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04 忘れ物

「おっはよー!井上君!」

「おう。おはよう伊佐敷」

席替えをした翌日、伊佐敷は朝から元気に挨拶してきた。どうやら席替えの一件からテンションが上がっているようだ。


隣の席に座りカバンから教科書を取り出し授業の準備をしている伊佐敷を横目で見ていると伊佐敷がこちらのほうを向き何か言いたげに見つめてきた。

「伊佐敷。どうかしたか?」

「あのね・・・ほんとに申し訳ないんだけど、今日の3限の数学の時、教科書見せてくれない?」

「なんだそんなことか。いいよ」

「ごめんねー。ありがと、助かる」

「そんなことどうってことないって。そんなことより、伊佐敷が教科書忘れるなんて珍しいな」

「たはは、そうだね。いやー。私も忘れ物するなんて思ってなかったからカバン開けてびっくりしちゃったよ」(言えない!井上君と隣の席になれて嬉しくてそのことで頭の中いっぱいになっちゃって次の日の準備し忘れて学校に来ちゃったなんて言えないっ)

「ま、そんな日もあるだろ。あんまり気にすんなよ。てか、思ったんだけどよ俺じゃなくて大石に教科書見せてもらったらどうだ?」(いままでの言動を見る限り伊佐敷はきっと大石のことを好きなんだろう。それならアピールも兼ねて俺じゃなくて大石に頼んだほうがいいんじゃないのか?)

「えっ?大石君・・・?なんで?」(もしかして井上君、私に教科書見せるの嫌なのかな・・・。そうなんだったら悲しいなぁ・・・。)

「えっ!?なんでって言われてもなぁ・・・。俺が教科書見せるのが嫌ってわけじゃないんだけど、俺でいいのか?」

「どういうこと?井上君に見せてほしいんだけど?」

「ああ。そうなのか、じゃあ見せるな」(きっと大石に見せてもらうのは恥ずかしいから俺のこと頼ったんだな。気づけなくて申し訳ないな・・・)


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今は三限目。俺は自分がおかれている状況に頭を抱えていた。

(どうしてこうなった・・・。いやこうなることはなんとなくわかっていたがまさかこんなに近いとは。しかもクラスのやつらはこっちのことチラチラとみてくるし大石にも申し訳ない・・・。)

そう、俺が今置かれている状況とは一つの教科書を一緒にみているという、いままでも何度かは経験したことがある状況である。しかし、伊佐敷が異常なほどにこちらに体を寄せてきているのである。直接肌と肌が触れ合うほどの距離ではないが、伊佐敷のシャンプーか香水の匂いかわからないなんともいえない甘いいい匂いが俺の鼻腔をくすぐる。俺はなるべく普段通りに振舞うように心がけ、いたって真面目にノートをとるふりを続けていると、隣に座る伊佐敷が小声で話しかけてきた。

「井上君!そこの問題答え間違ってるよ」

「えっ!どこどこ?」

「この問2だよっ。これはここの公式を使ってこうやって式変形してからすると解けるんだよ」

「あっ本当だ。ありがとな、入学式に挨拶しただけあってやっぱり伊佐敷って賢いんだな」

「そんなことなよー。でも、わからないことがあったらなんでもきいてね!私が教えられることだったらなんでも答えるし!」

なんと伊佐敷は低俗なことを考えていた俺に対し親切心で声をかけてきてくれたようだ。なんていい奴なんだと思わず感動してしまった。


そんなこんなで授業は進みあと数分で終わりだというところで俺は先生に指名された。

「井上!この問題答えてみろ」

出題された問題をみてみるとちょうど予習をしていてわからなかった問題だった。わからんな・・・と思いながら

「えーっと・・・・・」と答えを言い淀んでいると、視界へ隣から小さな紙が滑り込んできた。そこには可愛らしい文字で、「答えは2だよ!」と書かれていた。隣を見ると伊佐敷が小さくウインクし合図してきたので伊佐敷に心の中で感謝しながら

