悪役じゃない令嬢の災難
「アリス・サーフィス!!僕は君との婚約を破棄する!」
学園祭の最終日のダンスホールでの全校生徒参加のパーティーの最中で、婚約者であるアラン殿下が突然宣言した。
ホールの隅で親友のミルフィ伯爵令嬢とクッキーを頬張っていた私は、戸惑いながらダンスホールの真ん中に進み出た。
「殿下、どういうことでしょうか?」
「とぼけるな!僕の愛しいイザベルに嫌がらせをしただろう!?」
殿下はそう言って、寄り添うよりに隣に立っていたイザベル・マリアーナ男爵令嬢の肩を抱いた。
「嫌がらせ?なんのことでしょうか?」
「往生際が悪いやつだ!!イザベルに嫉妬しているんだろう?」
「小物のセンスも最悪だし、あなたがイザベルに勝てることなんて身分くらいだよ?」
「成績は良いのに、残念なことだ。」
殿下に続いて、レインボー商会の次男のダンさまと、歴史学の講師であるオルタナ先生も口々に私を罵倒した。
4人の後ろにいるこの世界でも数人しか使えない聖なる光魔法の使い手であるカイル伯爵令息は私を罵る言葉は吐き出さなかったけど、鬼のような形相でずっと私を睨み付けてた。
「殿下!信じてください!私は決していじめなどしておりません!」
男性4人に睨まれて震えながらも私は必死に訴えた。
「黙れ!!お前の言葉なんか誰も信じない!!」
殿下はきっぱりとそう宣言をした。
何を言っても聞いてもらえず私は途方にくれてしまった。
「この悪役令嬢め!イザベルに謝れ!」
「謝ったところでイザベルの心の傷は消えないけどね。」
「一から指導が必要だな。」
「皆、私のために本当にありがとう。」
イザベル男爵令嬢の言葉に、さっきまで私を罵っていた3人は、愛しそうに彼女を見つめた。
涙が溢れるかと思った瞬間、震えるようなか細い声が聞こえた。
「アッ、アリスはいじめなんて…。」
ミルフィだ!幸いイザベル男爵令嬢に気をとられている殿下たちにその声は届いていなかった。
もし届いてしまったら、ミルフィまで巻き添えにされてしまう。
人前が苦手なのに、殿下や先生に反論しようとしてくれた。
こんな時なのに私は嬉しかった。さっきまで不安と悲しみと絶望で泣きそうだったのに、今はミルフィの優しさや勇気に、泣きそうだった。ミルフィを守らなきゃ!
私は、公爵令嬢らしく胸を張って、きっぱりと言った。
「殿下!婚約破棄は私の一存では決められませんが、殿下のお気持ちは承知いたしました。お父様にもお伝えいたします!
しかし!神に誓って私は、自分にも、公爵家の名においても、恥ずべきことは何もしておりません!」
ドゴン!!!!!
突然、大きな音がして、カイルさまが膝をついた。
それと同時に入り口からオルタナ先生以外の先生方がなだれ込んできた。
「アラン!!これはどういうことだ!!」
魔法学のアルーシャ先生が殿下を怒鳴り付けてくれて、
「アリスさん!大丈夫?」
考古学のミカエル先生が私を抱きしめてくれた。
ほっとした私は今度こそ本当に泣いた。
そこからは大騒ぎで、私は家でゆっくり休むようにすぐに馬車に乗せられたけど、震えがずっと止まらなかった。
家に着いたらすでに連絡が言っていたようで、お父さまは私を抱きしめてくれた。
「王家とは私が話す。こんな婚約はすぐに破棄をするから、アリスは何も心配しなくて良い。学園もしばらく休みなさい。」
お父さまの優しい言葉と温かい体温に包まれて私はそのまま意識を手放した。