犯そうとしていることを知ったのは偶然だった。

その計画は、悪魔のような甘い蜜のような抗いがたい誘惑をもって、私を魅了した。

上手くいけばアリスは全てを失うし、失敗してももう学園に来れないくらいには傷つくだろう。

私は、殿下とカイルたちに協力を申し出た。

平民のダンは教師である私が仲間になったことを心から喜んでいたが、殿下とカイルは別にどうでも良さそうだった。

それがまた私の心を刺激して、その怒りはそのままアリスに向けられた。

殿下はなぜかカイルに光魔法で結界を張るように強く勧めていて、そこまでする必要は感じられなかったが、本来なら私がやるべきである魔法学の教師をしているアルーシャでも破れない結界を張ることは、妙案だと思えた。青臭い教師魂を持っているあいつは必ずアリスを助けにくるだろう。その時に、自分には決して破れない結界に阻まれたなら、上手くいけば自信をなくして教師を辞めるんじゃないか。

いい気味だ。


ダンスパーティーでの計画はすべて上手くいった。

アリスは泣いた。

アリスが学園をしばらく休むと聞いたとき、私は勝ったと思った。

やっと自分の人生に勝った。

予想外だったのは、アルーシャよりも先に考古学教師のミカエルが私に向かって来たことだ。

「あなたを軽蔑します!」

小生意気なくそ女だ。

無視をして授業に向かった。

教室に入ると、いつもなら私が入るだけでキャーキャー言う女子生徒たちも、くだらない話で騒いでいる男子生徒も無言で座っていた。

「どうした?皆、今日はおとなしいな。」

教師である私の問いかけに答える生徒は一人もいなかった。

授業中に誰をあてても俯いて、誰も答えなかった。

どこのクラスでも、誰もだ。

アリスはいなくなったのに。

今までだって不満だらけだったが、それでも、生徒は私の授業を聞いていた。

私がどんな人間だとしても私が教師である限り生徒は私の授業を聞くはずなのに。

結局私は誰にも届かない授業を5時間続けた。

歴史学だとしても、授業を聞いてくれる生徒がいる限り私は教師であるはずなのに。


なんで自分は歴史学の教師ですらいられないんだ?

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