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WorstUnit~ワーストユニット~  作者: 最灯七日
第三章 巡る対極
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3-2 実戦授業

【前回までのあらすじ】

復帰して教室行ったら世の非情さをまのあたりにした。

 ジャナル達剣術コース8年生がぞろぞろと体育館の中に入ると、すでにその半面を使って槍術コースの生徒達が実戦訓練に励んでいた。

「遅い。さっさと整列しろ」

 ジャナル達がしぶしぶ整列したのを確認すると、メテオスはホワイトボードを引っ張り出して、トーナメント表を描いた。

「今日の実戦訓練は一対一の時間制限なしのトーナメント戦だ。ルールは簡単。相手の身体に致命的な一撃を入れたほうが勝ち。場外は即負け。使用する武器はギミックトランサーだ」

 メテオスが端に置いてある木箱から手のひらサイズの金属製の球体型カプセルを取り出した。

「これは去年考案され、わが分校にも導入されたが、カーラ・カラミティ、これの仕組みを言ってみろ」

 メテオスの睨みつけるような視線がカーラの方を向く。

 カーラの方もその悪意ある視線を分かってか、負けずに睨み返す。

「カプセルの中に具現武器(トランサー・ウエポン)のバッジを入れると自分たちの使っている武器の形に変形するものです。ただし変形するのは「形」だけで武器としてはものすごく弱体化していますが」

「たわけ。誰が使い方を説明しろと言った。私がきいているのはどうしてこういう仕掛けになっているかというメカニズムだ。まあいい。とにかく組み合わせを決めるから出席番号順にクジを引け。まずはイオ・ブルーシス」

「はいはい」

「返事は1回でいい!」

 うんざりした表情でイオが前に出てクジを引く。

「1番。トップか。なんか気乗りしないな」

「さっさと戻れ。後がつっかえてるんだ」

 トーナメント票の1番の欄にイオの名前が乱雑に書かれる。

「次、レイアム・ブラスト。ほら、さっさとしろ、のろまが」

 どうにもメテオスは何かに付けて色々嫌味を付けないと気が済まないらしい。やっていることはほとんどあの総会と同じだ。唯一の救いといえば、彼に落第だの退学だのの権限がないということだった。そういう意味では気が楽だといえる。

 3番目にクジを引いたカーラも「女子だからってハンデはないからな。どうせ腕力じゃ勝てないくせに」と差別めいたことも平気で口にし、その次に引いたジャナルも「悪運が強い奴め。どうせ合格したのもオマケだろう」と追試のことでネチネチと言われた。

 そうして更にくじは引かれていく。

「次、サリオ・ファンネル」

「10番です」

「ふん。対戦相手はジャナル・キャレスか。あんな落ちこぼれに負けたら恥だな」

 それを聞いたジャナルが、何もそこまで言わなくてもいいだろとメテオスに抗議しようとした所を隣にいたイオが強引に止めた。

「いちいち真に受けるな。怒りたいのは分かるけどな」

「けどなあ。追試のことといい、そこまで言われたくないぞ、俺は」

 実際問題ジャナルは学問については確かに落ちこぼれだが、体力や身体能力に関してはそうでもなく、魔獣ハンターのライセンスも持っているほどである。

 だが悲しいことに、その技能を最大限に生かす知恵がない。先日行った他校との試合も、ルールをしっかり把握していなかったせいで反則負けを取られてしまった。

 そんな彼が密かにライバル視しているのが同じクラスの友人にして最強の天才剣士とも言われているヨハンである。公式・非公式問わずありとあらゆる試合を総ナメする勢いで、負けたところを誰も見たことがないくらいの実力者だった。

「次、ヨハン・ローネット」

 無言のままヨハンが前へ出た。優勝候補、というより優勝決定株の登場にクラス全員が注目する。

 残っているクジは5枚。誰もがなるべくなら初戦では戦いたくないと思っている中、ヨハンが引き当てたのは、

「2番」

「嘘だろーっ!」

 不運にも初戦で当たってしまったのはイオであった。他の生徒たちもトーナメント表の自分の名前とヨハンの名前の位置を見比べてはああだこうだとざわめいている。

 やがて全員分のクジがなくなり、トーナメント表の名前の欄も全て埋め尽くされる。

「あ、それから審判は試合のやっていないものがやれ。私は自分のクラスで手一杯だからな」

 そう言い残してメテオスは無責任にも去っていった。本当に剣術コースのことはどうでもいいらしい。事実、彼はそれ以降こっちには顔を出すこともなかった。




「ったく何でよりによってヨハンなんだよ」

 準備運動をしながらイオが愚痴る。

「いいじゃないか。俺なんか決勝まで当たらないんだぞ」

 ジャナルはイオとは別の意味でふてくされていた。

「嫌味か、それは」

「いや、俺はヨハンと戦いたかったんだよ。他のクラスの連中は最低1回は勝ったことあるけどヨハンにだけは未だに勝ったことないからなあ。せめて卒業までにあいつに1勝はしたいんだけど」

