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それから。


終電間近の、夜の駅前。ここさいたまの小さな町でも、駅前の空間はさすがに、申し訳程度には開けており。コンビニ、牛丼屋、ドラッグストアー。お決まりの店舗が建ち並ぶ道を、駅から帰る人、駅へ向かう人が足早に行き交います。

忙しい人、楽しい人、嬉しい人、疲れている人。顔に浮かべた表情は、人、様々で。互いに関わる事なく、知り合う事もなく。すれ違い、別れて歩んでいきます。

そんな駅前の、一角。小さな居酒屋のオープン席で、二人の女性が祝杯の中ジョッキを合わせます。お洒落なバーでも、隠れた名店でもない、ごくありふれた、全国チェーンの安居酒屋。向かい合う二人の女性は二人とも、少々、いいお年ではあるようですが。そんな店にはどうもそぐわない、男性ならばハッ、と立ち止まってしまうような美女であります。

「アンタさあ。たしか、アイドルやってるって言ってなかったか?いいのかよ、いつもアホみてーに飲んでるけど。」

二人の美女のうち、派手な服装の方の女性が口を開きます。オレンジの髪に、胸元の大きく開いた服。豊満な胸が、嫌でも目立ちます。

「ウルセー。糖質が怖くて、アイドルが勤まるかよっ!」

カッカッカッカッカ!と笑ってみせる、こちらの美女は。服装こそ地味なジャージ姿ですが、長く艶のある黒髪が美しく流れ、その台詞とは裏腹の、均整のとれた肉体。無頓着な服装はむしろ、その美しさを際立たせているようにさえ見えます。

二人の美女は先日、この町で繰り広げられていた最終戦争(ファイナル・ウォーズ)、その最後の局面に居合わせ。なんとなく意気投合してしまい、その後は良き飲み友達として、このように既に2桁めとなる「祝勝会」を、日々、楽しんでいるのでした。

「あんたこそ、いいのかい。私とばっか飲んでるけど。たまにはあの、年下彼氏も誘ってやりなよ?」

ジャージの美女がからかうように言います。

「ばぁか。アイツ、中学生だぞ?」

派手な美女は呆れたように言います。

「それにな。アイツ、ああ見えて、真面目クンだから。『中学生に酒を勧めんな』とかなんとか言って、誘ったところで来やしねーよ。」

アメリカ人のように肩をすくめる、派手な美女。

「へー。最近の中学生は、真面目だねぇ。私がそんくらいの頃には、六本木のクラブで毎晩飲んで、外人相手に暴れてたけどな?」

ジャージの美女はさらっと、とんでもない事を言います。

「おいおい、校長の娘、校長の娘!お父様の教育者としての資質に問題があるぞソレは!!やめとけ、やめとけ!!」

「うるせえ、ソレを言うなっつーの!同中(おなちゅう)の大先輩がよ!」

「あ?アンタだって今年で30だろ!言っとくが、三十路の時間経過は速えーぞ?」

「アリスちゃんまだ20代ですぅー。オバさんこわーい!キュピッ☆」

「あぁ!?」

「あぁ!?」

二人の美女の夜は、今夜もまだまだ続くようです。



深夜。薄暗い1人の部屋で、ぼうっと光るパソコンの画面を前に、眼鏡の少年がカチカチと、キーボードを叩いています。

「(お。アクセス数、けっこう伸びてるな。いいぞ、いいぞ。)」

眼鏡の少年は犬やうさぎや、ネコや、ロボット。色とりどりのかわいらしい人形たちが楽しく戯れる画面を、満足げに眺めます。

眼鏡の少年のクラスメートの、人形好きの友人。その彼の作品を集めた、ホームページ。パソコンが苦手な友人のために、眼鏡の少年が作成したページです。

友人の独特の世界観、個性的なセンスは「インターネット」でも既に一部の好事家たちから注目を集めており、日々更新されていくホームページは、好調に閲覧者数を伸ばしています。

眼鏡の少年は友人と、そして自分の共同作品を、しばらく誇らしげに眺めていましたが。

「今日は、このくらいにしておくかな。」

本日の「仕事」を終えて、パソコンのページをそっと閉じます。

眼鏡の少年と人形好きの友人にはその後、「さりげなくイケメンの人形アーティスト」として友人がブレイクした際に若干、ギクシャクした関係になる未来が用意されているのですが、まあ。人生には、いろいろな事が起こるのです。頑張って乗り越えてください。

眼鏡の少年はカチカチとマウスを動かし、眠る前のいつもの習慣。「インターネット」のニュースサイトをチェックしていきますが、その見出しのひとつ。「財務法人『イエスの楽園』、経営破たん」の文字を見つけ、「うわぁ…。」と微妙な声を上げます。

