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2/12話 ☆ 幼女聖愛 ~lolita complex~

前回のあらすじ。


イケメンが、電柱に刺さった。

1.


初夏の5月は、恋の季節。

樹々の新緑がつぎつぎ芽吹き、明るい陽射しに照り映えて。

若い命のエネルギーが、ここから、そこから、溢れてきます。

ほら、あそこにも。

眩しいくらい元気な小学生たちが、きゃあきゃあ、きゃいきゃい騒ぎながら。

楽しそうに学校へ、向かっていきますよ、っと。

元気いっぱいの小学生たちは、かわいらしいものですね。

まわりの大人たちもなんとなく足を止めて。

微笑ましい子供たちの様子を、嬉しそうに眺めておりますよ、っと。

でも、いくら嬉しいからといって。

小太りの男性が血走った目で、はぁはぁ息を荒くしながら、小さい子たちを見ていたら。

ましてや、ああ!それはいけません。震える手でスマーホを取り出し、カメラを向けたり、していては。

ダメです。無茶です。衆前でそんなことをしてしまっては、小太りの男がスマーホで児童を撮影する事案が発生、してしまいます。

せめてもう少し、わからないようにやってください。

どうやら、自分の欲望に忠実な方のようですよ。

良くないですね。

「ちょっと!アンタ、なにやってるのよ!!」

さっそく、止められました。当然です。

彼は、チッ、ババア。と聞こえよがしに大きな舌打ちをすると、注意してきたババ…もとい。ご婦人をものすごい形相で睨み付け。

汚いんだ、お前らは汚いんだ、とぶつくさいいながら、行ってしまいました。

「なんなのかしら、あれ。こわいわねー。」

「妹尾さんのところのコよ、あれ。いったいどんな教育をしてるのかしら?」

「あそこ、母子家庭でしょ。おかしいのよ、やっぱり。」

立ち去っていく小太りの男性、母子家庭の妹尾さんのところのコ?の背中に、ひそひそ、こそこそと容赦のない中傷の言葉が刺さっていきます。彼の奇行が原因の自業自得とは言え、ちょっと酷すぎる言われようですね。

世間様は、小太りには冷たいのでしょうか。

さあ、彼がカメラの前まで来ましたよ。自己紹介をどうぞ。

妹尾武(せのおたけし)。13歳、中学二年生、童貞。太っているのは昔からなので、成長期とは関係がない。近所の有馬書店で月刊スイートさくらんぼ写真館を定期購読、三年契約済。」

「お前!?勝手に読み上げるなよっ!!」

武くんに怒鳴りつけられた女の子が、ひゃっと飛び上がり、あわてて謝ります。

「ご、ごめんね妹尾くん!ちょっとこの前、いろいろあってさ。まだちょっと、クセが抜けないんだ。あはは。」

「サトミちゃん、悪気は、ないのー。」

ひよこさんを連れた、二人の女の子。

はい、ご存じですね。胸のないほうが、主人公の高木里美(たかぎさとみ)さん。胸のあるほうが、お友達の梶田幸恵(かじたゆきえ)さんです。

チッ。

武くんはまた、大きな舌打ちをします。ていうか、普通に「チッ。」って言っています。癖なんでしょうか。アニメの影響ですね。

「…ったく、汚れたクソビッチどもが。」

この小太り。中学二年生の女の子に、言うに事欠いて突然なんて事を言うのでしょう!!

「私は汚れてないよ!!おぼこだよ!?」

「わたしもー、おぼこー。」

ほら、小太りが思い切った事を言うから。サトミさんたちまで、さりげなくとんでもない事を主張しているじゃありませんか。

「お前らはな、汚いんだ。」

武くんはよっぽど月刊スイートさくらんぼ写真館のことをばらされたのが頭にきているのか。

二人を大袈裟に罵るのを、やめるつもりがないようです。

「いいか、自覚しろ。女はなぁ、トシがフタケタを越えたらもう、ババアなんだ。お前らなんて、とっくに汚れきったクソビッチなんだよ!!」

武くんは、勢いあまってものすごい自説を展開していますが。

「あ!圭二(けいじ)くんだ!!」

「サトミちゃん、走ったらあぶないよー。」

憧れのイケメン、新帝圭二(しんていけいじ)さんを目ざとく発見したサトミさんがロケットダッシュ、幸恵さんも負けじと続いてダッシュします。

幸恵さん、さりげなく足速いですね。

チッ!

一人残された武くんは、それしか言えません。

やがて、「コレだからクソビッチは…。」とぶつくさ呟きつつ、歩いていってしまいました。

君が今回の主役ですよ。しっかりしてください。



2.


物静かに歩行中のイケメンな方、新帝圭二さんに、背後から流星のような勢いでサトミさんが迫ります。

今日こそ、ぶつかる!サトミさんの想いを乗せた突撃を、このイケメンときたら振り返りすらせずに最小限の動きで見切り、回避してしまいました。

どうも、なんらかの武道の心得があるようですね。

サトミさんは例によって、電柱に頭から突き刺さっておりますが。

恋するおぼこは不滅です。そのくらいではくじけません。

(ハッ)!と気合い一閃頭を引き抜くと、圭二さんの前に仁王立ちします。

電気屋さん、いつも電柱をこわしてごめんなさい。

サトミさんは俯いて、もじもじしています。

そんなサトミさんを見て、フッ、と笑うと。イケメンな圭二さんはポン、とサトミさんの頭に手を置き、「頭…、大丈夫?」とやさしく声をかけます。さすがイケメンです。

「(あれは君、アタマおかしいんじゃないの?って意味じゃ、ないのかなー。)」

耳から湯気をジェトスチームさせて固まってしまったサトミさんを見ながら、幸恵さんは思いました。

このお友達は時おり、辛辣な一面を見せます。

「あ、あ、あ、あのっ!あの!!」

サトミさんは必死になって、言葉を探します。

言いたいこと。聞きたいこと。山のようにあるそれらが、出口を塞がれた頭の中で、グルグルまわって。

誕生日は、いつですか。好きな食べ物は、なんですか。好きな音楽は、ええと、よく会いますね、学校、こっちなんですか。ていうか。好きです。結婚しましょう。それで、あなたの弱点は、なんですか。必殺技は…。

「必殺技は、なんですかッ!?」

思考が行動にようやく追い付き、サトミさんが口を開いたとき回ってきたのは、ちょうどその部分でした。

「墨田落とし…かな。」

圭二さんは、ンー、とちょっと考えてから、答えます。

<サトミさんは、そのひとのことが、すきなんですね。>

「ファーッ!?」

いつの間にか二人の間に来ていたひよこさんがかけた言葉に、サトミさんはおもしろい悲鳴をあげて、バターンと倒れてしまいました。

限界だったようですね。JIS規格の電柱、ナメてはいけません。

「(別に真面目に答えなくても良かったか…)」

目を回しているサトミさんを見下ろしながら、圭二さんは思いました。



1週間ほど前、『ラブスカウター』事件の翌朝。

サトミさんたちは、東京に行こうとして迷子になっていたひよこさんと出会いましたが。

その日の放課後のこと。

帰り道でいつもの角に差し掛かったサトミさんたちは、どういうわけか「拾ってください」と大振りの達筆な文字で書かれた、段ボール箱に入っているひよこさんに遭遇しました。

