悪役じゃない令嬢の休息
あのダンスパーティーの夜から一週間、私が家から出ることはなかった。
気遣ってくれる侍女や執事たちに見守られながらゆっくりと日々を過ごしていた。
この一週間で大好きなタンドリーチキンは2回出たし、おやつはクッキーとプリンが交互。私はシェフの気遣いにも感謝した。
8歳でアラン殿下の婚約者に指名されてから8年間、私はずっと休みがなかった。王妃教育から始まり学園での成績も上位であることが求められ、魔法の習得や、孤児院訪問等々。
こんなにゆっくりと日々を過ごしたことはなかった。
お父様は、本当に私に何もさせなかった。
「婚約は解消されたからもう何も心配しなくて良い。」
ダンスパーティーから3日目の夜にそう言って笑ってくれた。
もう殿下と顔を合わせなくても良いと思うと私は心からほっとした。
あの夜を思い出して、毎晩悪夢で目が覚めていたからだ。
もともと殿下に対する恋愛感情はなかったけれど、婚約者としての情くらいはあったとは思う。だけど、男性4人に責め立てられるという経験は想像以上に私の心を弱らせていたらしい。
「お嬢様、アルーシャさまがいらっしゃっておりますが、いかがいたしますか?」
侍女のカリナが遠慮がちにドアをノックした。
「ありがとう。大丈夫よ。アルーシャ先生なら。」
私は答えた。
魔法学のアルーシャ先生はとても平等な先生だ。
学園のなかでは身分は関係ない、とは唄われているけれど、殿下のことも私のことも呼び捨てで呼ぶのは学園でアルーシャ先生だけだ。
私はカリナと広間に向かった。
「アルーシャ先生。」
「・・・アリス。」
アルーシャ先生は、ほんの少し私を見つめて、だけどすぐに目を反らした。
「ダンスパーティーで助けられなくてすまなかった。」
「いいえ。あの時、殿下を怒鳴り付けてくれて、救われました。」
そう、不安でどうしようもなかったあの時、先生は殿下を怒鳴ってくれた。それがどれほど心強かったことか。
「・・・もっと、早く駆けつけられたら。」
「いいえ!いいえ、アルーシャ先生。あの時、ダンスホールには聖なる光魔法がかかっていたと聞きました。
先生が、いらっしゃるのは、あのタイミングしか、なかったんです。」
アルーシャ先生は、今度こそ私を見つめた。
「君は、どこまで・・・。」
「光魔法の結界を破ることが出来るのは、光魔法しかありませんから。」
いつだって平等で、正しくて、まっすぐなアルーシャ先生。
光魔法の使い手にこれほどふさわしい人なんているはずがない。