『動物の保護を世界に訴える活動家、慈恵(じえ)イエス氏の経営する財務法人、『イエスの楽園』が経営破綻したことが本日14時、判明した。同氏は市の援助を受け、当年1月に財務法人、『イエスの楽園』を発足、動物保護施設を経営していたが、施設の拡大を繰り返していたため管理費用がかさみ、この度の事態に陥ったという。現在、氏は施設からの退去を求める市役所と係争中であり、近隣住人は事の推移を緊張の目で見守っている。なお当局は、施設発足に際し市の側からイエス氏へ不透明な資金の流れがあったとみて、捜査をつづけている。』

『市の重役、ピッツァマルゲリー氏のコメント。「ハーウルセエバカ、ハー!」』

眼鏡の夜はこうして更けていきます。



朝。通学中の小学生たちを、だんだら羽織の小太りの一団が、見守っています。その背中には、「幼女命」の揃いの文字。その隣になんと、「さいたま県警公認」の一文が添えられています。

彼らは先日、町を襲った『台風』に際し、町の幼女たちを手早く「保護」した活躍?が認められ。リーダーが元国会議員ということもあり、「市の重役」の強い勧めで警察と提携。晴れてこうして幼女を見守る事を、公式に認められたのでした。

その、「幼女見守り隊」の、詰所。革貼りの椅子に大きな身体をどっかとあずけた小太りのリーダーの前に、変な隊員たちが幼女の近くをうろついていた「怪しい者」たちを捕らえ、連行してきます。

「ハーボス!コノモノハ、オンナノコノセイフクオキテ、アルイテイマスタ!!」

変な隊員が、女子中学生の制服を着た明らかな変態を突き出します。

「非合理的だ!これは不当逮捕だ、今すぐ解放しろ!官権横暴!!官権横暴!!」

制服の変態は、無駄によく通る声で叫びます。

「ハーボス!コノモノハ、オンナノコオストーキング、シテイマスタ!!」

変な隊員が、カラテ着の角刈りを突き出します。

「神聖な須藤家(すとうか)の修行を邪魔するなッス!!自分は将来、須藤王(すとうきんぐ)になる男ッスよ!?」

カラテ着の角刈りも、無駄によく通る声で叫びます。

「ハーボス!コノモノハカオガブキミデスタ!!」

変な隊員が、ぬーんとした不気味な顔の少年を突き出します。

「うるせえよ、ほっとけ。」

不気味な顔の少年は、ぼそっと呟きます。

小太りのリーダーは、「(やれやれ、またかよ?)」とため息をつきつつ。

「あー。全員死刑でいいんじゃね?」

と、テキトーに指示を出します。

「おぃぃい!?」

逮捕された変態(おとこ)たちが一斉に、バラエティー番組の若手芸人のような反応を示しました。



正午。町の工事現場では、今日も職人の皆さんが。先日町を襲った『台風』被害の、復旧作業に汗を流しています。

「おーい!いぬじろうちゃん、そろそろメシにするべぃ!」

親方さんが手を振り、いぬさんを呼びます。

「ひよこさんも、うさぎさんも、メシにするべぃ!」

親方さんは少し離れたところで作業している、ひよこさんたちにも声をかけます。ひよこさんが頭に乗せた鉄骨の山をドッカと地面に下ろし、とことこと歩いてきました。

「ひよこちゃんは、すっげえなあ!フォークリフトだって敵わないぜ!」

若い衆が缶コーヒーのプルタップを開け、ひよこさんに渡してあげます。

<いつもすみません。>

ひよこさんはくちばしで、器用に缶コーヒーをつつきます。

先日の『台風』で甚大な被害を受けた、町の中学校付近は。その後、市の委託業者による復旧作業がすぐに始まっていましたが。どこからともなく手伝いにやってきた、犬や、ひよこや、ハムスターたちが協力しているため、予定を遥かに上回る進捗率で作業はかなり順調に進行しています。

「おーい!いぬじろうちゃん、彼女きてるぞー!!」

若い衆の一人が、いぬさんを呼びます。その隣には、昼休みに学校を抜け出してきた、清楚な美少女。大きく膨らんだ胸に手作りのお弁当を抱え、嬉しそうに微笑んでいます。

「ヒュー。いぬじろうちゃん、いいなあ!」

「俺も中学生の彼女、欲しー!」

若い衆が口々に、いぬさんをからかいます。いぬさんは恥ずかしそうに、プイとそっぽを向いてしまいます。

そんな若い衆たちを見ながら、おにぎりを頬張り目を細める、親方。

「(徳太郎さん。あんたと始めたこの工務店も、若い奴らがちゃんと育ってますぜ。この町の事は、任せて下せぇ。)」

親方の見上げる青空に、親切なおじいさん笑顔が浮かんだ気がしました。



夕方。学校を終えた可憐な美少女が、いつもの角へと急ぎます。その脚は相変わらずパワフルで。少しだけ大きくなった胸を懸命に揺らし、逸る気持ちのままに駆けていきます。

いつもの角の反対からは、イケメンな方が。思案顔でゆっくりと、歩いてきます。一回り大きくなった身体を高校生の制服に包み、自らを偽る事から解放された彼は、どことなく以前に持っていた険がなくなり、表情が明るくなったように見えます。

