悪役じゃない令嬢の告白
「光魔法の結界を破ることが出来るのは、光魔法しかありませんから。」
私の言葉にアルーシャ先生は、とても驚いた顔をして、周りを確認した。
優秀な侍女のカリナは、こちらが普通に話している限りは会話が聞こえない、だけど私に何かあったらすぐに助けられるくらいの絶妙な位置で控えていた。
「一体いつから?」
「初めて学園でお会いした時からです。」
私はまっすぐにアルーシャ先生を見つめた。
心臓が破裂しそうなくらい脈打っていたけれど、それでも、8年間胸に秘め続けた想いが、本来なら一生隠し通さなくてはいけなかったはずの想いが、溢れてくるのを止めることはもう出来そうもない。
「髪の色も、瞳の色も魔法で変えているのに?」
「8年間毎日私は、虹の少年を想っていました。色が変わったくらいで間違えません。」
「今の俺とアリスは違いすぎる。」
「婚約破棄された惨めな令嬢は、アルーシャ先生には相応しくないでしょうか?」
「アリスは惨めなんかじゃない。相応しくないのは俺の方だ。」
「アルーシャ先生。私は、いつだって完璧な公爵令嬢でありたいと努力をしていました。お父様やお屋敷の皆のためにも、お母様の分まで私は完璧な令嬢であるべきだと。」
「君は立派な令嬢だ。」
「だけど、本当はお父様のこともお屋敷の皆のことも心のどこかで信じきれていなかったんだと思います。完璧を目指す私でないと、愛してはもらえないんじゃないかと。
でも、婚約破棄をされた、完璧ではない、こんな私でも誰の態度も何一つ変わりませんでした。どんな私でも変わらず愛してくれる、そんな深い愛情にやっと気がついたんです。」
「アリスは素晴らしい方々に育てられたんだな。」
ふんわりとアルーシャ先生が微笑んだ。
あぁ、なんて愛しいんだろう。
「私も同じです。アルーシャ先生が、光魔法の使い手だからではなく、アルーシャ先生が、大切なんです。」
私はアルーシャ先生の茶色い瞳を見つめた。
「アルーシャ先生、私は、あの夜からずっと悪夢で目を覚まします。
輝く結界に閉じ込められて、殿下やオルタナ先生方に責め立てられる夢。とても怖くて不安で苦しい夢です。」
「・・・アリス。」
「だけど、その悪夢の最後は必ずアルーシャ先生が助けに来てくれるところで終わるんです。だから、悪夢なのに必ず最後はハッピーエンドなんです。」
アルーシャ先生も私をまっすぐ見つめてくれた。
その瞳が、ブルーに。茶色い髪も、金髪に。
私は8年ぶりに本当のアルーシャ先生と再会した。
「アルーシャ先生が私を助けに来てくれたから、あの夜の悪夢のような出来事は、ハッピーエンドのそのまえに、ほんの少し悲しいことが起こっただけにすぎないんです。」




