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WorstUnit~ワーストユニット~  作者: 最灯七日
第三章 巡る対極
18/50

3-5 決闘場の召喚術師

【前回のあらすじ】

最強の実力と最弱のコミュ力。

 さて、いよいよ泣いても笑っても運命の決勝戦。一人は勝ち上がって当然な天才・ヨハン・ローネット。もう一人はなぜ勝ち上がってるんだと一部からクレームが飛んだ問題児・ジャナル・キャレス。

 どう見てもヨハンが勝つだろうと、誰もがジャナルに期待などしていない。早い話ジャナルはヨハンの引き立て役である。

「あー! ナレーションは黙ってろっ! 確かにみんなの目は痛いけどな」

 ヨハンとは確かに戦いたいとは思ってた。だが、周囲の反応がこういう状態なのでジャナルはどうにも釈然としなかった。

「それじゃ両者前へ」

 審判役はカーラだ。

 ジャナルの手にはジークフリード、ヨハンの手にはデュエルナイトが握られている。

(負けてられるか。次、じゃなくて今こそ勝ってやるぜ)

 ジャナルは唾を飲み込んだ。

 そして場の緊迫感が徐々に上がりつつある雰囲気の中、試合開始の合図がなされた。

「始め!」

 合図と同時に攻撃を仕掛けるヨハン。反射的に剣で受け身をとるジャナル。

 ヨハンの攻撃は一撃一撃が重く、素早く、そして正確だ。

 ジャナルは始めは防御に徹し、それが難しくなると回避に専念し、ついには試合場の中を逃げ回る羽目になった。しかも信じられないことに、敵に背を向けて走り回っている。試合前の意気込みはどこへ行ったのか。

 もちろん、こんな隙だらけの状態をヨハンが見逃すはずがない。

 デュエルナイトを上段に構え、ジャナルの脳天めがけて一気に振り下ろした。

「どわっ!」

 辺りに金属音が響いた。

 誰もがヨハンの一撃が決まったと思いきや、ジャナルは振り返ってジークフリードでそれを受けて止めていた。

「ちっ!」

 ヨハンはそれを強引に押し返そうとするが、ジャナルもなかなかしぶとい。そのまま膠着状態が続いた。

(運よく止められたのは良かったけど、ジークフリードもこれが限界か)

 ジャナルが使用するジークフリードは、相手が強ければ強いほど切れ味や強度を発揮する剣だ。逆に弱い相手だとナマクラ以下になるというリスクもあり、誰もそのリスクゆえに敬遠する武器だが、ヨハンが相手では十分な力を発揮している。これがギミックでなく、本物のジークフリードならもう少し互角に近くなるのだが。

 やがて腕力と体格の差で、ジャナルの方が押され始めた。

(やばい。ここで押し負けたら確実に死ぬ)

 かといって運よく押し返してもヨハンのことだ。その隙を突いてバッサリといくだろう。

(こういう時は逆の発想で裏をかいて)

 ジャナルはいきなり腕の力を抜いた。押してだめなら引いてみる。発想でも何でもない単純な答えだった。相手の力が剣を押し返すことに集中しているから嫌でも体制が崩れた隙が生じる、とジャナルは読んでいた。

 しかし、そんな単純な策に引っかかるほどヨハンは甘くない。罠に引っかかったフリをしてすぐさまジャナルに攻撃を仕掛ける。

 隙だらけになったのはジャナルの方だった。

 やられる。

 脳裏に冷たい予感がよぎった。絶対に勝つと決めていたのに。

 負けたくない。やられたくない。そんなものは絶対に嫌だ。

 敗北に対する拒絶反応のような焦りから、ジャナルは反射的に剣を振り上げたその時、急に、視界が真っ白に包まれた。




 それは、学校中に響き渡るほどの振動だった。

 教室で授業を受けていたアリーシャが驚いて窓の外を見ると、体育館の屋根から煙が上がっている。

 すぐさま避難するようにという事と、救護要員のために各クラスの保健委員への召集の放送がかかり、全校中があわただしい雰囲気に包まれた。

「ちょっとアリーシャ、あんた行ってきて! うちのクラス、保健委員いないから」

「ええ、なんで? やばいかもしれないのに」

「やばそうだからあんたに頼んでんの! アリーシャだったら殺しても死なないだろうし」

 一瞬はっ倒そうかと迷ったアリーシャだったが、今は緊急事態である。魔術使用の杖を片手に窓から飛び降り、そのまま杖を盾にして着地する。そしてモクモクと煙を上げている体育館へ全力ダッシュした。

