-新開 拓馬-
「お願い、アタシと一緒にゲームやって」
彼女の声に周囲の視線が集中する。うん、声がデカイよ。
「ねえ、聞いてる? おーい」
席の前に立っているのは話したこともない女子。放課後の教室、見つめあうふたり・・・といえばロマンチックなんだろうけど終わったばかりでみんなまだ教室にいるからね。ほら、みんなこっち見てるって。
はぁ、なんでこんなことになったんだろう。
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朝、少し遅めに起きた僕は、眠い目を擦りながら高校へ。
午前中の記憶はない。気付いたら授業は終わっていた。ゲームで寝るのが遅くなったせいかな。イベントでもないのに集中しすぎて、気付いたらそれなりの時間だった。うっかり夜更かしするなんて久しぶりだなぁ。
午後は調理実習のみ・・・普通昼食前だろ、なんで午後からなんだ。お菓子とかならまだしも普通の献立だし。念のためおにぎり1個にしといてよかった、普通に弁当食べてたら食べれないって。
悪意ある班分けには屈しないぞ。例え他のメンバーが駄弁って何もしてなくてもな! ぼっちは淡々と作業するだけですよ。時間なくなるからね。
おい、うるせぇぞ邪魔はするなよ! というかあぶねぇ!? なんで急に作業・・・ああ、注意されたんですね。包丁持つ手つきがヤバいのでその辺の洗っててくれますか?
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ということがあっての放課後。
「ねえ、聞いてる? おーい」
ということしかなかったよな、今日。班員だったわけでもないし、何もなかったのに。
仕方なく帰ろうと浮かせかけた腰を席に下ろす。
・・・めっちゃ注目されてるね! かつてここまで注目された事があっただろうか。いや、ない。
何事か観察されている気配がひしひしと伝わる。くそー、野次馬どもめ。見てないで助けろよ。他人事か! 他人事でしたね! クラスに馴染めてない地味な生徒ですもんね、僕。入学してから一月以上経つのにね。周囲と視線を合わさないようにすれば目の前には派手めなクラスメイト(女子)・・・何だこの状況! 僕だって外野だったら見るわこれ。
そりゃ、目立たないクラスメイトが唐突にギャルに絡まれたら気になるよね! しかも怖い感じじゃなく、イマドキ系で男子人気の高い子だしね。
うーん、全然わからん。なんで話しかけられた・・・かはわかるな。理由は思いつかないけど。
「えっと、なんでしょうか」
じっと見つめる。変わった状況だけど、こんなに近くで見るの初めてだ。人気があるのもわかるなぁ。
「新開くんって料理得意でしょ」
うわっ、身を乗り出すとおっぱいが。
「お、落ち着いて・・・藍原さん?」
「あ、ゴメン。アタシ藍原愛実ね」
少し下がったのはいいけどちょっと顔近くない? そのまま話すの?
「新開拓馬です」
「知ってる。ってかゲームやるよね?」
「やるけど」
会話の流れがわかないんだけど!?
「ならコレ!」
差し出されたそれを手に取る。普通に受けとったけどなんだろう?
「あのね、一緒にして欲しいんだけど」
一瞬時間が止まった気がした。これのことだからお前らは見てないで早く帰れよ! 渡されたのゲームだったよ! 話が戻ってきた気がする。
あ、しゃがんで顔を覗き込んできた。上目遣いかわいいな。
「おーい」
めっちゃ目の前で手振ってるな。気付いてますよ。
「えっと・・・何を?」
「聞く気になった?」
よかった、説明する気があって。僕は最初から聞こうとしてたというか、普通に順序立てて話してくれればよかったんだけど・・・とりあえず頷く。
「今それやってて」
「これを?」
僕は手に持っているものを見る。あれ? これ知ってるな。
「そう、でも困ってて。だから協力してくれる人を探してて」
なるほど、ゲーム内の協力者を現実で見つけようと。
「でもなんで僕?」
今まで話したこともなかったのに?
「調理実習のときの新開くんを見てこの人アリかなって」
藍原さんは立ち上がり、声をあげる。
「だからアタシとやって欲しいの」
教室の空気が凍った。