02 カラオケ
入学式から数日が経ったある日のことだ。徐々にクラス内での人間関係が固まりだしたころ、クラス内カーストの上に属するお調子者こと鈴木豪が教壇の上に立ちこんなことを言い出した。
「高校生活も一段落しだしたし、クラスみんなでカラオケにでも行かねー?」
鈴木の発言力はクラス内でも大きく、みんな口々に賛成と言い出した。
俺はと言えば、そんな催しごとにさらさら行く気はなかったが典史も賛成しているようなのでこれは断り切れないなと察していた。
(あー、行きたくねぇなー。人前で歌うの苦手だし、なんとかバックレられねぇかな。)
すると、鈴木がまた口を開き
「じゃあ今週の金曜の放課後にやろうと思うから参加する奴はクラスのグループに参加希望って書いといてくれ!」といった。
(は?クラスのグループってなんだよ!?そんなのきいてないぞ!)
と鈴木の発言に驚愕していると、前の席に座っていた伊佐敷がこちらを振り向き
「そういえば井上君ってクラスのグループ入ってなかったよね?グループに招待するからスマホだして」
と言い出した。ちょうど同じことを考えていたので伊佐敷の言葉に従い、スマホを取り出した。
「私とフレンドになったら紹介しやすいし私のQRコード読み取って追加して?」
(おいおい、いいのかよ?こんなかわいい子の連絡先教えてもらって、俺のフレンドとか家族と典史と中学の同級生数人だけだぞ・・・)
「おう。ありがとうな。よし、追加できた」
「こっちにも来たよ!フレンドに追加しとくね!じゃあちょっと待っててね今からグループに招待するし・・・・・・・・・・・よしっ!招待できたよ!」
「おっ、きたきた。ありがとうな、助かったよ」
「お役に立ててよかった!」
「おう。ありがと」
と話は終わったのかと思い、美少女の連絡先が俺のスマホに登録されたことにニヤツきを隠せないでいると、まだ話は終わってないぞと言わんばかりの勢いで伊佐敷が話かけてきた。
「ところで井上君はカラオケには行く予定なの?」
「うっ・・・うーん。どうだろうな、考え中だ。ちなみに伊佐敷は行くのか?」
「うーん、どうだろ?行きたいとは思うんだけど、私も考え中にしとこっかな?」
「なんだよ、歯切れ悪いな。伊佐敷が行ったらクラスの男連中は喜ぶと思し行ってやったらどうだ?」
「そうなのかなー?私が行ったら、井上君は喜んでくれるの?」
「まあ確実に悲しみはしないだろうな」
(なんで俺なんかの参加の有無を知りたがるんだ?どうでもいいことだろうに・・・気を使ってくれてるのか?)
「ふーん。じゃあ、小雪が行くって言ったら行くことにしようかな!」
「おう。それがいいんじゃないか?」
「そうするね!そうと決まれば早速小雪に聞いてくるよ!じゃあね井上君」
そう言って伊佐敷は遠藤の元へ走ってい行った。
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月日はさらに流れ、今日はカラオケ当日の放課後だ。結局俺は、典史の熱烈な誘いに根負けし参加することとなっていた。
帰りの支度をしていると、典史が真っ先にやってきた。
「よー恍!やっとこの日が来たな!いやー、本当に楽しみだなー!」
「ああ、そうかよ。俺はお前のせいで帰りが遅くなって最低な気分だよ・・・」
「なんでそんなこというかねー。俺はお前にクラスでの知り合いをもっと増やしてほしくてさそってやったのによー」
「そういうのを俺は求めてねぇんだよ。俺は小さなコミュニティだけで十分なんだよ。」
「そうかよそうかよ。ま、こんな機会そうそうないだろうし今日ぐらいは楽しもうぜ」
「はぁ・・・。わかったよ、最後まで参加ぐらいはしてよるよ。」
と典史と話していると、
「じゃあカラオケ向かうし俺についてきてくれ!」と鈴木が言い出した。
そして、鈴木の言葉に従い俺たちもカラオケに向かうことにした。
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カラオケはあらかじめ予約されていたのか、クラスの半分は入る大部屋が2部屋用意されていた。まず揉めたのが誰がどっちの部屋に入るのかということである。誰も表立って行動を起こしてはいないが、明らかに男子は伊佐敷と遠藤のいるほうに行きたがっているのが分かる。
(ま、そんなことになるだろうとは思っていたけどな。あー、めんどくせぇな)
面倒ごとを避けたい俺はさっさと部屋に入ろうと
「おい。なんかめんどうなことになってるけど、さっさと入っていいか?」
と鈴木に言って適当に近くの部屋に入ろうとすると、鈴木が間に入ってきた。
「井上ちょい待ち!どっちの部屋になるかは、このくじ引いてもらうから。はい、これ引いてくれ」
と言ってくじが入っているのであろうビニール袋を差し出してきた。俺はその中から適当に引いて鈴木に渡した。鈴木は、「おっ、Aか。じゃあ井上は左の部屋に入ってくれ」と言ってきた。
鈴木に指定された部屋に入り壁際に座って待っていると、続々とクラスのメンバーが入ってきた。その中には、伊佐敷や遠藤の姿もあった。残念ながら典史は同じではないらしく俺のボッチカラオケが決定的となった。(これで本当にきた意味がわからなくなったな・・・)と考えていると目の前に影が生まれた。俺がその陰の方に目を向けると一人の男子生徒が声をかけてきた。
「隣いいか?」
こいつは名前を大石健也という。鈴木と同じクラスカースト上位グループに属し、噂程度でしか聞いたことはないが学年一のイケメンと言われているらしい。確かに少しチャラい印象を受けるものの、俺のような日陰者にも平等に接してくれるところを見ると性格もいいようだ。人気が出るのもわからなくもない。大石の問いかけに対し
「ああ、構わないぞ。」と答えた。
そのあとは、特筆することまなくごくごく普通のカラオケ会となっていった。俺はと言えば席の端の方で、ジュースを飲みながら時間をつぶしていた。時折、遠藤が伊佐敷に「行ってきなさいよ」などとこちらをチラチラと見ながら言っていたようだが、伊佐敷は大石にでも話しかけたいのだろうか?その後も何回かそんなやり取り続けている伊佐敷と遠藤をみかけたので俺は思い切って二人に話しかけることにした。
「伊佐敷、なんか用があるのか?」
「ふぇっ!?ど、どうしたの井上君?」
「驚きすぎだぞ。いや、そこの二人がこっちに用があるように見えたからさ」
「あっあー。えーっとちょっとそっちいってもいい?」
「ああ、そんなことか。別にいいぞ。ほらよ」
「えっ!?井上君何で立ってるの」
「えっ?大石に用があるんじゃないのか?」
「えっ!?うっ・・・うん。そっ、そうそう大石君に用事があったの」
そう言って大石の隣にすわる伊佐敷を横目で見ながら
(うーん。なんで俺が席を譲ったことであんなにたじろいていたんだ?俺なんか間違ったことしたか?大丈夫だよな)などと考えていた。
座る席がなくなった俺は適当に空いていた席に座った。隣同士になった大石と伊佐敷は終始楽しそうに話をしていて、あの二人が一緒に座ると絵になるなーとか、間違ったことはしなかったようなのでよかったななどと考えながら残りの時間を潰した。
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