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恋の地上で、ファイナル☆ウォーズ  作者: ナルサワパン
§ 最終章 § 13/12話 ☆ 純愛 ~Yes, fallin'love~
22/28

ファイナルの4.


病院の待ち合い室で、変態たちが馬鹿な叫びを上げていたちょうどその頃。もう一方の舞台、中学校では。光と闇の最終決戦(ファイナルウォーズ)が遂に、クライマックスを迎えようとしていました。

黒い(ひよこ)さんに、もう幾度めとも知れぬ攻撃をクリーンヒットさせた(いぬ)さんは。その勢いのまま、宙返りに空を舞いつつ、校庭に目を遣り。現在の戦況を素早く把握します。

アリスさんが、りゅうさんが変な悪魔の化身を紙屑のようにちぎっては投げ、ちぎっては投げ。また、とらさんが、ゴリラさんが、黒い(ひよこ)さんに攻撃を加えている中で。当の黒い(ひよこ)さんは、たった今、(いぬ)さんに喰い千切られたばかりの後頭部を、既にモゴモゴモゴと再生させていました。

<(くっ…。)>

一見、黒い(ひよこ)さんを圧倒しているかのように見える(いぬ)さんの顔には、僅かな焦りが見えます。

<よぉ、フェンリル。なんか顔色が良くねえなぁ?小便(ションベン)かぁ。遠慮しなくていいから、行ってきていーぞ!俺様超やさしー。>

(いぬ)さんの小さな表情の変化を見逃さずに、黒い(ひよこ)さんがヘラヘラヘラと笑います。

<貴様の品の無さは相変わらずだな。>

(いぬ)さんは相手にせず、ボソッと一言吐き捨てると中学校の向かいのビルへと着地しました。中学校の上では黒い(ひよこ)さんが、<なんだとー!傷ついたぞー!>とプリプリ怒っています。

<(ホワイトタイガーはバリアに魔力(ちから)を割かれて攻撃に全力)が出せない。ゴリラの腕力(パワー)でもヤツに決定打は与えられない…、か。)>

狼さんはプリプリ怒ってピョンピョン跳ねている黒い(ひよこ)さんを冷たい眼で見つつ、一方で冷静にその戦力を分析し続けています。

<(六道とドラグレットは善戦しているが、彼らの体力とて無限ではない。やはり持久戦になる前に、カタをつけねばこちらに不利だな。)>

そう。正義チーム、特に(いぬ)さんの攻撃は。手羽先、胸、モモ、レバー、ボンジリと、黒い(ひよこ)さんの急所をとらえ、的確にヒット。その一撃一撃が、本来ならクリティカルなダメージを与えているはずなのですが。

『ダークボックス』によって増幅された、無限に近いダークパワー。世界を造り変えることすら可能な膨大なエネルギー源を持つ黒い(ひよこ)さんは。どんなダメージを受けても、あっという間にモゴモゴモゴと再生してしまうのです。

また。黒い(ひよこ)さんのダークパワーによって産み出される変な悪魔の化身たちも。いくら倒しても、何事もなかったかのように「ハー!」と奇声をあげて復活し。実に邪魔くさく正義チームの行く手を阻みます。キリがありません。変な悪魔の化身です。

彼らを倒せる手段があるとすれば。再生をも許さない超超高速で、かつ、黒い(ひよこ)さんの本体(コア)を完全破壊し得る、超超高威力の一撃。そして、この場でその条件を満たせる唯一の攻撃方法とは。

<(いぬパンチ)。>

そう。(いぬ)さん最大最強の必殺技。(いぬ)さんはこの戦いが始まってからずっと、黒い(ひよこ)さんを攻撃しつつ。ひそかにお腹の中にエネルギーを溜め、その一撃を放つチャンスを狙い続けていました。その充填率、現在88%。あと一息でフルチャージとなり、全力の犬パンチを撃つことができるようになります。

