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ハッピーエンドのそのまえに  作者: 桜井ゆきな


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13/21

心弱き王子の嫉妬

「このままだとサシャ様が、王妃様にいびり殺されてしまうんじゃないかと心配だわ。たくさん虹を出してサシャ様を笑顔にしようと必死なアルーシャ様がお可哀想!!」

「だってアランさまがあんなだもの。このままだといくら側妃さまのご子息だとしても次期国王にはアルーシャ様が選ばれるわ。王妃様も必死なのよ。」

「あなた達!!そんなことをもし聞かれたら不敬になるわよ!!」


こっそりと侍女たちの控え室に忍びこんだ僕はありえない話を聞いた。

母様が、僕を国王にするために平民(サシャ)をいびってる?

僕は産まれながらの王子なんだからそんな必要はないだろうに。

はっ。これだから侍女(バカ)は嫌いだ。

今日はいつもより我が儘を言って困らせてやろう。

侍女を困らせ、執事に怒鳴り、シェフを首にして、僕はまだ6才だけど王様だ。誰も僕には逆らえない。

そんな僕が侍女たちのバカな噂話を思い出したのは、母様がどこか必死な顔で僕にこう言ったからだ。

「アラン、そなたも弟がほしいじゃろう?そなたから国王にねだってごらん。そうしたら、きっと国王も世継ぎがほしくなるじゃろうて。」

跡継ぎは僕だけで十分なはずなのに。

まさか母様が本当にアルーシャの存在に怯えているはずがないに決まっている!そう思いつつ僕はこっそりサシャとアルーシャの暮らしている王宮を覗きにいった。

そこは、僕が暮らしている王宮よりもずっと小さくてみすぼらしかった。それに侍女に連れられて縁側に座っているサシャはやつれていてとても惨めに見えた。

なんだ、こんなもの、僕が気にする価値もない。

そう思って、自分がいるべき豪華な王宮に戻ろうとした時、僕の目の前に虹が現れた。

「母上っ!!今日は庭に出られるほどに体調が良いのですねっ!」

アルーシャがサシャに駆け寄ってきた。その光景は僕には異様だった。アルーシャの後ろから一緒に走ってくる侍女も、サシャの後ろで控えている侍女も、とても楽しそうに笑っていたからだ。

「アルーシャ様。あまり駆けると危険ですよ。」

「サシャ様。今日もアルーシャ様の虹がとてもキレイですね。」

なんだこれは?

僕の王宮にいる侍女どもは、決して笑わない。

いつも怯えたような顔をして横に控えているだけだ。


それから僕は、王宮魔法使のルーカスに光魔法を教えるように命じた。

だけどルーカスは悲しい顔をして、困ったように言った。

「光魔法は努力で手に入れられるものではないのです。それよりも殿下はまず魔法の基礎から学んでいきましょう。

虹だけは光魔法でしか出すことができませんが、光魔法でなくてもその他のものは出せます。

ただ、普通の魔法では光魔法には絶対に勝てない。それだけですから。」

アホか。こいつは。光魔法には絶対に勝てないなんて、ありえないだろ。俺がアルーシャに絶対に勝てないなんてそんなはずないだろ!

腹が立った俺はそれからルーカスにだけは絶対に魔法を教わらなかった。

そして俺付の侍女に命じた。

「サシャの食べ物に虫を混ぜろ。」

侍女は泣いて拒んだが、首にするぞ、の一言で俺の命令に従った。

俺はサシャが死ぬのを待ちわびるようになった。

アルーシャの絶望する顔が見たい。ただただそれだけだった。


僕が8才になった時、遂にサシャが死んだ。

それだけじゃなく、母様は何年も前から周到にかけていた罠を発動して、アルーシャを不貞の子供だとして追い出すことに成功した。

しかもこれから一生光魔法を使えないなんて最高だ!

僕は生まれて来て一番心弾ませて2年ぶりにみすぼらしい王宮に向かった。

アルーシャは絶望して、世界を憎んでいるだろうか?

どんな惨めで醜い顔をして王宮を出る準備をしているだろうか?

僕はウキウキしながら走っていた。

だけどそんな僕の目に飛び込んできたのは、2年前と全く劣らず輝く虹と、楽しそうに笑い合うアルーシャと女の子だった。

はぁっ?

なんでだよ?なんで、あいつはこんな時でも僕よりずっと幸せそうなんだよ?

頭が真っ白になった僕はそのままお茶会に向かった。

そのお茶会にアリスはいた。

さっきまでアルーシャに見せていたのとは、全く違う作り笑いで僕に挨拶をしてきた。

この少女の泣く顔を見たいと純粋に思った。

僕が婚約者に指名した時も、アリスは顔色一つ変えないで、僕が今まで見たこともないようなキレイなカーテシーをした。


「おいっ!アルーシャ!」

お茶会の後で僕は初めてアルーシャに話しかけた。

こいつは、これから惨めな男爵家の、しかも跡継ぎにもなれない次男として、お得意の光魔法も使えず生きていくんだ。

もう、二度と会うこともないだろう。

そう思うと俺は自然と笑っていた。

その笑顔が醜く歪んでいることなんて気づくはずもなかった。


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