<しんせつなおじいさんが、いえをたててくれました。>

慌てて駆け寄ってくるサトミさんたちを認識すると、なんでもないことのようにひよこさんが言います。

よほど親切な方だったのでしょう。よく見ると、段ボール箱の中にはあんパンと牛乳まで入れてくれています。

<とうきょうは、いいところですね。>

ひよこさんは澄んだ瞳で、満足げに青空を眺めていますが。

「ダメだよ!そのままだと拾われちゃうよ!?」

「ここは、さいたまー。」

段ボール箱を覗き込んでいるサトミさんを、ひよこさんはなにやら、じっと見つめています。

「出られないんじゃ、ないかなー。」

「あっ!」

たしかに段ボール箱は、ひよこさんの背丈よりずっと、大きなものでした。

サトミさんは手を伸ばして、ひよこさんを拾い上げてあげます。

<りっぱな、いえですね。>

ひよこさんは感心したように、白菜の段ボール箱を見上げていましたが。

とことことリュックに近づくと、ポケットから紙を取り出して、拡げて見せます。

<とうきょうに、いきたいのです。>

ひよこさんの紙には、さっくりとした世界地図らしき図形が描かれており。

日本に赤くマルがついていて、「さいたま」と書き込みがされています。

ちなみに、イタリアのあたりには「ナポリタン」と書いてあります。

<いぬじろうさんが、かいてくれたのですが。>

ひよこさんはしげしげと、見直すように地図を見ています。

<ちずのとおりにあるくと、ここへきてしまいます。>

サトミさんと幸恵さんは、うーん、と顔を見合わせます。

間違ってはいないんだけど、根本的ななにかが間違っている気がする。

それをどう、このひよこさんに説明したものだろうか。

「…とりあえず、私の家に行こっか?」

このまま放っておくわけにもいかないので、二人はひよこさんのリュックにあんパンと牛乳を入れてあげると、ひよこさんを連れてサトミさんのお宅へ向かいました。


「ふーん。ひよこさんは天国から来た、天使さまなんだ?」

サトミさんの部屋。若干散らかっているようですが。

女子中学生の部屋に特有のそこはかとなくファンシーな雰囲気に、クッションに半分埋もれたひよこさんはなかなかにマッチしています。

<なまえは、ピヨコットです。>

「あ、私、高木里美!サトミでいーよ!」

「わたしは、ゆきえー。」

ひよこさんを挟んで右と、左。ひよこさんは、サトミさん、ゆきえさん、と、二人を交互に見回します。

「それで、ピヨコットちゃんは東京に行きたいんだ?」

<ちじょうのひとの、こいのなやみをかなえにきました。>

ひよこさんは目的を、明瞭かつ簡潔に説明します。

<いぬじろうさんが、とうきょうにはひとが、たくさんいるというので。>

「そっかー。私が連れていってあげてもいいけど…。」

二人はひよこさんを見ながら、ンー、と考え込みます。

「(心配、だなぁ…。)」

どう考えても、このひよこさんが1人でテリブルな東京砂漠を生き抜けるとは思えません。

親切なおじいさんはそうそういないのです。

「あ、そういえば。」

サトミさんはふと、先日の一件を思い出しました。

「この前の、あの黒い方のひよこさん。あれ、ピヨコットちゃんのお友達じゃないかな。あのひよこさん、まだこの辺にいるんじゃない?」

「あー。」

ひよこさんは不思議そうに小首を傾げていますが、二人は何かを思いついたようです。

「とりあえず、しばらくウチにいなよ!一緒に、黒いひよこさん探そ?あのひよこさん、しっかりしてそうだから、一緒なら安心じゃないかな!」

「(あのひよこさん、悪者のような気がするんだけどなー。)」

ええ、自分で思いっきり悪魔って言ってましたね。サトミさんはどうも、物事を好意的にとらえてしまう性格のようです。

ひよこさんは、やっぱり不思議そうな顔をしています。

そうですね、12の御遣いのなかにはピヨコットさん以外に鳥はいないのです。

3人はまだ知りませんが、確実に思いっきり、悪魔ですね。

大丈夫なんでしょうか。

「ね、そうしなよ!東京のこともいろいろ調べられるし。よろしくね、ピヨコットちゃん!」

サトミさんが手を差し出すので、ひよこさんもぺこりと、頭を下げます。

ふわっ、とひよこさんの頭が、サトミさんの手のひらに乗りました。

「やーん!ピヨコットちゃんかわいいかわいい!」

サトミさんはひよこさんをぶんぶん振り回します。

「ピヨコットちゃん、とんでっちゃうよー?」

「あ、ごめん。」

クッションにおろしてもらいながら、ひよこさんは天の世界の女神さまの事を思い浮かべます。

<やーん!ピヨコットちゃんかわいいかわいい!!>

ぶんぶんぶん。

<サトミさんは、女神さまにそっくりですね。>

「ええ!?ピヨコットちゃん、ちょっと誉めすぎだよぉ!」

素直に照れているサトミさんを見て、幸恵さんは「(たぶん、いい意味じゃないんだろうなー。)」と思うのでした。


<しんせつにありがとうございました、ではいえにかえります。>

「いやいや、帰っちゃダメだよ!!」

一通りの話が済んで段ボールハウスに帰宅しようと試みるひよこさんを、サトミさんは慌てて引き留めます。

どうやら、ひよこさんは段ボールライフがまんざらでもなかったようですね。

そう言われてみれば、親切なおじいさんが好意で建ててくれたお家を放置するのも申し訳ないような気がするので。

段ボールハウスは、サトミさんのお部屋に移設されることになりました。

「ほら、ここが今日からピヨコットちゃんのおうちだよ!」

「玄関、つけたー。」

ひよこさんは出入口を切り欠いた段ボールに出たり入ったりしていましたが、お気に召して頂けたようで。

やがて、おうちの中央に座って落ち着きました。

「あ、クッション、入れてあげようか?」

「リュックも、入れるー?」

幸恵さんが何気なく、ひよこさんのリュックに手を伸ばしますが。

引っ張ろうとした瞬間、逆に重心が前に崩れて危うくつんのめりそうになります。

よく見るとこのリュック、なにげに床にめり込んでいるような。

「…重くて、持ち上がらないー。」

「ホントだ!なにが入ってるのコレ!?」

これはどうしたことでしょう。確かにひよこさんのリュックはひよこさんに対しては大きすぎるものでしたが。

女の子とはいえ、二人がかりでも持ち上がらないほどの大きさではないように見えます。

ひよこさんがとことこ、お家から出てきました。

リュックの両サイドのジッパーを下ろすと、中からはいかつい、金庫のような。

飾り気のない、無骨な直方体があらわれ、鈍色の輝きを放っています。

「こ、これって…?」

あきらかにヤバげなマークの書いてあるそれを、ひきつった顔でサトミさんたちは眺めています。

<『ときめきラブコンテナ』、です。>

ひよこさんが簡潔に説明します。

「うん、たしかに『ときめきラブコンテナ』って書いてあるけど…。」

「(もうちょっと、ねえ?)」

おざなりにマジックで『ときめきラブコンテナ』と書いてある直方体を前に、二人は思わず顔を見合せました。

<ときめきラブパワーが、たまります。>

ひよこさんの説明は、いつもムダがありません。

どうも、天の世界のセンスは地上と若干異なるようですね。



3.


