王妃と令嬢
「王妃様。」
「アリスっ!」
「どうぞ寝ていてくださいませ。」
「なぜこのようなところに来たのじゃ?」
「王妃様にどうしてもお会いしたくて国王様に申請を致しました。
このようなところにお一人で寂しくはございませんか?」
「・・・すべてはわらわの因果応報なのじゃ。」
「王妃様、私は王妃様の過去を存じません。たとえば侍女にとって、たとえばアルーシャ様にとって、たとえばアラン様にとって、王妃様がどのように映っていたかはわかりません。
けれど、私の知っている王妃様はいつもとても優しかったのです。とても優しくて、心から尊敬できる王妃様でございました。」
「アリス。」
「そして、こんなことを申し上げては不敬かも知れませんが。」
「何を言っておるのじゃ!アリスに不敬などと、そのようなこと、わらわが思うはずがないのじゃ。」
「お寂しい方だとも思っておりました。」
「さびしい・・・。」
「私が王妃様の体調が悪いと気づいた時、王妃様は涙を流されました。」
「あぁ・・・。そんなこともあったのぉ。」
「初めて気づいてくれた、と。初めて気づいてくれる人がいた、と。」
「アリスがわらわを心配してくれて、わらわは本当に嬉しかったのじゃ。」
「王宮にはあんなにたくさんの人がいて、アラン様もいたのに。」
「気づいてくれたのはアリスだけじゃった。最後までアリス以外は誰もわらわの体調など気にするものはいなかったのじゃ。」
「王妃様・・・。」
「わらわはアランを愛しておった。アランを国王にすることがアランの幸せじゃと決めつけた。
でも、王宮を追い出されすべてを失ったはずのアルーシャは、それでもまっすぐじゃった。わらわを憎むことさえせず正しく生きておった。
わらわは自分のしたことが恐ろしくなったのじゃ。
結局、わらわが何もかも間違えたのじゃ。」
「王妃様・・・。」
「アリスはこんなわらわに笑ってくれた。わらわはそれだけで満たされたのじゃ。あんな背中を見せる前にアランともっと笑えばよかったのじゃ。アランが歪んだのはわらわのせいじゃ。
アリスにも辛い思いをさせてすまなかったのぉ。」
「・・・アラン様と婚約破棄をしたことは、私にとって結果的にとても幸せなこととなりました。
けれど、王妃様。王妃様をお母様とお呼びできなくなったことだけは残念なのです。」
「・・・アリス。ダメなのじゃ。
わらわは一人で寂しく死ななくては、いけないのじゃ。
でないとサシャが報われぬ。
だからこれ以上わらわを喜ばせないでほしいのじゃ。」
「王妃様。サシャ様は、アルーシャ様のお母様はそのようなこと望みません。だって、サシャ様は幸せだったのです。
アルーシャ様や侍女達に囲まれて、笑顔でお亡くなりになられたそうです。そのような方が王妃様が一人で寂しくお亡くなりになることを望むはずがございません。
少なくともアルーシャ様はそう申されておりました。」
「アルーシャ、が?」
「王妃様。私は、王妃様を尊敬しております。」
「わらわは自分の国でも、この国に来てからも、ずっと一人ぼっちであった。そんなわらわが最期のこの時だけは一人ぼっちではなく、アリスと過ごせるなどと、こんな、こんな幸せなことが許されるのじゃろうか?
あぁ、アリス。最期にその顔を。どうか、どうか見せてほしいのじゃ。」