<(狡猾なヤツのことだ。犬パンチの発動は間違いなく警戒されている。チャージの完了が近い事には気づいているだろう。ならば…。)>

(いぬ)さんが狙っているのはフルチャージを超える充填率120%、限界突破の一撃。黒い(ひよこ)さんのせこい性格をよく知る(いぬ)さんは。多少、なんらかの姑息な手段を使って妨害されても、問答無用で上から叩き潰す、まさに真っ正面からの潔い程の力押しをこの戦いにおいて選択していたのでした。そして。そんな(いぬ)さんの男らしくわかりやすい性格よく知る、黒い(ひよこ)さんは。(いぬ)さんが確実に狙ってくるであろう全力の一撃を警戒し、混戦の中にあっても絶対に(いぬ)さんからだけは注意を逸らしません。

<(一撃で、確実に決めなくてはいけない。一瞬でいい、奴になんらかの隙を作ることができれば…。)>

(いぬ)さんがそう考えた、ちょうどその時。

ゴーンという轟音が鳴り響き、既に半壊していた中学校の校舎がガラガラと崩れ落ちていきます。

<うお。>

突然のことに意表を突かれた黒い(ひよこ)さんは、気のきいたセリフを言う暇もなく。足場にしていた校舎の崩落に見事に巻き込まれ、瓦礫の中に埋もれていきます。

<マーガレットか!でかした!>

とらさんが叫びます。頭から校舎にぶつかっていって、目をまわしているいのししさんが。さきほどまで中学校だった、瓦礫の前にひっくり返っています。

<勝機!>

(いぬ)さんが天空高く翔び上がりました。町の空を覆う黒雲に射す、一筋の月光。金色に輝くそれは(いぬ)さんの銀色の身体に注がれ、隅々まで満たしていきます。その間、0.1秒。

<充填率(フルチャージ)100%…、120%、限界突破!これで決着だ、メフィストフェレス!全力・犬パンチ!!>

いぬさんの身体は金色の光の矢となって、地上、黒い(ひよこ)さん目掛けて突き刺さっていきます。光の速さをも超える、絶対の一撃。この戦いの終曲(フィナーレ)となるはずの、その攻撃は。何故か途中から突然大きく軌道を逸れ、明後日の方向へとスッ飛んでいってしまいました。

<お前の弱点(このみ)は、ホント。何時代(いつ)になってもわかりやすいなあ?>

ハッハッハッハッハと嘲るような笑い声を上げながら、黒い(ひよこ)さんが。やれやれといったように首を振りつつ、瓦礫の中から這い出してきます。その場に居合わせた全員が、信じられないような顔で空を見上げていました。

(ダークサンダー)の稲妻。(いぬ)さんが全力・犬パンチを発射した瞬間、瓦礫に埋もれて身動きの取れない黒い(ひよこ)さんが、同時に放った一撃。まっすぐ幸恵さんに向かって飛んでいった真っ黒い稲妻(ビーム)は、それに気づいて急遽、進路を変更、身を挺して飛び込んでいった(いぬ)さんの胸に、深々と突き刺さっていました。勝利寸前からの、あまりにも突然の逆転。正義チームの面々は言葉を失い、身動きひとつとれません。

<いやぁ、よかった。本当によかった。いえね。実は、俺様。完全体に復活したとはいえ。正直なとこ、魔狼王(おまえ)相手に勝てるかどうか、ちょっち微妙に不安だった、ワケなのよ。それがこうまで作戦通り、ものの見事にカンペキにハマるとは。小野妹子。なんでもない。いやぁ、よかったよかった、安心しました。うれしい時は喜ぼう、ハッハッハッハッハ。>

ヘラヘラと卑劣な笑いを浮かべる黒い(ひよこ)さん。その陽炎のように揺らめく身体から、昆虫の脚のようなおぞましい触手がギチギチギチと伸びていきます。

<お前のバカさ加減に感謝するぜ。>

ゆっくりと(いぬ)さんに向かって伸びていった黒い触手が。一切の容赦なくドスドスドスと突き刺さり、(いぬ)さんの全身を串刺しにしていきます。

<乾杯(チェリオ)!>

ぶん、と唸りをあげ。黒い(ひよこ)さんの触手が動かなくなった(いぬ)さんの身体を、戦場(ちゅうがっこう)の周囲を包むバリア目掛けて投げ捨てます。その意図に気づいたとらさんがバリアを解除しようとするも一瞬遅く、(いぬ)さんはダイヤモンドのバリアへと、強かにぶつけられてしまいました。

