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恋の地上で、ファイナル☆ウォーズ  作者: ナルサワパン
§ 最終章 § 13/12話 ☆ 純愛 ~Yes, fallin'love~
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ファイナルの0.


「圭二くん!!しっかりしてよ!圭二くん!!」

崩壊した中学校の校舎、その瓦礫の山の前で。可憐な女子中学生、高木里美(たかぎさとみ)さんの、悲痛に泣き叫ぶ声が響きます。サトミさんは本当なら、今すぐにでも憧れのイケメン、新帝圭二(しんていけいじ)さんの肩を掴み、ガクガクと揺さぶりたい事でしょう。しかし。意識を取り戻さない圭二さんが、おそらくは非常に危険な状態にあること。その事実が、サトミさんの理性をギリギリところで繋ぎ止め、その脚を前に進ませません。

「…脈拍、呼吸、体温、すべて正常だ。瞳孔反射も問題ない。命に別状はないだろう。しかし。」

校庭の砂利の上に横たわったまま起き上がらない圭二さんの状態を確認し、手早い応急措置を施していた瀬古(せこ)無一郎(むいちろう)が。難しい顔をサトミさんに向けます。

「…意識が戻らない以上、目立った外傷がないとはいえ、脳になんらかのダメージを受けている可能性が高い。素人(ぼくら)が勝手な判断で動かすのは危険だな。あとは救急隊に任せた方がいいだろう。救急車の手配は済ませた。今は、到着を待とう。」

泣きじゃくるサトミさんをなだめるように、やさしく肩に手を置く瀬古、無一郎。なんでしょうか、この瀬古、無一郎は。彼は時折、思い出したように突然、このような有能さを見せる事があります。

「…なあ、高木くん。これはまあ、ぼくのただの個人的な見解であって。医療的な根拠もなにもない、この上なく非常に非合理的な意見なのだが…。」

瀬古、無一郎が。なにやら言い辛そうに、語りかけます。サトミさんは不思議そうに、涙に濡れた瞳を上げます。

「…そこの彼が目を覚まさないのは、肉体的な原因ではなく、なんというか、こう。もっと、精神的なところに原因があるというか…。その、なんだ。こういう時、試してみるべき価値のある方法がひとつ、あるんじゃないだろうか…?と、ぼくは、その。思うわけだが。」

珍しくキレが悪く、なかなか要点をはっきりと言わない瀬古、無一郎。怪訝な顔をするサトミさんに次に語りかけたのは、さりげなくイケメンのクラスメート。清水臆人(しみずおくと)くんでした。

「…お姫様の、キスだね。」

照れる素振りも見せずに、清水くんは真面目な顔で言います。逆にサトミさんの顔が、ボン!と音を立てて一瞬で真っ赤に染まります。

「ちょ!?やだ、清水くん!一体何を言い出すの!?こんな時にいきなりからかわないでよ!絶対違いますよね、ねえ、瀬古さん!?」

サトミさんはおろおろ狼狽えながら、目の前の瀬古、無一郎に話を振ってみますが。意外なことに瀬古、無一郎は真面目な顔で、じっ、とサトミさんを見つめているだけです。気まずくなったサトミさんは後ろに控える残りの変態どもの方へ視線を投げてみますが。彼らも同様に、真面目な顔で頷くのみです。

「どうやら。皆、同じ意見のようだよ。」

慈恵(じえ)イエスが、どこかとぼけた声を出しました。その隣では不気味ボーイ、椎枝末広(しいえすえひろ)くんが、ぬーん、と突っ立っています。

いよいよ困ったサトミさんは、今度は女性陣の様子を伺います。

井ノ上綾子(いのうえあやこ)さん、六道(りくどう)アリスさん。そこそこよいお年の美女二人は、うぶな女子中学生が困っているその様子を、ニヤニヤと笑いながら実に楽しそうに観察しています。

「幸恵ちゃん…。」

泣きそうな顔のサトミさんに助けを求められた親友、清楚な美少女、梶田幸恵(かじたゆきえ)さんは。ニッコリ微笑むと、親指を下げるジェスチャーで「殺(GO)れ!」と指示を出します。

もう!!と地団駄を踏む、サトミさん。自分をじっと見つめている視線に気づき、振り返ると。いつものようにひよこさんが、足元から自分を見上げていました。

「…やれば、いいんでしょ!!」

遂に、サトミさんが折れました。サトミさんは半ばヤケで、圭二さんへとずかずか、大股で近づいていきます。

静かに目を閉じたままの、圭二さん。その端正な顔を覗き込み。サトミさんは、ゴクリと唾を飲み込みます。

ゆっくりと顔を近づけて、弾かれたように慌てて離して。やっぱり無理!とぶるぶる首を横に振り、圭二さんの顔をじっと見下ろすサトミさん。やおら、シャアッ!と奇声をあげると、自分の両頬をパン!パン!と叩き、いよいよその意を決します。

