75部
『Q.あなたの職業は何ですか?』
山本は新たに始まったVTRを小さな画面で確認していた。このVTRに出てくるのが西川・伊藤・谷・藤江の四人だったとすると、五人目の人物が映し出されることになる。
しかし、映像は今までのものとは全く違った。はじまりこそ同じ質問だが、インタビューを受けている人の顔が写っている。そして、
「三澤大治郎と言います、職業はある戦後の報道業界を支えてきたとある方の秘書とジャーナリストをしています。」
山本はその男の顔に見覚えがあった。三倒会であった『佐和田』を名乗った男だ。三澤が本名と顔を写していることを気にしたのかインタビュアーの声も入っている。
「本当に大丈夫かね?別に名前も顔も伏せてくれてかまわんのだよ?」
年配の男性の声、明らかに三澤よりも立場が上の人間が三澤を心配するかのように話しかけている。
「大丈夫です。私は報道業界と少し距離を置き、遠めに見ることによって、日本の『報道』がどのようになっていくのかを長年見てきました。
フランス革命の人権宣言しかり、アメリカ独立戦争後の合衆国憲法しかり、憲法は国民が戦い勝ち得たものだったのです。しかし、日本はどうか、大日本帝国憲法は欧米諸国との不平等条約改正のために国家が作り出したものであり、現行の日本国憲法はGHQによって草案が出され、それを日本にあったように改正し直して制定してる、いわば外国が作った憲法です。
国民が勝ち得た憲法でないから、国民は憲法が何かも知らず、無関心で、自分の都合の良いところしか知らず、勝手に解釈しては権利だ自由だと要求するだけ。
その最たるものが現在の日本の報道なのだと私は思います。
『報道の自由』これは国家によって、報道内容を規制されないことを認めているものであり、世界大戦中の治安維持法によって言論の統制が行われたことを念頭にこういった国に報道内容を取締られないことを規定する権利なのであり、なんでも報道していい権利ではない。
『知らなかった』の一言で、済まされるほど、これまでのプライバシー侵害は軽い事案ではないのです。取材におびえ、傷つき、家族を失う。周囲の人間からの非難だけでなく、見ず知らずの人間から罵倒される恐怖は人の想像をはるかに超えるものがあるでしょう。
でも、報道される側の恐怖を報道する側は何も考えない。自分にその恐怖が来るはずもないと高をくくり、何の悪気もなく他人の私生活をばらしていく。」
三澤は悲しげにそう言って目を伏せた。
『Q.報道はされない方がいいのですか?』
「私にもその答えはわかりません。
ただ、私が思うのは報道にも二つあると思うんです。
一つは『光の報道』、もう一つが『闇の報道』です。
『光の報道』は人々に希望を与えるような、誰かの励みになるような、誰かを救うような報道をさします。
例えば、日本のスポーツ選手が国際大会で金メダルを取ったという情報は、日本全体に希望を与えるだけでなく、子供たちの新たな夢を作ることにも繋がります。
『あの人みたいになりたい』、『自分もあんな風に活躍したい』、『僕も私もやればできる』そんな風に希望を与える報道ばかりでは成り立たないこともわかっています。
世の中で起こる悲惨な出来事や逃げることのできない自然災害の情報だってあります。
それでも一人でも多くの人が情報を知り、誰かを救い、そして被害にあった人を励まし、そして支援の輪が広がっていくような、辛い事でも新しい希望を与えられるような報道を『光の報道』と私は言いたい。
そして、その逆に『闇の報道』は誰かを傷つけ、絶望させ、欲望のままに情報を操作する。
そんな報道が最近は多くなっていると私は思います。
芸能人がプライベートで誰と交際していようとも、芸能人である前に同じ日本人であることを忘れてはいけない。国籍を問う前に同じ人間であることを忘れてはいけない。
犯罪者を非難することは必要だがその家族や身辺まで取材してはいけない。犯罪の被害者がどういう人間なのかを取材してはいけない。
『知れば誰かが得をするのか?』と思うようなことまで調べる必要はない。
誰かが傷つくようなことをあえて報道する必要はない。
誰かを追い込むことをしてはいけない。
一部の人の利益を得るために情報を都合よく解釈してはいけない。
『闇の報道』は誰かを必ず不幸にする報道です。
できることなら、『光の報道』だけがこの国に広がればいいのにと私は思います。」
VTRはここで終わった。佐々木アナが原稿を読みながら
「報道に関係する人たちが理不尽な行為によって不幸になったというVTRをご覧いただきました。
えっ!」
佐々木アナは一度驚いて覆面の男の方を見る。覆面の男は促すように拳銃を向ける。
「最後のVTRで話されていた三澤大治郎氏は先日多摩川沿いで発見された焼死体です。
いまだ、警察の方でも身元不明のご遺体として保管されています。身元もなく引き取りてもなく、誰かもわからないまま保管されている彼もまた不幸なのではないでしょうか。」
覆面の男が新しい紙を佐々木アナに渡す。佐々木アナは確認してから、
「日本人に・・・・問う・・・・、何も知らずに生きているあなた達はいつか、どこかで、報道によって不幸になるのだとして、自由も権利も主張できないままでいいのだろうか?
犯罪を起こせば、巻き込まれれば、道を歩いているだけでも報道によって不幸にさせられてしまうかもしれないのに、今のままでいいのだろうか。
自分を守る権利を知れ、自分を攻撃する相手を倒す権利を知れ。
盾も矛も持たずに戦場に立つな。情報社会のこの世界は常に情報を使って戦う戦場だと知れ。
いつまでも攻撃されるだけの雑兵ではなく、戦略を練れる軍師になれ。
『権利』とは、『自由』とはあなたを守るためにあるのだから。」
覆面の男がさらに新しい紙を渡す。
「それではこれより、国が隠してきた国民が知るべき、情報を全てありのままに公開していきます。権力者に『闇の報道』を、善良な国民に『光の報道』を・・・・・」




