63部
「どういうことだよ、これは?」
谷が大声で叫ぶ。まず、自分達の名前が勝手に使われていたことに対する怒りと前島大臣に関する情報に誤りがあり、しかも秘政会の秘書が献金を受け取っていたという自分達の知らない情報があったことに対する怒り、様々な怒りが爆発しての叫びだった。
「そんなに騒ぐなよ。どこのどいつか知らないが、俺達の目的に反したことはしていないだろ?
これでマスコミの信用は落ちたようなもんだ。」
伊藤が少し満足げに言ったことに谷が反論しようとしたところで、西川が
「二人とも落ち着いて下さい。谷さん、確かに我々の名前が語られたことも、あの『SH』と名乗る男の情報に誤りがあったとしても、第一段階は成功したと見ていいと思います。
ここから各局が自分達が正しいと言い合いになれば、さらにマスコミの信頼は落ちていきます。
確かに予定外ではありましたが、計画に修正を加えるほどの誤差はありません。
伊藤さんも少しは危険視してください。
第三者が便乗して来ただけなら、問題はありませんが、これが大臣側が仕掛けてきたもみ消し工作なら、違う一手が必要になります。
それに、警察の方の動きという可能性も考えられます。
俺達の動きがつかみきれないからえさをまいてきたのかもしれません。」
「じゃあ、どうするんだよ、西川?」
伊藤が聞くと西川は落ち着いて
「状況を見ましょう。この報道で俺達の計画に支障が出るなら対処する動きが必要ですが、計画からズレなければ、そのまま次の段階に進むまでです。」
小太りの男が立ち上がり
「でも、西川君。さっき君が言ったことのどれかが正しかったとして、対処する方法を話し合うのは必要じゃないかな。閣僚の力があれば、秘書に押し付けて終わりにするなんてことはよくある話だ。警察の動きだとすると、計画をどのように変更するかで結果は大きく変わると思うよ。」
「わかってます、藤江さん。どうやら、『SH』はこの件から手を引こうとしているようですし、ここからは自分達で計画を進めなければいけませんから。」
「あいつの目的はわからねぇが、あれこれと指示してくるのは気に入らなかったんだ。
ちょうどいいじゃないか、俺達だけでもできるところを見せつけてやろうぜ。」
伊藤が勢いよく言うと谷が
「でも、彼の指示通りにしたからこそ、この場所までこれたんだし、ここまで来て自分はぬけるなんて都合がよすぎるんじゃないか?」
藤江が
「最初っから、この段階で手を引くことによって、警察の捜査が自分のところまで来ないようにしようと考えていたのかもしれませんね。」
「皆さん落ち着いてください。いない人間のことをどうこう言う必要はないですし、『SH』としては『秘政会』のことまで明かされたんだから、『秘政会』のために何か手を打つと思いますよ。
それを利用して、こちらから反撃することも、それを逆手にとって『SH』を攻撃することもできるはずです。とりあえず、状況の整理と情報の出元を調べましょう。」
伊藤が無言で出て行き、谷も取材カバンを持って出て行った。藤江が
「西川君、私が気になっているのは現金の受け渡しに行った男たちが言った『サワダ』じゃない方の名前なんだけどね。」
「『金田』ですか・・・・・」
「そうです、『金田』は三澤さんが二人以上で動くときに使っていた偽名だ。
何でこの情報を流した奴らはその名前を使ったのか、偶然だと割り切れないのは私がジャーナリストだからでしょうか?」
「いえ、明らかに意図して使っていると思います。
そうなると、警察が出版関係者から『金田』の存在を知ってあえて使ってきた可能性もありえます。
ただ、出版業界とつながりがあれば相棒役の『金田』の存在は知られているので、調べればわからない情報でもないという所が面倒ですけどね。」
「そうですね、それでは私はその情報を誰かに話した出版業界関係者がいないか調べます。
伊藤さんが暴発しないように充分に注意しておいてください。これ以上、仲間を失いたくはないので。」
「私も同じ意見ですよ。」
藤江はニコリと笑って、西川の肩に手を置き、そして部屋から出て行った。
「三澤さん・・・・・・、あなたはまちがっていなかったのかもしれない・・・・・・」
西川は机に顔を押し当てて小さくつぶやいた。




