80部
「ハア、なんかあっけなく終わりましたね。」
上田が山本に言う。西川の『終わりです。』の一言で、伊藤と谷は銃を捨てて降伏した。同時に藤江も銃を捨てて、伊達が放送の中止を相田に頼み、番組が終了した。
拳銃を持った男が立てこもっている状況だったはずが、最後まで一発も撃たれることはなかった。
そのことをさしてなのか上田はそう言ったのだ。
「バカか、ケガ人も出なかったし、物も壊れてないんだからこれでよかったんだよ。」
「西川たちは目的を遂げたんでしょうか?」
「どうだろうな。刺激しすぎない方がいいって伊達が言ったから放送が始まる前に捕まえなかったが、もしかしたらこれも伊達の何かの意図があってのことかもしれなかったわけだし、実際に死傷者なし、物損なし、この結果がある程度、西川たちのやりたいことをさせたから反撃がなかったとも考えられないことはないよな。」
「これが『タラレバの議論に意味がない』って言われる理由ですよね。
『あの時、ああしてたら』とか『こうしてれば』なんて言っても、結果がどうなったかはわからないんだから、言い合いしても意味がないってことですもんね。
伊達に何か意図があったとしても、それを知ってるのは伊達だけなんですからね。」
「伊達も自分の考えを素直に話す奴じゃないから、真実は闇の中だな。」
二人でため息をついたところに「山本さん」と言いながら、相田がやって来た。
放送終了後、佐々木アナの下に向かっていた相田は佐々木アナが落ち着いたからなのか、山本達の下に来たのだろう。
「佐々木アナ大丈夫ですか?」
上田が聞く、山本はそう言えば上田は佐々木アナのファンだったことを思い出したが、間近で銃を突きつけられていたのだから佐々木アナも大変だっただろうと思い、様子を聞くために黙っていた。
「ああ、もう大丈夫です。少し疲れているようですが、ケガとか体調に異変はないみたいです。」
「そうですか、よかったです。」
山本が言うと、相田が
「彼らはこれからどうなりますか?」
「とりあえずは事情聴取ですね。
西川が言っていたこと自体は自白として取り扱えますが、それを立証するための証拠がなければいけないので。」
「そうですか・・・・・・・」
「何か気になることでもあるんですか?」
上田が相田に聞く、相田は考えをまとめるように少し間をおいて、
「実はうちの番組は14時から始まって、15時30分に終わるんです。」
山本は時計を取り出して、時間を確認する。15時49分。
伊藤と谷を捕まえて、所轄の警察官に連行を任せて、一通りの捜査を終わらせていたところから考えると、放送が終わって20分くらいが経っているだろう。
「どういうことですか?時間通りに終わったのではないかということですか?」
山本の問いに相田は黙ってうなずいた。そこに伊達がやってきて、
「ふざけてますよね。
僕も気になって聞いたんですよ。なんであんなにあっさり諦めたのかってね。」
伊達はニヤニヤしている。よほど面白い答えが返ってきたのだろうと思いながら、
「それで、なんて答えたんだ?」
「『テレビ局の番組表にのっとって、一時間半の番組にするため』だそうですよ。
最初の計画から、一時間半で全部終わらせるつもりだったんですよ。
テレビのディレクターだった西川は、今回の事件を『報道ジャッカー』と呼んで、自身の手掛ける最後の番組にしようとしていたんでしょうね。
連れていかれる最後に僕に笑いながら『生放送が時間を超すわけにはいかないでしょう?』って言ってましたよ。」
「だから『ふざけている』か?」
「そうですよ、番組をきれいに終わらせるために自白することによって、番組に『オチ』を付けたんでしょう。そして、『終了』と言ったのが番組終了2分20秒前。
そこから、相田さんが番組を止める、あるいは他の番組に繋ぐためにCMに移すことを予想して、そこで終わらせたんだからプロの仕事だと思いましたよ。
実際に、次のニュース番組にきれいに移行できてましたしね。」
伊達は言葉だけなら褒めているように聞こえるが、表情は明らかに怒っている。伊達からすれば警察が現場にいたことで西川たちの計画を完全に崩したつもりだったはずが、形は違ったが計画の通りに終わられているのだから面白くなかったのだろう。
「最後までテレビマンだったってことか。
どう思いますか、相田さん?」
山本の問いに、相田は真剣な顔で
「彼ならそれくらいはできるでしょうね。それくらい優秀な人材だったんだから。」
「色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
山本がそう言って頭を下げる。空気を読んだのか上田と伊達も頭を下げた。相田はため息をついて、
「いいですよ、頭を上げてください。
おかげさまで、こちらはケガ人も出さずに終われましたから。
すみませんが私は上層部に今回ことで色々と報告しなければいけないので失礼させて頂きます。」
相田は山本達の返事も待たずに、スタジオから出て行ってしまった。
「それにしても、してやられたみたいだな伊達?」
上田が挑発するかのように言う。伊達は一瞬だけ上田を睨み、笑顔で
「何がですか?」
「お前の計画通りにならずに、犯人グループの計画通りになったことがだよ。」
「何を言ってるんですか?
立てこもり事案で、死者だけでなくケガ人も出さなかったんだから、僕の計画がちだと思いますけどね。それに、僕の思い通りいかなかったと深読みする暇があるなら、もっと早くにこっちの二人を制圧する案くらい考えて欲しかったですね。」
「なんだと!」
上田が逆に挑発されたことを感じて、山本が
「まあ、落ち着け。終わったことでこれ以上騒ぐな。
帰った後で、まだいろいろと仕事残ってるんだから余計な体力使うんじゃねえよ。
行くぞ。」
「はい。」
山本と上田がスタジオを出て行くのを見送りながら、伊達がつぶやいた。
「計画通りになりすぎたから、こっちはムカついてるんだよ。」




