81部
「いいんですか、総監?山本にあんなこと言わせて?」
総監室で一緒にテレビで山本達のやり取りを見ていた上杉刑事部長が武田に聞いた。
「・・・・・・・・・・」
武田は無言で、テレビを見つめている。上杉がため息をついて、
「そのネタもういいんですよ、武さん。」
「俺も色々と考えることがあるんだよ。別に『総監』って呼ばれたから無視していたわけじゃない。
それに、山本が俺らの言う通りにするような奴じゃないのなんか、もう何年も前から知ってるだろ。
問題は『秘政会』の存在とその成立経緯までがテレビで流れたことだ。
財務省にも問い合わせが行くだろうし、現段階で国政のほとんどが『秘政会』の考えによって動かされているような印象を国民が持つような内容で終わってしまったことも大きな問題だな。」
「『窮鼠猫を噛む』と言いますがまさにそれだったんじゃないですか?」
「追い詰められた人間が時間を気にしていたと思うか?」
「現場にいない我々では推し量れませんが、『偶然』だとは思われないんですか?」
「あんなに急いで自白する必要はなかった。あの時点で立証できる犯罪は不法占拠くらいだろ。
わざわざ、誰かを殺したとか週刊誌の記事を操作したなんて話をする必要はなかった。
狙ったことが他にもあったと考えるべきだ。」
「それが何かはこれから山本達が調べますよ。
それよりも問題は、法務省の姫地です。信号のカメラの使用は今後の予測不能な犯罪を取締るためには重要な武器になります。いつまでも、あの程度の小間使いに邪魔されていたのでは、こちらの求心力に支障が出ます。」
「・・・・・・基を断つしかないだろうな。
黒木雄二と話ができるように、準備してくれ。」
「総監が出なくても・・・・・」
「ここまで邪魔されてるんだ。こちらの本気度を見せるためにも俺が動くしかないだろ。」
「わかりました。あっ、あと・・・・・・・」
「何だ?」
「いま、『総監』で反応してましたよ。」
「あっ、しまった。」
武田がやらかしたと言ったように顔に手を当ててうなだれる。
「それじゃあ、失礼します。」
上杉は扉を閉めて、心の中で『武さんも余裕がなくなってきている』と思い、早急に次の一手を打たなければいけないことを感じていた。