「お前がそこまでバトル野郎とは思わなかったよ」

 イオは眼鏡を外すとそれをジャナルに預け、試合の場へ出た。

 目の前には相変わらず何を考えているのかさっぱり読めないヨハンが立っている。

「では互いにバッジをカプセルの中へ」

 審判役を買った生徒が先ほどメテオスが持ってきたカプセルを二人に手渡す。

 カプセルの中を開けると三角形のくぼみがある。分校の名であるデルタを意味する形だ。そこへ普段は校章として身につけているバッジをはめ込んでフタをすると、カプセルはまるで生きているかのようにくにゃくにゃと変形し始めた。

「なあ」

 イオの手には細い刀身の剣に変形したカプセルだったものが握られている。彼の剣「ヤミバライ」のギミックだ。

 対するヨハンの武器は、刃の部分が巨大な矛のような形をした、いかにも重量のある剣「デュエルナイト」。

「武器からして俺、不利なんだけど」

「これはギミックだ。当たっても死なないから安心しろ」

「いや、そういうんじゃなくて。明らかに当たり負けするだろ、これ」

 言い出したらきりがないので結局イオの意見は聞き入れられず、試合は開始された。

「始め!」

 合図と同時にヨハンがデュエルナイトをイオに向かって振り下ろす。重量のある剣だとは思えぬ速さに周囲は驚いた。

 無駄な動きは一切好まず、先手必勝・一撃必殺というのがヨハンの戦闘スタイルである。普通、あれだけ重量のある剣を素早く振り回すのは不可能に近い。ヨハンが天才と呼ばれているのも、それを可能にしているのが理由の一つであった。

 イオはそれを後ろに跳んで回避すると、素早いステップで横に回りこんでヤミバライを薙いだ。

 ヨハンの戦闘スタイルに対して、イオの場合は一撃必殺という共通点はあるものの、フェイントとカウンターを駆使して戦うタイプだ。的確な攻撃が素早くできるようにと、武器も斬ることより突くことに重点を置いているものを使用している。

「甘いな」

 ヨハンはすぐに体勢を整えると、イオの一撃を剣で受け止めた。

 互いの剣が交差したまま硬直する。が、やはり使用している武器の違いか、圧倒的にイオの方が不利だ。目に見えて押されている。剣が細すぎてデュエルナイトの重量に耐えられない。

「くそっ」

 イオの持つヤミバライがぼんやりと光りだした。刀身は硬質なオーラに包まれ、わずかながらデュエルナイトを押し返していく。

(やはりギミックだから魔力の伝導が悪すぎる!)

「たあっ!」

 渾身の力を振り絞ってデュエルナイトをはじき返す。ヨハンの懐がガラ空きになった。

 と、思った矢先にイオの左胸に軽い衝撃が走った。

「勝負ありだ」

 ヨハンの冷たい声が響く。ヤミバライがヨハンに届く前に、デュエルナイトがイオの胸に突き刺さっているのが見える。

「武器の特性に頼りすぎだ。だから攻撃が出遅れる」

「無茶言うなよ。そうでもしないともっと早く負けてるだろうが」

 イオが皮肉っぽく言い返す。彼は出血もなければ外傷もなかった。デュエルナイトの先端はゴムのようにぐにゃりと潰れていた。

「さ、さすがはギミックトランサー。人体にはノーダメージとはすごい発明品だな……本物だったら死んでただろうけど」

「俺は殺す気でいたぞ」




 1回戦は皆の予想通りヨハンの勝利となり、続いて2回戦の準備が進む。

 イオがジャナルの所へ戻ってみると、ジャナルは体育館の壁に背を付けたまま、熟睡していた。ちょっとやそっと揺さぶっても起きないだろう。さっきの「打倒ヨハン」の意気込みは一体どこへ行ったのか、と文句を言おうとした矢先、

「あーっ!」

 イオはショックで凍りついた。ジャナルに預けておいた眼鏡が彼の足の下敷きになっている。足をどけてみると、フレームが曲がっていた。

「ジャナル。お前という奴は、お前という奴はぁー!」

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