さあ、皆さんはこの状況。どんな危険を予測しますか?

ここから先は、天使も悪魔も、魔法も奇跡も出てこない、普通の二人の、普通のお話。二人のその後は、いつかまた。機会のある時に、お話しましょう。

春の4月は、恋の季節。新たな出会いに、恋の予感。

なんだかふわふわ、うれしくなって。駆け出したくなる、そんな頃。

いつもの角に、何かが電柱に刺さる聞き慣れた衝撃音が響き。4月の青空へと、吸い込まれていきました。














そして。


雲の果て、星空のかなた。

天の世界のお美しい女神さまは、今日もお美しくあらせられます。おまけにセクシーで、ボインであらせられます。

女神さまは午後のお散歩をなさられる途中、お庭の水鏡で地上の様子をお眺めになり。ふうっ、と、せつないため息をおつきになられます。

地上の人々は相変わらず、争い、奪い合い、憎しみあって。環境破壊は止まらないし、物価は赤マル急上昇。俺の借金も減りません。

天の世界のはずれ、大臣の官邸では。気まずい顔の二人が、1年ぶりに直接、顔をあわせていました。

<おい。なんでテメーがまだ、フツーにだいじん、やってるんだよ。>

また、天の世界の大臣をそそのかして悪さをしてやろうと官邸を訪れた闇の悪魔が、バッタリ顔を合わせた風呂あがりのはだか大臣に毒付きます。

<う、うるさい。貴様こそ、なんで普通に生きておるのだ。>

例によってはだかの大臣は、慌ててネクタイを結びつつ招かれざる来客へ、言い返します。

はだか大臣は件の最終戦争(ファイナル・ウォーズ)の後、「いろいろとやらかしてくれた」罪を問われ、当然のごとく大臣を罷免されてしまったのですが。その後行われた大臣選挙において、天の世界のテキトーな住人たちがテキトーに「だいじん」と書いて投票してしまったため、結局、大臣の座に奇跡的に返り咲いていたのでした。

<まったく。物理的に完全消滅したはずではなかったのか?貴様。>

大臣はうんざりした様子で、ぐちぐちと文句を言います。しかも、はだかです。

<あー、まあ。ソコなんですけどね?>

闇の悪魔は、「その時」の事を、頭に思い浮かべます。

最終戦争(ファイナル・ウォーズ)の決着となった、あの日。ファイ!!ナル!!いぬパンチ!!のインパクトの瞬間。光と衝撃に包み込まれる寸前だった闇の悪魔を、「何者かが」護るように、大切に抱きしめてくれた。その記憶が感触としてしっかりと、彼の頭には残っています。

<(ま。そんなことくらいでぶつりてきに、あのしょうげきからすくわれたワケが、ないんですけど。)>

クックと笑う、闇の悪魔。怪訝な顔で見つめる、はだか大臣。

<大臣、ねぇ、大臣。>

そんな二人の間を割るように、女神さまのお声が響き渡りあそばされありがたきしあわせ。

<はいッ!はいッ!た、ただいま向かいます!!>

大慌てではだかで駆けてく、ゆかいなはだか大臣。その背中を見送り、闇の悪魔は。

<(ま、いちおうかんしゃはしとくぜ、圭二(あいぼう)。)>

(ゴウ)ッ、と巻き起こる禍々しい黒い焔の竜巻の中へ、ひとり静かに消えていきました。



地上はいつでも、恋の季節。我々人類はこの地上に生まれた日から、誰かと出会い、別れ、争い、慈しみ、憎みあい、愛しあい。なんでもない1日1日を、なんでもなく繰り返してきました。そんな1日1日は、やがてはかけがえのない日々となり。泣いたり笑ったり、たまに気まぐれで滅ぼされたりしながら。地上の人類はこれからも、その繰り返しを積み重ねていくことでしょう。

このお話は、そんな長い、長い、人類の歴史のなかの。

たった1年間の、お話です。





Never,never be ended & Ever,ever be continued.


See you the NEXT WARS!























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