そんなこんなで、サトミさんとひよこさんのふしぎな生活が始まりました。

サトミさんは毎日電柱に刺さったり、ひよこさんはひよこさんで知らないおじさんについていってしまったり、それなりにいろいろとあったようですが。

とりあえずのところ、二人は無事、平穏な日々を過ごしておりました。

そして時間はふたたび1週間ほど後、風薫る五月の頭。

今ここに、無事、平穏に過ごしておられない方がお一人、いらっしゃるようです。

「クソが。」

学校から部屋に帰るなり、いきなり壁を蹴り飛ばしているのは、ああ、彼こそ今回の主役。

衆前で小学生の盗撮を果敢に試みていた、あの妹尾武くんではありませんか。

撮影の邪魔をされたことが、よほど悔しかったのか。

はたまた、「月刊スイートさくらんぼ写真館」のことを紹介されたのがよほど頭にきているのか。

「クソババア。クソビッチども。死にやがれ。」

両方だったようですね。

武くんはその小太りな肉体をドスンとベッドに投げ出すと、スマーホを取り出し、スイッ、とやります。

データーフォルダ。パスワードを入力してください。どうやら、秘密のデーターのようですね。

「MANAKA」と、武くんの太い指が、見た目以上に器用にパスワードを入力します。

ああ、これはなんと。武くんがせっせと撮りため、または、せっせとインターネットで収集した、小さな女の子たちのお宝画像ではありませんか。

怒りと憎しみに満ちていた武くんの表情が、みるみるうちに和らいで。

穏やかな、優しい顔に変わっていきます。

「美しい…。」

武くんは恍惚とした表情で、スマーホの画面を見つめています。

「(こんな美しいものが、他にあるだろうか。低俗なババアや、クソビッチどもにはどうして理解できないのだろう。)」

武くんの右手がするすると伸び、なにやらよろしくない動きをしようとした、その時でした。

「お兄ちゃん…。また女の子のヘンな画像見てるの。」

突然、この上ないほど冷たい口調で投げかけられた言葉が突き刺さり、我にかえった武くんは慌てて跳ね起きます。

「ま、愛花(まなか)!?お前、勝手に部屋に入るなって。言っただろう!?」

狼狽する武くんを、冷たい目で見下ろしている方は、誰であろう、武くんの妹。

名前は、愛花(まなか)さんであることが武くんとのやりとりから、わかりますね。

「お兄ちゃんこそ、私の部屋に勝手に入るのやめたら?」

あくまで冷たい愛花さんの言葉に、武くんはグッと言葉をつまらせます。

図星のようです。

「お兄ちゃんの部屋さー、くっさいんだけど。片付ければ?」

愛花さんは、床に散らかっている「月刊スイートさくらんぼ写真館」やら、丸まったティッシュやらを、汚いものを見るような目で見回しています。

「あ。ていうか、家の近くでヘンな写真撮ろうとするのやめてね。まじ、キモイから。」

言いたい事だけ言うと、愛花さんは武くんには一瞥もくれず、さっさと出ていってしまいました。

扉がしまると、ショックで呆けていた武くんの顔が、次第に憤怒の形相に変わっていきます。

「クソビッチが。全部、お前のせいじゃないか!!」

どうも、この兄妹には、複雑な事情があるようですね。



武くんのお父様は、早くに交通事故でお亡くなりになり。

女手ひとつで二人の子供を育てなくてはならないお母様が、働きに出て自然、留守がちになることから。

幼い頃より、武くんは誰よりも多くの時間を、妹の愛花さんと過ごしてきました。

「武は、お兄ちゃんだから。愛花をよく見ていてあげてね。愛花と、仲良くしてあげてね。」

お母様は幼い日の武くんに、口癖のように何度も何度も言ってきかせました。

武くんは、若干肥満気味ではありましたが、素直な良い子だったのでしょう。

お母様の言いつけをよく守り、子供ながらによく、愛花さんの面倒をみて、愛花さんを一生懸命、守っていました。

武くんはそれが当たり前の「お兄ちゃん」の役目だと思っていましたし。

何より純粋に、妹の愛花さんのことが、大好きでした。

そんな武くんを、まわりの大人たちはみんな、「武くんはいつも愛花ちゃんと仲良くしてあげて。えらいねえ。えらいねえ。」と褒めてくれました。

妹の愛花さんも武くんによくなついており。

いつも、「お兄ちゃん、お兄ちゃん。」と武くんのあとをついて回り、「お兄ちゃん、大好き!」とはっきりとした好意を示してくれていました。

二人の関係に転機が訪れたのは、武くんが小学校の高学年にあがった頃。

クラスのマセたグループの子供たちが、いつも妹にベッタリの武くんのことを、からかうようになったのです。

武くんの苗字に、「妹」の一文字が入っていたのも、原因のひとつでした。

クラスのマセガキどもがこんなおもしろい偶然を見逃すはずがなく。

武くんはあっという間に「妹尾→シスお」と変換され、「シスコンデブのシスお」として侮蔑と嘲笑の対象になってしまいました。

それでも、武くんは変わらず愛花さんを大切に守り続けました。

学校の行き帰りは必ず同行し、ご飯は必ず一緒に食べ、愛花さんがちゃんと眠るまで毎日、見守り続けました。

決定的な変化が訪れたのは、武くんが中学生、愛花さんが小学五年生にあがった去年の春のことです。

お母様が、武くんと愛花さんの部屋を、別々にすると突然、武くんに告げました。

「武、あなたももう、中学生だし。ひとり部屋、欲しいでしょ?それに、愛花はね、女の子なの。武も中学生ならもう、わかるよね?愛花にも、ひとりの部屋が、必要なの。愛花も、ずっと前から部屋分けて欲しいって。お母さんに、言ってたんだ。」

信じられない気持ちで、武くんはお母様の言葉を聞きました。

小さい頃から、二言目には「愛花と一緒にいてあげてね。」と武くんに言ってきたのは、他でもない。

お母様本人だったのでは、ないでしょうか。

それに。愛花さんがそんなことを言っていただなんて、武くんはまったく知りませんでした。何故、お母様には前から何度も言っていたことを、武くんには一言も相談してくれなかったのでしょうか。

それ以来。学校が別々になったこともあり、武くんは次第に、愛花さんと疎遠になっていきました。

毎朝、毎夕。家で顔を合わせはするものの。

なんだか、話しかけづらくなり、一日の中で一緒にいる時間の方が、ずっと少なくなっていった、そんなある日のこと。

なんとなく、近所の有馬書店にぶらぶらと向かっていた武くんは。道の向こうから、逆に家に帰ってくる愛花さんを見つけました。

近頃オシャレに興味を持ちはじめて、すっかり女の子らしくなった愛花さんは。武くんの知らない「お友達」と、楽しそうに笑いあいながら、こっちへ向かって歩いてきます。

ふと、愛花さんがこちらを向き、武くんと目が合った時。

ぴたりと、愛花さんの軽快な足どりが止まりました。心なしか、顔がひきつっているようです。

「(お兄ちゃん…!)」

武くんがもう少し、注意深ければ、今の愛花さんは声をかけるのが憚られるような様子であることに気づいたことでしょう。

しかし、ああ、武くんは。それが全てを終わらせることになるとも知らず、遠慮なく。「愛花、おかえり。」と声をかけてしまったのです。

愛花さんは怯えたような表情で、しばらく武くんを睨み付けていましたが。

「愛花?どうした?おかえりってば。」とのんきな顔で当たり前のように言ってくる武くんに、ついに、「…ウザい。」とその口を開きました。

「え…?」

愛する妹の口から出た言葉の意味を武くんの脳が理解する暇を与えず、愛花さんは堰を切ったように捲し立てます。

「お兄ちゃん。いい加減、理解してくれない?ウザいんだ、そういうの。お願いだから、友達の前で私に恥、かかせないでよ。お母さんに言われてないの?もう、私につきまとうのやめろって。まじ、キモイんだけど。」