「あーっ! たく、何やってんだか!」

 向かってくる途中、すでに何人かが担架で運ばれるのを見かけた。そのうち何人かは見覚えがある顔だった。剣術コース8年生、ジャナル達のクラスの人間だ。

「とにかく逃げろ! 怪我人は保健室だ!」

 体育館脇で、イオが指揮を取っているのが見えた。近くで見ると体育館の屋根はぽっかりと大きな穴が開いており、黒焦げになっていた。

「イオ!」

「アリーシャか! 手を貸してくれ……わっ!」

 地面が大きく揺れ、建物の残骸がバラバラと降ってくる。想像以上に只事ではなさそうだ。

「これは一体何? 何があったの!」

「俺に聞くなよ。いきなりジャナルとヨハンの試合中に試合場から天井に向かって閃光が走ったように見えて、気がついたらあとはこのザマだ」

「全然話が読めないけど。それでジャナルは?」

「まだ中だ。ヨハンとカーラもな。けど今入ると危険だ。あれは、人の力じゃない」

「え?」

 アリーシャが問い返したその時、よく知った声が後ろから聞こえてきた。

「またあいつの仕業なのかよ?」

「ディルちゃん!」

 いつの間にか不機嫌そうな顔を更にしかめたディルフがいた。

「何があったか知らないが、またあのバカが原因の騒動なんだろ? 何だってまた」

「いや、別にジャナルのせいだとは」

「知るか! あいつの行く所何かトラブルばかり起こりやがる! 今回だってきっと!」

 ディルフの怒声とほぼ同時に再び振動が辺りを襲った。

 体育館の中から男の絶叫が聞こえてくる。あれはジャナルの声だ。

 アリーシャは嫌な予感がしてきた。一刻も早く救出する必要がある。

(誤作動だ)

 どこからか、鋭い感じの女の声が響いた。アリーシャは周囲を見回すが、声の主らしきものはどこにもいない。イオもディルフも気付いていないようだ。

(そう。お前にしか聞こえていない。どうやらお前について正解だったようだ)

「あんたは昨日の!」

(とにかくあれを止めるぞ。おそらく中にいる奴は何らかの精神作用で「力」を誤作動させた挙句暴走している)

「誤作動?」

(お前も魔術師なら知っているだろう。魔力の暴走で使ってもない魔法が発動したりするあれのことだ。おまけにあれだけの力、人間ごときには制御できない)

「分かった。私に行けって言うんだ」

 ジャナルが誤作動させた力は、十中八九アリーシャが錬金科の学生から剣を取り返す時に、実際に目にした「力」の事を指しているのだろう。あれに関しても謎だらけだが、とにかく止めるのが何よりも先決だ。

 アリーシャはイオやディルフの制止を振り切って、入り口を塞いでいる瓦礫を術でぶっ飛ばすと、中に入っていった。

 中はひどい状態だった。壁は焼け焦げ、所々崩れ落ちている。床は瓦礫であふれ、視界は煙と埃でかなり悪い。幸い、午後に体育館を使っていたのがジャナル達だけだったので、それだけが不幸中の幸いといったところか。

「ぐっ! ああぁぁ!」

「ジャナル!」

 前方でジャナルが苦痛にあえぎながらうずくまっているのが見えた。彼の周囲の床だけクレーターのように穴がボコボコと開いており、その破壊はいまだ収まっていない。

 体育館を含む学園内の建築物は、ちょっとやそっとのことでは傷つかないほど丈夫な素材を使っているが、ここまで破壊されるのは想定外の異常である事を証明している。

 少し離れたところにヨハンとカーラが倒れているのが見えた。遠目からは無事かどうか分からないが、ぐずぐずしていると本当に無事ではなくなる。

「で、どうするの?」

(私を召喚魔法と同じ要領で呼び出す。それだけでいい)

「うわ、偉そうに」

 などといいながらアリーシャは杖をジャナルの方に向けた。

「我願う、法と秩序にのっとり、力を制するための理を示さん。……きゃあっ!」

 三度地面が揺れて、塵と埃がザーッと降ってくる。思いっきりそれを吸ってしまい、アリーシャは咳き込んだ。

(何をやっているか、小娘!)

「うるざい! 文句言うならジャナルに言え! げほっげほっ」

 急がないと時間がない。放っておくと体育館どころか学校中が崩壊しかねない。

 アリーシャは床に水筒が落ちているのを見つけた。誰かの水分補給用に持ってきたものだろう。

 それを拾い上げると中身を口の中に流し込む。ぐちゃぐちゃと軽く濯いだあと、それを吐き出した。

「あーあーあー。よし。我、ここに呼び出すは、禁じられしもの、古の魔族、万物の「力」を制する「力」を」

 杖の先に魔力を集約させた光が溢れだす。

「偉大なる力の半身よ! 今、ここに現れん! 『制する魔女(テンパランサー)』!」

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