パリーンと音を立て、バリアが割れました。(いぬ)さんの巨体とともに、粉々になったダイヤがバラバラバラと地上へ降っていきます。キラキラと光を反射しながら、落ちていくダイヤの破片。それはさながら、幸恵さんと、いぬさん。二人が初めて出会ったあの日、幸恵さんの部屋の窓ガラスを突き破って落ちていった、あの時の光景そのままのようで。

時が止まったような一瞬の静寂の後、(いぬ)さんの身体が。ズズンと地響きを立て、幸恵さんの目の前に墜ちました。(いぬ)さんの身体を中心に、先ほどとは逆回転に風が渦を巻き。あたりの空気が膨らむように(いぬ)さんの身体から離れていきます。

突風のおさまったあと、そこには。もとの姿に戻ったいぬさんが、ピクリとも動かずに横たわっていました。

「いぬじろうさん…?いやだ…いやだ!!」

誰よりも冷静なはずの幸恵さんが、完全に我を忘れていぬさんへと駆け寄りました。その頭上へと、非情にも燃える()(たま)が降り注いでいきます。

「幸恵ッ!!」

咄嗟に飛び込んだ綾子さんが、後ろから幸恵さんを突き飛ばしました。()(たま)の着弾する爆発音。衝撃。爆炎。

突き倒された幸恵さんが目を開けた時、まず、眼前には。背中の大きく開いたセクシーな衣服から大胆に露出した肌を、痛々しく焼け焦がして倒れている綾子さんの姿。そして、頭上には。ギチギチギチと音を立てるおぞましい触手に吊り下げられたアリスさんの、そして、御遣いたちの姿がありました。

一瞬。幸恵さんが我を忘れ、()(たま)の爆炎に巻き込まれたほんの一瞬の間に。正義の味方たちは全滅してしまったのです。

「そんな…!?」

これ以上ないほどの絶望的な状況に、幸恵さんの身体はその意識と関係なくガタガタガタと震え始めます。

<ん、えっとー今日は、何曜日ー?燃えるゴミの日じゃないけっどぉー、ま、いっかー!>

幸恵さんの前にドカドカと、ゴミのように放り投げられた正義の味方たちが積み重なり、小さな山となりました。黒い(ひよこ)さんは長く伸びた触手を、器用にパンパンと叩き合わせて埃を払うような真似をします。その冷酷な左眼が、地面に伏したままこちらを見上げている幸恵さんの姿を捕らえました。

<よぉ、巨乳女。>

黒い(ひよこ)さんの顔が、下劣極まりないよこしまな笑みを浮かべます。

<言っておくが。お前を最後に残したのはワザとだ。お前にはクールな俺様のキャラクターをぶっ壊してくれた恨みが。パンツにされた恨みが、華奢な俺様をお星さまにしてくれやがった恨みがあるんでな。地球の衛星軌道上を回り続けた1ヶ月間、悪くなかったぜ?お礼にお前には、たっぷりとここには絶対書けないような酷いことをして。死ぬほど恥ずかしい目に遭わせた上で、八つ裂きにしてブッ殺してやる。>

ギチギチギチと音を立てながら、昆虫の脚のようなおぞましい触手が幸恵さんに迫ります。

「あ…、あ…。」

生命の危機、貞操の危機。清楚な乙女に迫る最大のピンチですが。幸恵さんの身体は根源的な恐怖に震えて動けず、その発する声は意味のある言葉になりません。

黒い(ひよこ)さんの触手が幸恵さんの目の前まで迫った、その時。

「(サトミちゃん!!)」

目をつぶった幸恵さんは、ここにはいない親友の名前を心の中で叫びました。



ボコーン!と、物理的に何かが何かを殴り倒す音がしました。殴られた黒い(ひよこ)さんの触手が、ボテンと地上に落ちてだらしなくノビています。幸恵さんはおそるおそる、その目を開きます。

幸恵さんが最初に見たものは、春風にはためく制服のスカート。パタパタと音を立てるそれを押さえもせず、幸恵さんを護るように颯爽と背を伸ばして立っている一人の女子中学生。

「幸恵ちゃん、お待たせ!!」

遂に復活した可憐な美少女。高木里美さんが。そこに腕を組んで、仁王立ちしていました。




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