武くんは何が起きているのか理解できず、目を白黒させています。

「き、キモくなんか、ないだろう。お兄ちゃんのこと、そんな風に言うこと、ないじゃないか。」

ようやく出た武くんの言葉に、愛花さんが、はぁ、と溜め息をつきます。

「自覚ないんだ。まずその、自分のことお兄ちゃんとか言ってるのがキモイ。あのさ、私がお兄ちゃんのことでどれだけ、嫌な思いしてきたか、わかってないの?私ね、学校で男子から、シスコンデブの妹って呼ばれてるんだよ?あいつはキモデブ兄貴にさんざんヤられたクソビッチだとか、酷いこと言われて。」

いつも血圧の高い武くんの心臓がさらにバクバクと、この上なく早打ち、脚がガクガクガクと震えます。

「お兄ちゃんが学校に居なくなって、ようやく、言われなくなってきたのに。お兄ちゃん、あのね。私、受験するんだ。中学は、私立に行くの。お兄ちゃんのことを知ってる人、誰もいない学校へ行く。」

あうあうあう、と口をパクパクさせて声にならない言葉を発している武くんを、侮蔑するように愛花さんは冷たく言い放ちます。

「…もう、家の外で話しかけないでね。」

冷然ととどめの一撃を加えると、愛花さんは「お友達」を連れて去っていきました。

武くんは泣くことも怒ることもできず、ただ立ち尽くしています。

「あ。家の中でも、話しかけないでね。」

少し離れてから振り返って加えられた追加の一撃に、武くんの心は粉々に砕かれ、完全に死にました。


大きめな武くんの身体が、ふらふらと、重さを失ったかのように揺れながら歩いています。

「(なんだ、これ。これ、なんだ。なんだ、なんだ、なんなんだ、これ。)」

武くんの人生の中で、「キモイ」という類いの心ない言葉を他人から浴びせられた経験は、実は少なくありません。特に、彼のコードネームが「シスお」に変わってからは。

女子、男子を問わず、その言葉を発する者たちに囲まれて、武くんは日々の生活を送っていました。

そんな中でも、妹の愛花さんだけは。今までと変わらず、お兄ちゃん、お兄ちゃんと呼んで慕ってくれていた、そのはずだったのですが。

武くんの重い身体を支えていた、最後の柱がぐずぐずに崩れ、潰れていました。

愛花さんの変化は、この年頃の女の子ならば誰にでも訪れる、当たり前の成長。

二次性徴の発現に伴う身近な異性に対する本能的な防御反応、通常なら父親に対する敵意として現れるそれが、その替わりの武くんに向けられたものでした。

しかし武くんは、本人も思春期真っ盛りの複雑なお年頃。それを理解してあげるにはまだ、あまりにも幼すぎ。むしろ、理解しろというほうが無理があるとすら言えるでしょう。

魂の抜けた人形のようになった武くんは、無意識のうちに有馬書店に吸い込まれていきます。

「(そうだ、ジャンボ。今日は、月曜だから。少年ジャンボ読むんだ。アポーファイターBAの続き、気になるなあ。)」

ふらふらと、週刊マンガ雑誌の棚に向かう途中。

何かが武くんの目を捕らえ、武くんは足を止めました。

可愛らしい、小学生くらいの女の子が、こっちを向いて笑っています。

困ったことに、体育座りをしているせいで。微妙ながらその、パンツ、が見えてしまっているでは、ありませんか。

いつもの武くんであれば、真っ赤になって俯いて、そそくさとその場を離れてしまうような表紙の本です。

しかし、その日の武くんは、普通の状態ではありません。

止まったまま一歩も動かず、食い入るようにじっと、血走った目で、その本の表紙を見つめているでは、ありませんか。

武くんの胸にポッカリと空いた空洞に、熱いマグマが流れ込み、エレクトロを起こしていました。

「う、う。うつく、しい。」

武くんは震える声で、無意識に呟きます。

どれ程の時間、そうしていたでしょうか。

店主のじじいにいやがらせでパタパタとハタキをかけられた武くんはゆっくりと振り返ると、「これを、ください」と「月刊スイートさくらんぼ写真館」を震える手で差し出しました。

中学生のおこづかいではいささかお高いそれを、大切な宝物のように抱え。胸を高鳴らせながら武くんは、家へ帰る足を急がせるのでした。


「美しい…。」

恍惚とした穏やかな表情で、武くんは床に落ちている「月刊スイートさくらんぼ写真館」の表紙を眺めています。

その横には、丸まったティッシュが3つ。

今の武くんの頭の中はとてもクリアで。この宇宙の全てすら、理解できる状態にありました。

「(写真…そうだ、写真。)」

横目に「月刊スイートさくらんぼ写真館」の表紙を見ながら、武くんは考えます。

「(写真は、素晴らしい発明だ。この写真の女の子は、いつまでもこのままで。美しく、可愛らしく、清いままでいてくれる。キモイとか、ウザいとか。人が傷つくようなことも、絶対に言わない。)」

「(世間一般的には、この手の写真はキモいもの、良くないものとして、嫌悪されている。だが。美しいものの姿を、その美しいところだけ。永遠に、美しいままで遺しておく、これは、素晴らしいことではないだろうか。いわば、これは芸術。そう。下賤な連中にはとても理解できないだろうが、誰恥じることない、立派な芸術なのだ。)」

「(素晴らしい。なんて、素晴らしいんだ。俺も、こんな素晴らしい芸術作品を、遺せる男になりたい。いや、ならねばならない。これは、この写真の美しさがわかる者のみに与えられた、天命なのだから。)」

妹に嫌われたのがよほどショックだったのでしょう。

武くんは、とうとうよくわからない使命感に目覚めてしまいました。

次の日から、誰恥じることなく高尚な芸術活動を始めた武くんのコードネームが「シスお」から「ロリお」に変更されるのに、そう時間はかかりませんでした。



長い回想から我に帰り、武くんはふたたび、愛花さんの去った扉に向けて、「クソビッチが。」と毒づきます。

「(あいつはもう、ダメだな。女は年がフタケタを越えると、みんな汚れてビッチになってしまうんだ。)」

ちら、と武くんは、床の上の「月刊スイートさくらんぼ写真館」の表紙に目を遣ります。

「(だから。俺が写真に遺して。そうなる前の美しい姿を保存してやってるのに。世間のやつらは、キモいだの、ロリコンだの。何も考えずに、脊髄反射で言って来やがって。否定されるべきは、お前ら無知な愚民どもなんだ。間違っているのは、この社会の仕組みなんだ。)」

ああ、なんということでしょう。この一年で武くんは、すっかり屈折して、なんだか間違った方向に大分進んでしまったようです。これはもう、助からないのではないでしょうか。

<たいへんだね。>

うさぎさんが、武くんの背中に声をかけます。

「うるせえ。まったく、他人事だとおもって気楽に声をかけやがって…誰だお前は。」

重い身体を起こした武くんの前には、小さなうさぎさんがぴょこんと立っていました。

<あなたは、こいになやんでますか。>

うさぎさんが、武くんに問いかけました。



4.


