王宮魔法使の後悔
「アラン殿下が集団でアリス・サーフィス公爵令嬢を責め立てているが、ダンスホールにはカイル・ルーカス伯爵令息が光魔法で結界を張っているため止められない。」
学園から王宮に連絡が入ってきた時には目の前が真っ暗になった。
それは王妃様も同じだったようで、今まで聞いたことも無いようなか細い呟きをされた。
「アランなんてことじゃ・・・。」
連絡と共に送られてきた映像では今も殿下がアリス様に怒鳴り付けている。
「国王陛下。恐れながら発言の許可を。」
「うむ。ルーカス、発言を。」
「すぐに私を学園に向かわせてください。息子カイル・ルーカスの光魔法を破ります。」
「ルーカス、すぐに学園に向かってくれ。」
国王様のお言葉に私はすぐに走り出そうとしたが、
『しかし!神に誓って私は、自分にも、公爵家の名においても、恥ずべきことは何もしておりません!』
アリス様の宣言と共にカイルが膝をつき、アルーシャ様方がダンスホールに入ってくる映像が流れたため足を止めた。
「アルーシャが、光魔法を使ったのか・・・?」
国王様は父親が息子を心配する顔をしていた。
けれど私には分かっていた。
「いいえ、アルーシャ様は光魔法を使っておりません。」
「ではなぜ結界が?」
「光魔法の結界を、光魔法で消したとしても結界が消えるだけです。術者が膝をつくようなダメージを受けることはありえません。
恐らくですが、息子はもう光魔法を使うことは出来ません。」
最近では、すべてが上手くいっていると思っていたのに。
アリス様が王宮を訪れるようになってから王妃様はとても穏やかになられた。
「アリスが本当の娘のように可愛いのじゃ。」
そう言って嬉しそうに微笑まれていた。
我が儘放題で、侍女もシェフも少しでも気に入らないことがあると怒鳴り付け、首にすると宣言していたアラン様も、少しずつ成長されていた。
幸運なことに息子にも光魔法があることが判明して、すべてが順調に上手くいっていると思っていた。
「アラン、どうしてあんなことをしたのじゃ!」
王妃様は、学園から帰られたアラン様に初めて怒鳴りつけた。
アラン様は、多分お酒も召しておられるのだろう、上機嫌で今にも笑いだしそうなほどだった。
「母様!アルーシャは光魔法を使いましたよ!処刑です!」
アラン様はアリス様と婚約される前と同じ歪んだ笑顔で宣言された。
「アラン、アルーシャは光魔法を使っておらぬのじゃ。」
王妃様の言葉にアラン様は驚愕して、私を睨み付けた。
「なぁ、ルーカスも見ただろ?お前の息子の張った結界を、アルーシャが破ったんだ!」
「アラン殿下、息子は光魔法を失ったのです。アルーシャ様に破られたのではありません。」
「光魔法を、失う?はぁっ?なんだそれ?」
「魔法学の基礎で学ばれたはずです。光魔法は正しい者にしか使えない、と。自分を見失った息子は正しい者ではなくなったのです。」
アラン殿下は、私の言葉に顔を真っ青にされた。
「アルーシャは、光魔法を使ってない?なんだよ、それ!自ら力を失ったなんてお前の息子はどれだけ役に立たないんだ!
くそっ。考え直しだ!」
言いたいことだけ言ってアラン殿下は退室された。
「わらわが間違えたのじゃ。アランがあんなに歪んでいるなんて思いもしておらんかったのじゃ。わらわがすべて、間違えたのじゃ。」
王妃様は真っ青な顔で呆然と呟かれていた。
私も、同じだ。
カイルが光魔法の使い手だと判明して舞い上がり、息子は正しき者だからと、安心しきっていた。
道を外してしまうことなどないと信じきっていた。
そんなことはなかったのだ。
もっとしっかり息子と向き合うべきだった。
サシャ様のようにしっかりと伝えるべきだったのだ。
「自分を見失うな」と。