「答えは2です」と答えた。先生は

「よし、正解。座っていいぞ」と言った。

俺が席に座るとすぐにチャイムが鳴り授業は終了となった。俺は終わるなりすぐ隣を向き伊佐敷に

「なんどもありがとな。助かったよ」と言った。伊佐敷は嬉しそうな表情をした後

「ううん。私も教科書見せてもらったし、お互い様だよ!」と笑顔で言ってくれた。


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時刻は昼休み、俺は典史と二人で昼ご飯を食べていた。

「おい恍。数学の時間、珍しく答えに困ってたじゃねぇか」

「ああ、あれか。予習しててよくわからなかったところが当たっちまってな」

「そうだったのか。でも最終的には答えられてたじゃねぇか、追い込まれて閃いたのか?」

「いや。伊佐敷が助けてくれたんだよ、あれがなかったらヤバかったな」

「伊佐敷が隣でよかったな。普通そんな親切にしてくれねぇぞ」

などと、典史は弁当俺は菓子パンを頬張りながら話していた。すると、もう昼飯を食べ終えたのか伊佐敷と遠藤が俺たちの席にやってきた。遠藤は素早く典史と俺の間に割って入ると典史の首根っこを掴みそのままズルズルと教室の外へと出て行った。いきなり何が起こったのか理解できずその場で固まっていると、伊佐敷が恥ずかしそうに話しかけてきた。

「井上君ってさ、いつもお昼ごはん菓子パンだよね・・・?」

「ああ、そうだな。親が仕事で忙しくて作る時間がないんだとよ」

「そうなんだー。それならさ私、明日お弁当作ってきてもいいかな?」

俺は伊佐敷の予想外の発言に頭が完全に停止した。止まった頭で必死になって考え、

「はっ!?なっなんで?」とやっと声を絞り出した。なんでかと聞かれた伊佐敷は同じようにたじろき

「な、何でって言われてもなぁ・・・。そっそう!今日教科書見せてくれたお礼!それだったらいいでしょ?」と言ってきた。

「あああ、お礼か。なるほどなるほど。まあそういうことならありがたくいただくことにするよ」

「うん!腕によりをかけて作るから楽しみにしててね!あっそれとこのことは他のみんなには言わないでくれない?ちょっと照れ臭いから・・・」

「了解。そういうことなら典史にも黙っておくよ」

「ありがと!」

と、言って会話は終了した。その後、遠藤から解放されたのか典史が耳を抑えて戻ってきた。なんで俺がこんな目にあわなくちゃいけねぇんだ・・・などとぼやいていたが俺は先ほどの会話を思い出しボーっとしていた。



昼休みの伊佐敷の衝撃的な発言から数時間たった頃、ベットの上でそのことを延々と考えていた俺は一つの結論に達っしていた。なぜ伊佐敷が俺に弁当を作ってくるといいだしたのかそれは・・・・・伊佐敷が典史のことを好きだということだ。いやー、やっと結論にたどり着いた!俺がこの結論にたどり着いた根拠を出すと

1:遠藤が典史を連れ出す←典史に秘密にしたい話なのだろう。これは伊佐敷も言っていた。

2:伊佐敷が俺に弁当を作りたいと言ってきた←典史と仲が良い俺にまず食べさせることで典史の好みの味をリサーチしつつよりよいものを作ろうとしているのだろう

3:教科書を見せたお礼に作ってくると言っていた←普通なら教科書を見せた程度ではこんなことはしないだろう。それども半ば強引に言ってきたということはなんとしても俺に味見をしてもらいたいのだろう。

といったところだ。

「はぁー、考え疲れた。なるほどな、そういうことだったのか。どおりで大石の話しを振っても反応がイマイチだったわけだ。いままで気づけなくて伊佐敷には悪いことしたなぁ・・・。よし!伊佐敷まかせろ!お前の想いは俺がしっかりサポートしてやるからな!」

そしてここに一人の勘違い野郎が生まれた。

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