リビングから、賑やかな声が聴こえています。

テレビが、赤や、黄色。様々な色の光を発し。

音と映像を、絶え間なく発信し続けています。

ひよこさんは、じっと身動きもせず。さっきから、ずっとテレビに見入っていますよ。

「ピヨコットちゃんは、ホントにテレビが好きだねぇ。」

サトミさんは「アセロラドリンク」を飲みつつ、ひよこさんに語りかけます。

<てんのせかいには、テレビがなかった、ものですから。>

ひよこさんは物珍しげに、テレビを見つめています。

<あっ。>

だしぬけに、ひよこさんが驚いた声を上げたので、サトミさんも何?何?とテレビに近づきます。

<ロバートさんが、テレビに出ています。>

ひよこさんの見ている画面をに目を向けた瞬間。バフゥ、とサトミさんは口に含んでいた「アセロラドリンク」を勢いよく噴射しました。

「LIVE」と右上に書かれた画面の中では、Tシャツにタスキをかけ、ハチマキを締めた武くんが。白い手袋をはめた両手を振り回しながら、幼女との自由恋愛の権利について、ロリコンの人権を守ることの重要性について、熱弁を奮っているではありませんか。

「せ、妹尾くん!?え、何コレ!?生中継って…?え、なにやってんの!?ていうか、えっ!?ロバートさんって、ピヨコットちゃんの知り合い?どの人、えっ!?これ?うさぎさん!?」

あまりの未確認情報の多さに、サトミさんは軽くパニックを起こしています。

<ロバートさんも、とうきょうにきていたのですね。>

「アセロラドリンク」を浴びせられ、微妙にピンクになったまま、ひよこさんは呟きました。


「ですからぁ、みなさん。女性はみんな、年齢がフタケタを越えると、汚れてしまうのです。ババア、ババアになってしまうのです。そうなる前の、女性が、女性として一番美しい年齢(とき)に、女性にだって、恋に落ちる権利がある。我々ロリコンの権利を認めることは、女性のみなさんの大切な権利を認めることでもあるのです!!」

いつもの角に、メガホンを通して拡声された武くんの演説が響き渡ります。

次々とフラッシュが焚かれ、「史上最年少ロリコン議員候補、立候補!」と書かれたボードを持ったアナウンサーが、テレビカメラに向けて実況を続けているようです。

とりあえずひよこさんを拭いてあげてから、部屋着のままサンダルばきで飛び出してきたサトミさんは、あんぐりと口をあけてその様子を見ていました。

「あ、あの、妹尾くん?なにやってんの、コレ。」

報道陣がとりあえず引き上げたあと、顔をひきつらせながら声をかけてきたサトミさんを、武くんはフンッ、と見下したように一瞥します。

「なんだ、高木。見てわからんのか。選挙活動だ、選挙活動。」

馬鹿にしたように、武くんが言いました。

「選挙活動って、私たち、中学生だよ!?立候補できるわけ、ないじゃん!ていうか、選挙やってないじゃん!」

慌てるサトミさんを見て、やれやれ、と呆れたように武くんは肩をすくめます。

「コレだから、ビッチは。どうせテレビも、イケメン俳優の出る軽薄なトレンディドラマしか観ないのだろう。いいか。本日、臨時国会が開催され、13歳以上に選挙権・被選挙権を認める法案が可決された。その是非を国民に問うとして、衆議院は解散、総選挙が始まったのだ。」

えっ!?そうなの!?とサトミさんは、キョロキョロとあたりを見回しますが、この角に集まった人々のなかに、その言葉を否定する者はありません。

先ほどまでいた報道陣も、武くんの言葉が楽しい妄言でないことを裏づけているように、思えます。

「だからって、そんな…。」

言いかけたサトミさんの言葉を遮るように、武くんが声を上げました。

「これは、天がこの俺のために与えたチャンスだ。俺はこの選挙で、旧習に囚われたまま何も考えようとしない、愚かなこの国の価値観を根底から破壊してみせる。いいか。そうやって、俺を笑っていられるのも今のうちだけだ。この選挙が終わった時には、今まで散々俺を否定してきたお前らこそが。否定され、嘲笑われる対象になるのだ。せいぜい、今のうちに笑っておけ。」

武くんは、フンッ、と荒い鼻息を吐くと、サトミさんに背を向けて行ってしまいます。その、心なしか広くなった背中に、ぴょんぴょんとうさぎさんが続きました。

「妹尾くん…。どうしちゃったんだろ。なんだか今までの妹尾くんじゃ、なくなっちゃったみたい…。」

乙女の直感でしょうか。サトミさんは、武くんの様子になんだか、覚えのある妙な違和感を感じずにはいられませんでした。

それより。世事に疎い女子中学生のサトミさんは気づかなくても仕方ありませんが、ええ、政治や法律に詳しい皆さんは、とっくにお気づきですよね。

仮に、現実に選挙年齢の引き下げが行われるとして。

こんな突然に、それまで話題にも上がらず。いつ開かれたのか定かでもない臨時国会で可決されてしまうなんてことが、議会制民主主義国家の現代日本で本当にあり得るのでしょうか。

まして、その日のうちに衆議院が解散し、その日のうちにもう、総選挙が始まってしまうなんて。

そうですね、あり得ません。まるで、奇跡でも起こったかのような、とんでもなく都合のよい話です。

「あ…、うさぎさん。」

サトミさんが本来の目的を思い出したのは、武くんの背中が視界から消えて、大分経ってからの事でした。



「恋?俺が?恋に、悩むって!」

1時間ほど前。うさぎさんに話しかけられた武くんは、思いのほか、大袈裟な反応を示しました。

「あのな、悩む以前の、問題なんだよ。いいか、うさぎ。この俺が恋をすることはなぁ、この日本の法律が、禁止しているんだ。13歳以下、児童に対する恋愛行動は、例え同意の上であっても、誘拐とか、強姦とか。犯罪として見なされてしまう。おかしいだろ、おかしいと思うだろ!?俺には、自由恋愛の権利が法律で認められていないんだ。日本国憲法は、全ての国民の基本的人権の尊重を定めているんじゃないのか。精神の、思想信条、信仰の自由を、認めているんじゃ、ないのか。この国は、公共の福祉というもっともらしい言葉の下に、尊重されるべき個人の権利を虐げ続けている!!」

おかしなスイッチの入ってしまった武くんは、うさぎさん相手に止まることのない大演説を繰り広げます。

<ほうりつをかえられれば、こいができるんだね。>

うさぎさんが真面目な顔をして言います。なんだかただならぬ雰囲気に、武くんは思わず言葉を止めました。

<スーパーラブチャンス!>


『うさぎ跳ねればタンバリン回る。女神の奇跡、ここに()れ。芽吹け新緑、世界に伸びろ。アーメンゴキゲン、ヒャーウィ☆ゴー!』


第一の御遣いが神器・新緑のタンバリンを振り回すと、大地に次々と若葉が芽吹き、輝く緑が全てを覆い尽くす。


意識を取り戻した時、武くんは既に今までの武くんではなくなっていました。

いつの間にか点いていたテレビが、臨時ニュースを伝えます。

「臨時国会にて選挙年齢大幅引き下げ法案、可決!」

「衆議院、本日解散!」

「本日より総選挙始まる!!」

武くんの目に次々と、必要としている情報が飛び込んできました。



「日本ロリコン党。日本ロリコン党を、お願いします!幼女とロリコンの人権を守る、日本を守る。日本、ロリコン党を、日本ロリコン党をよろしくお願い、いたします!!」

けたたましい声を上げて、選挙カーが走り回ります。数日前、武くんたった一人の街頭演説から始まった日本ロリコン党の活動は、どういうわけか全国から賛同者が次々と現れ。あっという間にこの選挙における一大勢力として、無視できない存在となってしまいました。

