ヒロインになれなった少女の涙
「イザベルに謝れ!!」
「身分しか威張れない人は見苦しいね。」
「勉強だけ出来ても、な。」
あれっ?なんかおかしくない?
なんで、アランもダンもオルタナ先生も、そんなにアリスさんに意地悪言ってるの?
えっ?なんで??
それにさっきから、ダンスホールの入口が、輝く光に包まれてるのが見える。
あれって、私でも知ってる、カイルくんの無敵のやつでしょ?
でも、そんなのする必要ある??
アランがアリスさんと婚約破棄するだけでしょ?
私と結婚したいってお願いするだけで良いんじゃないの?
なんか、おかしくない?
あれっ?なんか、おかしいよね?
・・・
頭がパンクしそうになったから、考えるのをやめた。いつものことだ。
そこから私はアランに言われていたことだけやりきった。
俯いて、悲しそうな顔してて、時々皆を励ませば良い。
気付けば全て終わってて、そこからはまるで走馬灯のよう。
「僕が、男爵家の女と、婚約なんか、するはずないだろ。」
アランの歪んだ顔。
「このっ!恩知らずがっ!」
お父さまの初めて見る怒った顔。
「売女の娘は、やっぱり売女ね。」
お母さまの見覚えのある嫌な顔。
気付けば私は、4年前、知らない男たちに無理やり馬車に乗せられた平民街に置き去りにされていた。
「イザベルっ!!」
遠くから懐かしい声が私を呼んだ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ!会いたくないっ!!
だって、私はまだお姫さまになってないもん。
お姫さまになれなかったらお母さんを幸せにできない!
だって、そうなんでしょう?お母さんと暮らしている時、私はちっとも不幸じゃなかったのに、それなのに、お母さんは、私を引き留めなかった。
知らない男の人に無理やり馬車に乗せられて、とってもとても怖かったのに!それなのに、お母さんは私を助けてくれなかった。
それはお母さんにとって、私との生活は幸せじゃなかったってことでしょう?
「幸せになってね。」なんて、どうやって?
そっか、お母さんは思ったんだね。冬でも温くて、夏でも涼しくって、フカフカのベッドで、美味しいご馳走をいっぱい食べれば、そしたら幸せだってお母さんは思ったんでしょう?
だから、可哀想な私を捨てたんでしょう?
お母さんに捨てられた1人ぼっちの馬車の中で、その温もりと柔らかさだけが、私に現実を忘れさせてくれた。
それからもずっと、お母さんと暮らしていた時はできなかった贅沢をしている時だけ、私はあの時よりも幸せだって思えたの。
私がお姫さまになったらさ、お母さんは私を捨てた甲斐があったって思えるんだよね?
私がお姫さまになったらさ、王子さまは、お母さんを迎えてくれて、また一緒に暮らせるんでしょう?
ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!
どんなに贅沢なご馳走よりも、お母さんと食べたあの唐揚げが一番美味しかったなんて、バカだよね?
お母さん、男爵家では唐揚げは犬の餌だったよ。
そんなところで本当に私が幸せになれるって思ったの?
お姫さまにならなくっちゃ、私は幸せになれないんだよね?だって、お母さんは私を捨てたもん。お母さんの思う幸せはそうなんでしょう?
幸せじゃなくっちゃお母さんに会っちゃいけないんでしょう?
ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!
カイルくん、本当は、カイルくんがあのキレイな虹を見せてくれるだけで、もしかしてお母さんは笑ってくれたのかな?
ボタボタボタボタ。私から流れる涙はきっと汚い。
アリスさんの涙はあんなにキレイだったのに。
「イザベル!」
近づいてくる懐かしい声を聞きながら、私は汚ない涙を流し続けた。




