70部
「はい、西川です。」
車で移動中に受けた電話に出た西川が答えると谷が電話の向こうから
「おい、前島大臣と総理の会見は見たか?」
「見ましたよ。『SH』の計画では、総理は関係なく黒木議員だけがこの制度を作っているはずでしたよね?」
「ああ、でもこの会見では明らかに総理も賛同している雰囲気だし、あいつらの計画にも何かイレギュラーが生じたのかもしれないな。」
「それより準備はどうですか?使う気はありませんが脅しようには拳銃やその他の物は重要になりますからね。」
西川の落ち着いた感じで谷も落ち着いたのか、
「ああ、そうだな。拳銃は手に入れられたよ。ダイナマイトの偽物は準備に少し時間がかかるからまだ受け取ってはいないけど確実にもらえる手はずは整ったよ。
計画の方は?」
「ほぼ完成しました。また近々集まって詳細を報告します。」
「そうだな、電話が盗聴されてないとも限らないしな。それじゃあ、近々。」
谷はそう言って、電話を切ってしまった。西川は車で各テレビ局の周りを見ながら警備の状況や人の出入りの多さなどを調べていた。
警備が厳しくなった印象がないことから『SH』達は何も動いていないことを推察した。もし何かしらの動きがあるなら、こちらの狙いや行動を把握して潰すような対処がされてくるはずだからだ。それもないようなので、次の動きに移るため、地下の駐車場に車を停めて、パソコンを開き、一本のUSBを挿す。パソコンを操作して、そのUSBの情報を開けると『三澤ファイル』の名前のファイルがあり、それを開いて行く。
京泉大学法学部三橋ゼミOB会、通称『三倒会』にて山本勘二警部にUSBを渡し、そして裏切ったと思った伊藤さんが殺してしまった三澤さんが調べていた政治家や芸能人のスキャンダルから大企業の悪徳な経営手法まで様々な情報がその証拠とともに収められているファイル。
その一つ一つを確認しながら、テレビ局を占拠した際に表に出すべき情報は何かを考えていく。
先にテレビ局に送った大物政治家の不倫などのスキャンダルよりも内容的には、さらに世間を動揺させるような情報ばかりで、この情報が全て世間に公表されたらと考えるだけで冷や汗が止まらないくらいの恐怖を感じる内容ばかりだ。
だが、マスコミの中で最も影響力の強いテレビを占拠するのだから、強烈な印象を与えるものでなければならない。
報道とは何か、知る権利とは何か、表現の自由とは何か、色んな学者の意見を聞いて回っても、結局は納得のいく答えなど返ってくるはずもなかった。
国民の知る権利を満たすために様々な手段で表現をして、報道が作られていく。
でも、その報道は結局のところ誰かの利益を守り、その半面で弱者の不利益をないがしろにしてしまう。それなら、報道を占拠してでも真実を国民に知らせるべきだ。平等に利益を得る情報を不利益をもたらすものを糾弾するような情報を自分達が国民に届ければいい。
そう、俺達はバスでも飛行機でもなく、報道を占拠、『ジャック』するものになろう。
そう考えたところで、自分達が今まで使わせてもらっていた『佐和田』の名前に関して、明確な犯罪行為を行う上で沢田さんの名前を使うわけにもいかないなと思い、西川は
「僕らは正義の『報道ジャッカー』になろう。」
そう言って、いくつかの文書を選んでコピーしていく。そして、憂鬱な顔のまま自分達の行為が間違っていることも認めながら、これ以上誰かが傷つかないようにと願って目を閉じて祈った。