一介のロリコン盗撮マニア中学生に過ぎなかった武くんは今や時の人、マスコミの寵児。テレビ・新聞・インターネット、どのメディアでも妹尾武の名前の載らない日はありません。

武くんは常に似たような体型の大勢の党員たちと行動をともにするようになり、おいそれとは近づけなくなっていました。

「(妹尾くん…大丈夫、なのかなぁ…。)」

武くんにいつも同行しているうさぎさん、ひよこさんいわく、御遣いのロバートさんとコンタクトがとれないままなのも、さることながら。

サトミさんは妙な胸騒ぎを感じ、武くんの身を案じるのでした。

そして、ついに迎えた投票日、当日。

日本ロリコン党は全国でまさかの大圧勝、それまで政権を握っていた自由中央党を退け、ぶっちぎりで最大議席を獲得。

即日開かれた臨時国会において、幼女との自由恋愛を認める法案、通称ロリコン法が全会一致で可決されました。

政治や法律に詳しい皆さんは、そんな馬鹿なとお思いになることかと存じますが。

奇跡が起こるというのは、まあ、そういうことなんで、なんて言うか。

諦めてください。


「(やった。ついに、俺はこの日本の法律を、くだらない社会の仕組みを、この手で変えてやったんだ。)」

ピカピカのハイヤーの中で、モーニング姿の武くんは喜びに震えます。

「(見たか、あの、マスコミどもの態度。見たか、あの、観衆どもの、英雄を見るかのような、眼差し。否定され、虐げられてきたこの俺が、今では憧れと羨望の目を皆から、向けられている。世界は、変わったんだ。いいや、違う。世界は、俺が変えてやったんだ。)」

スゥ、と武くんの目から、一筋の涙がこぼれ落ちました。男泣き。男が自分の夢を叶えた時の、熱く、美しい、涙です。

「(これからの俺は、自由だ。もう、美しい幼女の写真を眺めても、美しい幼女を撮影しても、俺を咎める法律は、存在しない。そうだ、恋。恋だって、これからは自由に出来るんだ。この俺が、キモいと、ウザいと、言われ続けた、この俺が、恋。)」

ポッと頬を赤らめた武くんの目に、公園で遊ぶ幼女の姿が映ります。

「停めてくれ。」

武くんは、運転手に声をかけました。

緊張した足取りで、武くんは幼女の乗るぶらんこに向かいます。

「お、お、お、おじょうちゃん。」

震える声で武くんが話しかけます。

「お、お兄ちゃんの、クルマに乗って。オウチ、来ないかい。お菓子、あげるから。」

完全に誘拐ですね。次は頑張ってください。


結局、次々と果敢に繰り返された武くんの生涯初のナンパは、全て失敗に終わりました。

武くんは政治の話、経済の話、法律の話、さらにはお菓子や金品すら匂わせて、持てる話術の全てを用いて幼女の気を惹こうとするのですが。

あるものはつまらなそうに帰ってしまい、あるものは怯えて泣き出し。またあるものは事もあろうに、小太りの男が幼女に声をかける事案が発生!とメールを飛ばします。

この一年の間。

写真の中の、ただ、可愛らしく美しい幼女だけを見続け、自分だけに都合のよい妄想の世界に耽溺してきた武くんにとって、現実の自由恋愛は、必要以上に厳しいものでありました。

疲れ果てて帰宅した武くんは、「しばらく、一人にしてくれ…。」と呟くと、バタリと扉を閉め、自室に閉じこもってしまいました。

暗い部屋のなか、武くんは鏡を見つめます。そこには、しょぼくれた小太りの男が、泣きそうな顔で映っていました。

立派なモーニングが顔の情けなさにまるで不釣り合いで、情けない気持ちにさらに拍車がかかります。

「(俺は…なんだ。)」

鏡の中の自分に向けて、武くんは問いかけました。

「(俺は、国会議員に。それも、最大与党の党首として、当選したんじゃ、なかったのか。いわば、この国で一番の権力者。俺の一存で、明日にだって法律は変わる。そういう存在じゃなかったのか、俺は。)」

ハラハラと、武くんの頬を涙が伝います。

「(法律は、変わったんだ。この国は、俺を否定してきた社会は。この国のみんなが俺を正しいと認め、賛同したんだ。俺はもう、間違った存在なんかじゃない。法で認められた権利のもとに、当たり前の行動をとっているだけにすぎない。)」

「なのに、なんで。」

武くんの口から、ついに声となって、言葉が発せられました。

「なんで、俺は誰にも受け入れてもらえない。なんで、誰も愛してもらえないんだよぉ!!」

わあっ、と叫び声を上げて、武くんは鏡を叩き割りました。砕けた破片とともに、ポタ、ポタ、と武くんの拳から、真っ赤な血が流れ落ちます。

その血が、偶然か、必然か。

互い違いの三角を描き、重なり、六芒星となって…。

<りゃくしきだが、ぎしきをおこなったな。きてやったぞ。>

暗い部屋の隅に、(ゴウッ)と黒い焔の竜巻が巻き起こり。

その中から、地獄の闇のように真っ黒なひよこさんが姿を現しました。



5.


明朝。

武くんの家の前に、見慣れない、暗闇のように真っ黒なリムジンが停まりました。

「ハー!ボス、オムカエニアガリマスタ、ハー!」

明らかに日本人ではない変な運転手が、変な日本語で喋ります。変な運転手です。

いつものハイヤーではないリムジンに迷いなく乗ってしまう武くんを、うさぎさんは不思議に思いました。もちろん、運転手もいつもの人ではありません。

<たけしくん、クルマがちがうよ。>

うさぎさんは親切心で武くんに教えて上げましたが。

「うるせえんだよぉ。俺のやることに口出しすんな、使えないクソうさぎが。」

かわいそうに。突然酷い言葉で罵られた上に、すごい形相で睨み付けられ。びっくりして、震えてしまいます。

いったい、うさぎさんがなにをしたというのでしょう、か。

<なにを、まようことがある。>

武くんの頭のなかでグルグルと、昨夜の黒いひよこさんの言葉が木霊のように響き続けています。

<ようは、ヤりたいんだろ。ヤっちまえよ。それをきんしするほうりつなんて、もうどこにもないんだぜ。>

「ヤっちまえ。ヤっちまえ。」

武くんは、うわごとのようにぶつぶつと、呟き続けています。

<くだらないりんりかんなんか、すてちまえ。おまえはだれだ?ぎいんサマだ、センセイだぞ。くだらない、しょみんどもとはもうちがうんだ。えんりょするな、ヤっちまえ。>

「ヤれ。」

いつもの角に差し掛かった黒いリムジンは、突然、通学中の児童の列に突っ込みました。

悲鳴が、甲高いブレーキ音が、爽やかな五月の朝の空気を引き裂きます。

幸い、跳ねられたり、轢かれたりした児童はいなかったようですが。

道路のそこかしこには、児童が、そのお母さんたちが、倒れ伏して、さながら地獄絵図と化しています。

「ヤだー!ヤだー!」

突然、女の子の鳴き声が上がりました。

なんということでしょう。武くんが、無理やりに女の子の手を引いて、リムジンに引き込もうとしているのです。

「お願い!その子、返して!!」

必死ですがりつく女の子のお母さんを、容赦なく武くんが蹴り倒しました。

ああ、これが。本当にあの、優しく妹の面倒をみていた武くんなのでしょうか。言動にちょっと問題があるとはいえ、体型とは逆に、ピュアで繊細なハートの持ち主だった、あの武くんなのでしょうか。

