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58部

「テル。」

 大通りに出たところで先を歩いていた男に向かってカタが声をかけた。

「職務中なんだからその呼び方はやめろよ。」

「お前も俺らのことを普通に呼んでたじゃないか。そうだろ伊達巡査部長?」

 カタから階級を付けられて呼ばれたことに少し不満を感じながら、伊達は

「俺らだけの呼び方だしばれはしないだろ。で、内容的には二課が調べれば完全にクロな情報を得られたってことでいいんだよな?」

「当然だ、俺とコージの仕事が今までにお前を満足させなかったことがあるか?」

「そうだな、無用な心配だったよ。」 

 伊達が思い返してもこのコンビに任せて不備があったことは一度もなかった。

「というか、この仕事を『職務中』というのには抵抗を覚えるがな、警察官として。」

 そう、このカタも大柄の男のコージも現役の警察官である。ただ、伊達が捜査をする中で強制的な証拠収集に駆り出される特殊な部隊のようなものでもあった。

「立派な職務だよ。あの山本警部から『好きにやっていい』って言われてるんだからな。」

「そんなに気に行ったのか、その山本警部を?」

「ああ、この事件が終われば課長代理にお前とコージを呼び寄せて欲しいって頼むつもりだ。」

「お前がそんなに言う職場なら面白いかもしれないな。」

 そう言ってカタはメガネの中心を薬指で上げた。伊達はカタがこの癖を行うのは面白がっている時だと知っていたので、

「ああ、近々、大きな戦がありそうだ。この戦に参加しないなんてつまらないだろ?」

「なんだ、関ヶ原の戦いでもあるのか?」

「い~や、天下分け目の戦いが終わった後の、残党狩り、いわば大坂の陣のような感じだな。

現在に置き換えて、俺の予想では・・・・・『東京冬の陣』って感じかな。」

「もう決着がつくのか?つまらない天下分け目の戦いだな。」

「終わらせるカギはまだ動いてないだろ。そのカギを動かすためのお膳立てに動いてるんだから、気合入れて行こうぜ。」

「前島財務大臣の秘書にあって、『誤魔化しようのない証拠をつかむ』か、なかなかハードなミッションだな」

 そう言って、カタはもう一度薬指でメガネの位置を調整した。伊達はニヤリと笑って

「それじゃあ、打ち合わせ通りで頼むぞ、カタ。」

 伊達とカタは二人で前島大臣の秘書が待っているホテルへと入っていった。


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