少しずつ近づいていく、二人の顔。サトミさんの唇が圭二さんの唇に触れようとした、まさにその時。圭二さんの身体が突然、バネ仕掛けのオモチャのように、ビヨーン!と跳ね起きました。二人のおでこの骨がぶつかり合う、ゴッ、というリアルな衝撃音が響きます。

予想外の反撃で完全なカウンターをもらい、声すらあげられず頭を押さえてブルブルと(うずくま)っている、サトミさん。あんまりです。いたたまれません。いたたまれません、が。

その頭の上に、スッ、と圭二さんの腕が伸び。やさしく、ポン、とその手が置かれます。

「…頭。大丈夫?」

不思議そうな顔の圭二さんが、サトミさんに声をかけました。

「圭二…くん?」

サトミさんは呆然とした顔で、当たり前のように起き上がっている圭二さんを見上げていましたが。状況が把握出来ると、「圭二くん!!圭二くん!!良かったあ!圭二くん!!」と叫びながら。火のついたように、ワーッと泣き出します。

自分の前で(うずくま)って大泣きしているサトミさんを見下ろしながら、圭二さんは。自然とゆっくり腰を落とし、サトミさんと同じ高さに視線を合わせます。

「(ええと、なんだっけ?僕。この子に何かしろって、確か、そう、さっき、誰かに言われたような…?)」

圭二さんはサトミさんを見つめながら、懸命に思い出そうと試みますが。

恋の女神さまの、ちょっとした、いたずら。

圭二さんの唇がその意思とは関わりなくパクパクと動き、とある言葉を口にします。


「けっ、こん、して、ください。」


「(えっ…!?い、今、私、なんて言われたの!?)」

「(えっ…!?い、今、僕、何を言ったんだ!?)」

信じられないといった顔で、互いを見つめ合う、二人。

「ちっくしょぉぉおおおおおお!!」

引き裂くような太い叫びを上げたのは、小太りの妹尾武(せのおたけし)くんです。

「やったな!遂にやりやがったな!高木ぃ!!」

サトミさんの背中を大きな手でバンバンとはたく、武くん。その後ろでは武くんの大きな背中に隠れるようにして、眼鏡のクラスメート。有荘柘雲(ありそうつくも)くんが、男泣きに肩を震わせています。

目を閉じ、満足そうな微笑みを浮かべた幸恵さんが。パン、パン、と両手を叩いて、二人を祝福します。次いで、綾子さんが、アリスさんが。清水くんが、椎枝くんが、慈恵イエスが、瀬古、無一郎が。

ひよこさん、いぬさん、うさぎさん、とらさん、ハムスターさん、ひつじさん、ゴリラさん、うまさん、うしさん。それにへびさん、りゅうさんに至るまで。その場にいた全員が立ち上がり、その手を叩いてパチパチパチと音を立てます。

スタンディング・オベーション。万国共通の、祝福の仕草。その輪はいつの間にか戻ってきていた校長先生、体育の先生、担任の野茂田英雄先生(63歳)にも広がっていき。事情もよくわからないまま集まってきた町の人々、市の職員や、ブリーフ1枚のおまわりさんや、眼鏡のマネージャーさん、解体屋の親方さん、職人の若い衆のみなさん。果ては武くんの変な秘書や、その辺に転がっていた変な悪魔の化身たちまで巻き込んで、若き二人を心からの祝福で包み込みます。

「します!!」

だしぬけに、サトミさんが叫びます。

「超します!絶対します!100パーします、ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

涙でぐしゃぐしゃの顔に、パッ、と輝くような微笑みを灯しながら。可憐な美少女はごめんなさい!ごめんなさい!と、わけもわからずいつまでも、叫び続けているのでした。


この日、20XX年、3月末。

地上の人々を巻き込んだ一年間の最終戦争(ファイナル・ウォーズ)は。

果てしなき祝福の中に、その幕を下ろしたのでした。


次回、予告。


1年間の戦いは終わり。

それぞれはそれぞれの日常へと帰り、それぞれはそれぞれの未来(みち)へと歩みを進めていく。

ファイナルの0から、物語は始まる。


次回、エピローグ。


それから。


地上に愛を、人々に祝福を…。

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