まるで、悪魔と契約でもしてしまったかのように、人が変わってしまっています。

<たけしくん、たけしくん、そんなひどいことを、したらだめだよ。>

うさぎさんが武くんを咎めますが。

武くんはうさぎさんの耳を掴んで吊り上げると、「お前は、用済みだ。」と吐き捨て、うさぎさんを窓から放り投げました。

うさぎさんは<きゅう。>といって、ノビてしまいます。

女の子を乗せたリムジンは、無慈悲にもブリブリブリと爆音を立て、走り去ってしまいました。


学校へ向かうサトミさんたちは、いつもの角にパトカーが停まり、人が集まっているところに出くわします。お母さんが泣きながら、半狂乱になって、娘が!娘が!とおまわりさんに訴え

重苦しい雰囲気があたりを包んでいます。

「事故…?」

思わず、サトミさんたちも足を止めますが。

その片隅、道路の脇に、うさぎさんが<きゅう。>といってノビているのを見つけ、慌てて駆け寄ります。

「妹尾くんのうさぎさん!?大丈夫!?何があったの!?」

サトミさんが、うさぎさんを揺り起こします。

傍らには、膝を擦りむいて泣いている子供がいます。

「ひどい…。」

幸恵さんが、あたりの惨状に眉をしかめました。

<ロバートさん、ロバートさん。>

ひよこさんにつつかれて、うさぎさんがようやく、目を覚まします。

<おや、ピヨコットくん。ひさしぶりですね。おやすみなさい。>

ふたたび、<きゅう。>と言ってノビてしまったうさぎさんの額に、ひよこさんのくちばしが突き刺さりました。

こっちのひよこさんも、案外容赦のないところがあるようです。

<たけしくんが、おんなのこをつれていって、しまいました。なんだか、すごくひどいことをしてしまいそうなんです。すいませんが、とめてあげてください。>

うさぎさんはそれだけ言うと、また、<きゅう。>と倒れてしまいます。

サトミさんと幸恵さんは顔を見合せ、頷きあうと、疾風のように駆け出しました。


新築されたばかりのロリコン党本部の前に、黒いリムジンが停まります。

見慣れない黒いリムジンに、なんだ、なんだと集まってきた小太りの党員たちは、中から出てきた武くんが泣き叫ぶ幼女を連れているのを見て、一様に驚きの表情を浮かべました。

「あの。妹尾さん、それは、その。いくらなんでも、ちょっと…。」

ヘラヘラと愛想笑いを浮かべつつ、小太りの党員たちは口々に、武くんを止めようとしますが。

「なんだ。俺のやることに文句があるのか?」

凄みのある武くんの一言に、腰を抜かして失禁し、震えながらへたりこんでしまいます。

「ハー!ボスハコレカラ、オタノシミネ。ハー!オマエタチ、ジャマスタラ、ブッコロスヨ。」

変な運転手が、バムッと音を立て、党本部の扉を閉めました。

一瞬遅れて、ガチャリと鍵の、かかる音。さらに一瞬遅れて、けたたましい、女の子の悲鳴。

ああ、かわいそうな女の子は。このまま、悪魔と化した武くんに、ここにはとても書けないような、取り返しのつかない酷い事をされてしまうのでしょう、か。

「そうは乙女が、許さない!!」

瞬間。疾風のように、2つの流星。

バコーンと音を立てて、ロリコン党本部の重い樫の扉が、蹴り壊されます。

颯爽と現れる、可憐な二人の乙女。

うしろから、とことこと、ひよこさん。

ご存知ですね。胸のない高木里美さんと、胸のある梶田幸恵さん。それに天の世界から来た12の御遣いの1人、ピヨコットさんです。

「く、クソビッチーズ!?何しに来やがった!!」

知人に気マズいところを見られた武くんは、いささか狼狽を隠せないでいます。

「私たちは、おぼこだよっ!!」

「おぼこ、おぼこー。」

勝手に失礼なチーム名をつけられてムッとした二人は、とんでもないことを主張しますが。

「うるせえ!マルゲリーさん、ヤっちゃってください!」

武くんは、変な運転手に命令を飛ばします。

「ハー!ボスハ、ハナシノワカルオカタネ!ハー!ヤクトク、ヤクトク!オンナノコタチノカミノケヲ、オモウゾンブンヒッパッテアゲマース!」

変な運転手は、変な日本語で変な性癖を主張します。変な運転手です。

「ナポリから来た元相撲レスラーの、ピッツァマルゲリーさんだ!いくらお前らでも、元プロには敵わないだろ!!」

武くんが勝ち誇ったように言い放ちました。

変な運転手は、自信たっぷりに、じり、じり、と間合いを詰めます。さすがのサトミさんも、貞操の危機を感じて思わず身構えました。

そこへ、ひよこさんが。とことことこと歩いてきます。

ふつうに変な運転手に近づくと、首を大きく後ろに振り、ぼす、と頭突きをしました。

<いぬパンチ。>

頭突きです。

変な運転手は切り揉み回転をしながら吹き飛ばされ、壁にぶち当たると、ぽきぽきぽきぽきと音を立てながら、小さく畳まれていきました。

「ピヨコットちゃん、強いんだねぇ…。」

サトミさんは、呆気にとられて眺めています。

<いぬじろうさんに、おそわりました。>

ひよこさんは、なんでもないことのように言いました。

「(また、いぬじろうさん出てきたー。)」

幸恵さんはペッちゃんこになった変な運転手をさりげなく窓から投げ捨てながら、思いました。


武くんもまた、相次ぐ異常事態に状況把握が追い付かず、呆然としていましたが。「(人質!)」そう思いついた時には既に一瞬遅く、女の子はダッと駆け出し、サトミさんたちの方へ行ってしまいました。

「おねえちゃあん!おねえちゃあん!」

女の子はとても怖い思いをしたのでしょう。

見ず知らずのサトミさんに抱きついて、わあわあと泣き続けています。

その様子をじっと見ていた武くんが、喚くように叫び始めました。

「なんでだよぅ!!なんで、どいつも、こいつも!!俺は、国会議員だぞ!!金だって、権力だって、誰よりもあるんだ!法律だって、変えられる。なのになんで!なんで、みんな、俺を選んでくれないんだよぅ!!なんで、その子は、俺よりお前らの方がいいんだよ!!なんでなんだよ!!」

武くんは、なんで、なんでと繰り返し、子供のように泣きじゃくります。

「妹尾くん。いつか、あなたが言っていたこと。間違ってない。小さな女の子にだって、恋する相手を選ぶ権利が、ある。あなたを選ばない自由だって、ある。それを奪う事は、あなたにだって、法律にだって、絶対に許されない。」

サトミさんは、ひとつひとつ言葉を選びながら、武くんを諭すように、言います。

「法律ぅ!?そうだ、法律だよ!法律は、変わったんだ!俺は、法律で認められたんだ!そうだろ!?」

武くんは、すがるように言葉を投げ掛けました。

「法律が変わったからって。妹尾くんは、何も変わっていない。妹尾くんは、自分が大好きだと思っている対象のことを、なにもわかっていない。わかろうとすら、していない。たとえ法律で権利が認められたからって。それだけでは、何も手に入らない。あなたが努力して、あなたが変わらなきゃ。望むものは、手に入らないよ。」

