心弱き王子の策略
「アランくんは王子様なんでしょ?すごいね!私、王子様なんて初めて見たよ。」
僕のことを君付で呼んだのはイザベルが初めてだった。
初対面の自分の国の王子にあり得ないし、更に言ってる内容もアホすぎて、不敬とさえ思わずもはや感心したくらいだ。
カイルが最近では光魔法で虹を出すことはなくなって、代わりにこの女と一緒にいることは女子生徒達が騒いでいた。
僕にはこの女の良さが全くわからなかったが、光魔法の使い手であるカイルはアルーシャを貶めるためには絶対に必要な駒だったので、まずはこの女と近づくことにした。
「アラン殿下がイザベル男爵令嬢と親しくされている!」
そんな噂は学園中に一気に広まった。
アリスはそんな時でさえ自分から僕に話しかけることはなかった。
くそっ。
可愛げのない女だ。
「アランくん。クッキー焼いてきたよ。美味しくできたよ。」
アリスとは全く違ってイザベルは、いつも僕のところにやってきた。
ニコニコニコニコ、アホみたいに笑いながら。
王子の僕が、男爵家の女が焼いた怪しいクッキーなんて食べるはずがないという当たり前のことさえ思いもしないようだった。
こいつに毒を盛る知能はない。そう思って思わずクッキーを食べてしまった。
「おいしい?」
ニコニコとアホみたいだ。
だけど、イザベルといる時だけはなぜか、アルーシャと再会する前の穏やかな心でいることが出来た。
「アラン、男爵家の娘と親しくしているとはどういうことじゃ。王宮にも流れるほどに噂になっておる。」
母様は最近では見なくなった険しい顔をしていた。
「アルーシャを殺すためですよ。」
「何を言っておるのじゃ。あんなもの今更。もはや捨て置け。」
「母様がしっかり始末しなかったから、僕が母様の代わりにやるのです。」
僕の言葉に母様は目を見開いて固まった。
そうだ。アルーシャは8年前に殺すべきだったんだ。
だから、王子である僕がしっかりと責任を果たさなければならない。
アルーシャを殺すことは簡単だ。
光魔法さえ使わせれば良い。そうすれば、あいつは謀反者だ。
アリスのためならあいつは光魔法を使うだろう。
自分のためにアルーシャが処刑されたら、アリスは傷つき悲しみ、そして側にいる僕をきっと好きになるに違いない。
僕たちは8年も一緒にいたんだ。
忌々しい光魔法の使い手さえいなければアリスは僕を好きになるはずなんだ。
「アラン、私はどうしたらアランのお嫁さんになれるの?」
イザベルは本当にアホだ。
男爵家の女が王子の僕と結婚なんて出来るはずがないなんてこともわかっていないのだ。
「イザベルはどうして僕と結婚したいんだ?」
だけど思わず聞いたのは「アランのことが好きだから」といつものニコニコ顔で言われたかったからかもしれない。
だけどイザベルは当たり前のように言った。
「だってアランは王子様だから!アランと結婚したら王国で一番幸せになれるんでしょ?」
この時、僕の心は完全に冷えきって、そこからは考えていたダンスパーティーでのイベントに向けて、罠を仕掛けることだけしか考えられなくなった。
アリスがいなければ結婚出来るなんて本気で信じたイザベルもアホだし、イザベルの一言でアリスを悪だと信じたカイルもアホだ。
アリスを悪だと信じているカイルは僕の話を全部信じた。
公爵家の娘であることを良いことに贅沢三昧。
少しでも気に入らないことがあると侍女も執事も首にしている。
権力を楯に皆を従わせている。
王妃教育も全く身に付かず王妃も嘆いている。
イザベルに嫉妬して陰湿な苛めを繰り返している。
少し調べればすぐに分かるような嘘なのに、カイルはすべて信じた。
何が光魔法の使い手だ。自分で考えることもしないただのアホじゃないか。
光魔法で結界を張ることだけは最後まで躊躇っていたが、
「光魔法を張らないとすぐに教師がやってくる。そうしたらアリスを裁けない。イザベルを守ることが出来ないんだ。」
イザベルの名前を出したら遂に了承した。
通信魔法が使える生徒には、ダンスパーティーで何かあったらすぐにその映像を職員室に流した方が良いと伝えた。
僕の準備は完璧だった。
だからすべて完璧に上手くいった。
アリスが婚約破棄を了承したことだけが想定外だった。
いや了承はしていない、公爵に伝えると言っただけだ。
公爵が婚約破棄なんて許すはずがない。
カイルが膝をついた瞬間、アルーシャが飛び込んできた。
あいつはついに光魔法を使ったんだ!
僕は生まれて初めて心から満たされた気持ちになった。
そんな僕にはアリスの涙も目には入っていなかった。