ある光魔法の使い手の後悔
この世界でも数人しか使えない聖なる光魔法が使えるとわかったときから俺は、誰といても、どんな時でも称えられるようになった。
誰しもが光魔法を見たいと言った。
光魔法で虹を出しただけで、皆が驚き、喜んでくれた。
自分のしたことで誰かが笑ってくれる、それはとても素晴らしいことだと思っていた。
だけど、イザベルは言った。
「カイル君はいつも人のためって言うのね。もっと自分のために生きて良いんだよ?」
その瞬間からイザベルは俺の特別になった。
だからイザベルが、悲しそうな顔で、
「アリスさんが怖いの。」
と言った時、俺の中でアリス・サーフィスは、絶対的な悪になった。
あの女の罪を暴いたダンスパーティーの後、殿下と5人でささやかな祝杯をあげた。
イザベルはとても幸せそうに笑っていて、俺は正しいことをしたのだと、疑うことなく信じていた。
何かが狂ったのは翌日だった。
学園で、俺には誰も近寄ってこなかった。ぶつかりそうになったら慌てて逃げられた。
何かおかしいと思いつつも、俺にはイザベルだけがいれば良い。授業が終わったら会いに行こうと、気にしないことにした。
決定的に壊れたのは、魔法学の実技授業の時だった。
いつもなら光魔法が使える俺と組みたがる奴ばかりだった。だが、今日は俺とペアを組みたいと言う奴はただの一人もいなかった。
アルーシャ先生は、何故か哀しいような怒ったような顔をして俺を見た。
「カイル、光魔法で虹をかけることができるか?」
俺にはアルーシャ先生が、俺をバカにしているとしか思えなかった。
いつも皆を笑わせるためにかけていた虹、イザベルに出会ってからは一度もかけようと思ったこともない虹、それを今さらかけろと言う。
アルーシャ先生は、俺がイザベルと出会った頃から、
「自分を見失うな。」
と、口癖のように言っていて、正直俺はうんざりしていた。
もう、いっそ俺の力を見せつけてやろうと、俺は空に特大の虹をかけることにした。
それっ。
あれっ?
それっ。
なぜだ?
それっ。
どうして?
じわじわと広がる焦り。
何十回、何百回とかけてきたはずの魔法なのに、何度唱えても空に虹はかからなかった。
「昨日、光魔法でダンスホールに結界を張っていたな。」
焦る俺とは対照的に先生は冷静に言った。
「何もしていない女子一人を数人で責め立てる、その為だけに、お前はダンスホールに結界を張った。教師や、アリスの侍女たちが入って来れないように。
なぁ、それは正しいことなのか?」
「……えっ?」
思いもかけない先生の言葉に俺は詰まった。
「光魔法は、真に正しい人間にしか使えない。
だから、今のお前は、それを使えないのだろう?
なぁ、カイル。昨日のお前は本当に正しかったのか?」
先生は俺の瞳から目を逸らさなかったし、俺も先生の目を離せなかった。
「他の生徒から聞いたよ。アリスが無実を宣言した瞬間、カイルは膝をついたんだろう?そして結界に阻まれてダンスホールに入れなかった俺たちがダンスホールに入ることが出来た。
お前はあの時、光魔法が使えなくなったんじゃないのか?」
自分が何か取り返しのつかない間違いを犯したことだけは分かった。
「すまない。」
「はぁっ?」
思いがけない先生の言葉に俺は、今まで出したこともないような間抜けな声を出していた。
「最近、カイルの光魔法が弱っていることに気付いていた。なんとかしたいと思っていたが、力が足りなかった。」
正直、俺は先生が俺に苦言を呈すのは、嫉妬だと思っていた。
魔法学の教師なのに光魔法を使えない嫉妬だと。
だけど、そうか、本当に俺を心配してくれていたのか。
そうか、俺は、決定的に間違えたのか。
なんど唱えてもささやかな光さえ出すことの出来ない、光魔法を繰り出せなくなった自分の手を見つめながら俺は、ぼんやりと絶望を感じていた。
そういえば、アリス・サーフィスだけは、俺に光魔法を見せてと言わなかったなと、ぼんやりした頭で考えていた。