言葉は厳しいですが。サトミさんの顔は、どこか寂しそうに見えます。自分の経験の中にも、思い当たることがあるのでしょう。

「そうやって。結局お前は、俺を否定してばかりじゃないか!俺が、デブだから嫌いなんだろう!俺が、ロリコンだから。俺が、シスコンだから。俺が、月刊スイートさくらんぼ写真館買ってるから、キモいと思ってるんだろ!俺が!俺が!」

泣きながら俺が、俺がと叫び続ける武くんの手を、サトミさんがそっとにぎり、胸に抱き寄せました。暖かく、柔らかい感触が武くんの掌に伝わり、思わず武くんは言葉を止め、サトミさんを見つめます。

「妹尾くん、わかって。女の子が男の人の愛情を受け入れるためには、成長しなきゃいけないの。可愛い、小さな女の子が成長するのは、汚れることじゃない。とても大切で、とても嬉しいことなんだよ。妹尾くんが本当に小さい女の子が好きなら、大切に思っているなら。もっと、相手のことをわかってあげて。もっと、大切に見守ってあげて。お願い。」

サトミさんと目があった瞬間、武くんの身体にはまるで稲妻が落ちたような、体験したことにない衝撃が走りました。

パクパクパクと声にならない言葉を発しながら、武くんは必死で心に浮かんだ言葉を口に出します。

「けっ、けっ…。」

結婚して、ください。そう言おうとして思わず力んだ武くんは、無意識のうちにサトミさんの胸に置いたままの右手に力を込めてしまいました。

「死ねぇっ!!変態っ!!!」

サトミさんの渾身の左フックが右の頬に、幸恵さんの十二分に助走をつけた右ストレートが左の頬に、まったく同時に突き刺さり、武くんは意識を失いました。



6.


「あれ。ピヨコットちゃん、なんかこれ、目盛り、動いちゃってるよ?」

女の子をお母さんのところへ送り届け、どうにか家に帰ってきたサトミさんは、『ときめきラブコンテナ』の微妙な変化を見つけ、ひよこさんに問いかけます。

部屋の隅に放置されていた『ときめきラブコンテナ』は、いつの間にか、その中央にあるダイヤル状の目盛りが動き。「0」から、「1」に変わっていました。

<ときめきラブパワーが、貯まりました。>

ひよこさんは、簡潔に説明します。

<たけしさんが、うつくしいあいにめざめてくれた、ようですね。>

「(えぇー?あれで!?)」

サトミさんは、なんだか納得のいかないものを感じました。

お年頃の男の子の心は、サトミさんが思っているより、ずっとずっと、複雑なんですよ。ね?武くん。



「エッチ1秒!恥のもと!イエスはロリコン、タッチはノー!!」

翌朝。学校へ行く道すがら、例によっていつもの角に差し掛かったサトミさんたちは。

揃いのだんだら模様の羽織を着て、「幼女見守り隊」と書かれたのぼりを掲げた、武くんたちロリコン党員が、よくわからないキャッチフレーズを唱えながら拍子木を打ち鳴らし、隊列を組んで歩いているのに出会いました。

ひきつった顔で立ち尽くしているサトミさんを見つけると、嬉しそうに武くんが、駆け寄って来ます。

「高木!俺は、改心したぞぅ!!これからは、幼女を大切に、見守っていく!見守るだけなら、いいんだよな!な!そうだろ!!」

その表情からは暗い陰が消えて。瞳はきらきらと、希望に満ち溢れています。

「(ちょっと、本気で殴りすぎちゃったかなぁ…)」

サトミさんの脳裏を、二人の乙女の鉄拳にサンドイッチされペッちゃんこに潰れた武くんの顔が横切ります。

「(ま、いっかぁ。私もおっぱい揉まれたし。おあいこ、ってことで。)」

サトミさんは、なんとなく納得することにしました。

<たけしくんは、すっかりあかるくなったね。>

うさぎさんが、嬉しそうに武くんの背中を見つめています。

<ぼくのやくめは、どうやらおわったみたいだ。ぼくはもう、かえるけど。ピヨコットくんは、がんばってね。>

うさぎさんはぴょーんと大きく跳ねて、雲を越え、星を越え。あっという間に見えなくなってしまいました。ひよこさんが、パタパタと羽を振って、見送ります。

「ハー!ロリーィヨージン!ハー!ハー!」

ひときわ大きな声が響き、チョーンと拍子木が鳴ります。

なんと、あの変な運転手。ちゃっかり復活して、「幼女見守り隊」に合流しているではないですか。

「(本当に大丈夫なのかな、アレは)」

サトミさんは、ちょっと不安になるのでした。


政府第一与党の議員が突然、全員辞職し、政界を引退した上に、よくわからないパトロール活動を始めてしまったため。しばらくの間、日本の政界は大混乱に陥りましたが。

なし崩し的に前政権の自由中央党がいつの間にか第一与党の座を取り返し、なんとなく元通りになったので、日本の皆さんは、ま、いっかぁ。と思いました。

ロリコン法案は可決されてしまいましたが、世間の皆さまはなんとなく、旧来の価値観と倫理観に基づいて、行動し、さして大きな混乱もなく。

一世を風靡した日本ロリコン党は、ま、いっかぁ。と、次第に人々から、忘れられていきます。

たとえ社会がひっくり返るような大変革が訪れても、なんとなく、ま、いっかぁ。と納得できるのんきさが、この日本の国の一番良いところです。

「お兄ちゃん!お願いだから!もう、近所で変なことするの、やめてよ!!ていうか学校行けー!!」

「ハッハッハ!愛花はもう十一歳だから、お兄ちゃん、ギリアウトで見守ってあげないぞぅ!強く生きろよ、ハッハッハ!!」

武くんと愛花さんの兄妹も、よくわからないうちになんとなく、仲直りできたようですね。ま、いいんじゃ、ないですか、ね。



「ダークパワーの供給。止まっちゃったみたいだね。」

<ああ、みつかいども。あんのじょう、あの53まんおんなとせっしょくしてやがった。>

黒いひよこさんが、忌々しそうに呟きます。

<みつかいどもが、あのデブのダークパワーをじょうかして。ときめきラブパワーにかえちまったんだ。>

「ふぅん。みつかい…?御遣い、か。つまり彼らは、僕らと同じパイを食い合う、仇同士、ってところかな。」

<ふん。>

黒いひよこさんが、鼻で笑います。

<おまえはあたまがいいから。はなしのとおりが、はやくてたすかる。>

黒いひよこさんは、例の「53まんおんな」とのやりとりを思いだし、ウンザリした顔を浮かべました。

「(御遣い…。あの子が連れてた、ひよこさんか。)」

黒いひよこさんの隣で、イケメンな方が考えます。

「ウザいな。早めに消してしまおう。」

イケメンな方、新帝圭二さんは、その整った顔に冷たい微笑みを浮かべ、黒いひよこさんに語りかけました。













































次回、予告。


「(高木さん…。かわいかった、なあ。)」


主人公/有荘柘雲


<あのまちに、せっしゃをもとめるもののよぶこえが、きこえるでござる。>


御遣い/虎・ホワイトタイガー


次回、第3話☆独占愛~confinementing purince~


「くそ!割れろ!割れろよ!割れてくれよぉ!」


coming☆soon!




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