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商会次男の過ち

昨日は最高だったなぁ。

大好きなイザベルを、殿下やオルタナ先生たちと力を合わせて、身分だけが取り柄の悪役令嬢(アリス)から僕が守ったんだ!

「本当にありがとう。これで安心して学園に通えるわ。」

イザベルが潤んだ瞳で僕を見つめて・・・。あぁ、幸せだったなぁ。


僕が通っている学園は、貴族の子息令嬢が通う名門の学園で、本来なら僕みたいな平民が通えるような学園じゃない。

だけど、僕の父さんは一代でレインボー商会を立ち上げて、たった数年で王国一まで押し上げた。今では下手な男爵家よりも権力はある。だから兄さんと僕にも学園への入学が許可された。

だけどさ貴族ばっかりの中で平民である僕が馴染むのは難しかったよ。

イザベルだけがいつもニコニコ話しかけてくれて、嬉しかったなぁ。

実はイザベルが、マリアーナ男爵の愛人の子供でずっと平民として母親と貧しい暮らしをしていたけど、本妻に子供が出来なかった男爵に数年前に引き取られたことを知った時には、あのニコニコの裏に秘められた思いを想像して抱きしめたくなった。

イザベルも頑張っているんだ、そう思ったら僕も頑張れた。

商会の試供品をクラスメイトに配ることで、友達は出来たし、商会の宣伝にもなっている。

平民の僕が、貴族のなかでこんなに上手く立ち回れるなんて、全部イザベルのおかげだよ。


僕にとってイザベルとの大切な記念日となったダンスパーティーの翌日、学園に行くと、なぜか僕の周りの世界が変わっていた。

「おはよう。」

話しかけても誰も返事をしてくれなかった。

「今日はレインボー商会のチョコレートを持ってきたよ。」

いつもなら試供品を求めて友達に囲まれるのに、今日は誰も近寄って来なかった。

なんで?皆も僕の昨日の勇姿を見ていたはずなのに。

「ねぇ、チョコレート好きだろう?」

お菓子を持ってきた時はいつも真っ先に貰いにくる女の子に直接持っていった。

「・・・私、アリスさまに憧れていたの。

昨日、アリスさまが理不尽に責め立てられているのを見てすごく悲しかったし、怒ってる。何も出来なかった自分も許せない。

だけど、先生が入って来れないように結界まで張って、卑怯すぎる!」

ものすごい勢いで捲し立てられて、睨まれて、僕はびっくりした。

アリスに憧れる?なんで?結界?なんのこと?卑怯?イザベルは誉めてくれたのに?

周りを見渡したらクラスメイト全員が僕を睨み付けていて、僕は怖くなって家に逃げ帰った。


「ダン、お前を勘当する。」

家に帰ると父さんが僕を待ち構えていた。

「父さん?どうしたの?」

ポカンとする僕に答えたのは、明らかに怒っている兄さんだった。

「今日いらっしゃったお客さま達からお前の昨日の話を聞いた!

お前はなんてことをしてくれたんだ!!」

「なんてこと?正義の裁きをしただけだよ?殿下もそう言ってた。」

「アリスお嬢様がいじめなんてバカなことするわけないだろ!

そんなことお前たち以外誰でもわかる!

アリスさまを慕う貴族全員と、うちの一番の大口取引先であるサーフィス家を敵に回したんだよ!

お前一人のせいでレインボー商会は倒産の危機だ!

もうお前を勘当するしかすべはない!」

「僕にだって貴族の友達はいるよ!皆が助けてくれる!」

「友達?お前はレインボー商会の商品を無料で配っていただけだろう?そんなのは友達じゃないよ。」

「にっ、兄さんだって学園に通っているときは色々配っていたじゃないか!」

「俺は無料で配ってなんかない。そんなのレインボー商会の価値を下げるだけだからな。皆にうちの商品を紹介して、良いと思ったものを買ってもらったんだ。定価でな。」

「でっ、でも、僕は、殿下!そうだ!殿下が助けてくれるよ!

昨日も一緒に乾杯したんだ!平民の僕が、殿下と、オルタナ先生と、カイル伯爵令息とだよ!すごいだろう?」

「ダン。」

それまで黙っていた父さんが静かに僕を呼んだ。

めちゃくちゃ嫌な予感がする。

「俺は、お前をかわいい息子だと思っていた。商会の商品を無断で持ち出して配っていることも許容していた。

次男であるお前は、兄の手伝いをしながら少しずつ成長していけば良いし、もっと向いている仕事をゆっくり探せば良いと思っていた。」

父さん、なんで過去形なの?

「だが、昨日お前はアリスお嬢様に、小物のセンスも最悪、と言ったそうだな。」

「うっ、うん。」

「アリスお嬢様が身につけていたのは、レインボー商会の商品だ。」

「へっ?」

「お嬢様は、昔からうちの商品を大切にしてくれていた。金に物を言わせてセンスのない宝石を身に付けている貴族とは違う。」

せいてんのへきれき。

僕は目の前が真っ白になった。

それ、もっと早く教えてよ。そしたら、きっと、僕は。

「レインボー商会の商品も分からないばかりか、公衆の面前で堂々と貶めた。さすがにもう庇いきれん。」

いつも僕には優しかった父さん。

そんな父さんの心底呆れたような声に僕は初めて、自分がやらかしたことの大きさに震えた。

あぁ、イザベル、君が言っていたアリス像と、今日僕に突きつけられるアリス像は全く別人みたいだよ。

僕はもうただ自分が失ったものの大きさを考えることしか出来なかった。だって、手にいれたものは1つもなかったから。

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