55部
「当局の独自の取材により、前島和夫財務大臣やその他閣僚経験者の贈収賄疑惑や不倫と言った国会議員にあるまじき行為をしていることが判明しました。」
男性のアナウンサーは原稿を読み上げているだけでカメラと視線を合わせようとしない。
大谷はその様子を見ながら、この情報の出所について考える。
自分達でつかんだ情報なら胸を張って伝えることができるはずではないだろうか。
それができないと言うことは、『自分達の取材』で入手した情報でないものをそう見せかけているのではないか。
大谷はその考えに至り、直ぐに電話で山本にその事を伝える。
電話を切って、情報の内容に目を通していると、山本が駆け込んできて、
「どんな感じだ?」
「前島大臣の情報はこちらがつかんでいたものと変わりません。
ただ、こちらの情報では前島大臣が自ら献金を受けていたということになってました。
他の議員に関しては、情報の整理が必要だと思いますが、不倫のネタや贈収賄等よく聞く情報ばかりです。
ただ、対象になっている議員がもと閣僚とか大御所みたいな人ばかりなのが気になるところですね。」
「そうか。この内容の番組はこの局だけか?」
「僕も全部は確認できてないですが、他の局でも同一内容のニュースはあったみたいなので、これは『佐和田』の動きだと思います。」
大谷は資料を確認しながら言い、山本が
「他の局の情報の扱い方を調べといてくれ。
とりあえず、この局には情報元が正確に伝えられているのかどうかの確認をしてくれ。
あいつらに踊らされているなら、かなり面倒な事になるぞ。」
「わかりました。」
大谷が出ていき、入れ替わりで上田が戻ってきた。
「何かあったんですか?」
上田の問いに、山本は
「新しい動きがあっただけだ。」
そう言ってテレビを指差し、
「お前の方は何かわかったか?」
上田はテレビを確認して、納得したようにうなずき、
「なるほど。
僕の方も沢田のことが少しわかりました。
沢田貴史は、元大手の新聞社の政治部に所属していた男で、その当時から政治家の汚職に関する記事を多くかいていたのですが、会社側からNGが出て、いくつもスクープを潰されていたそうです。
最後に大物政治家を失脚させるほどの記事を書いたのですが、それがきっかけで会社を不当に解雇されていました。
記者一筋で働いていた沢田は家族からも見放されていたようで会社をクビになった時に離婚しています。
それ以降は独自に取材をしては、他の新聞社や週刊誌などに記事を売るようになり、その記事を載せると発行部数が上がるくらいで出版業界では伝説になっていたそうです。」
「政治家の情報は統制されて、記事を載せてもらえない。
必死に家族のために働いていたのに家族に捨てられてしまう。
そういうことの積み重ねが沢田という記者でありながらマスコミを批判する記者にしたってことか。」
「同じように会社に不当な扱いを受けていた記者が集まって、沢田の考えに共感して、広い情報網と何者にも情報を統制させないグループが生まれたみたいですね。」
「まぁ、その話はあとだ。
こっちも次の手を用意しないといけないからな。
車の準備してくれ。」
「どこか行くんですか?」
上田が聞くと山本はあまり浮かない顔で
「相田さんに協力してもらう。」
「相田さん・・・・・・?」
上田はその人物を思い出すのに少し時間を要したが
「ああ、あの、佐々木アナの番組のディレクターの!」
山本は答えずに「行くぞ。」と言って部屋を出ていった。
上田もその後を追いかけた。




