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53部

「著名な憲法学者によるマスコミ批判ともとれる内容のインタビュー音声が届きました。

憲法分野からの見解では、他者の情報をみだりに調査し、公表している現在のマスコミの態様は、知る権利や報道の自由をかさにきたプライバシーの侵害であり、内容によっては名誉棄損罪などに該当する犯罪行為だと明言している学者もいました。

 こちらのボードに各学者の言い分と内容をまとめてみました。」

 女性アナウンサーはボードを指して、学者の所属する大学や名前、主張を読み上げいく。

 ちょうど、黒田のところに報告に来ていた山本と伊達は課長室でこのニュースを見た。

伊達が

「警部の言ってた通り、学者の先生方の主張からマスコミ全体への批判をしてきましたね。」

「足束教授の意見にしても、俺らが聞いた話の3分の1くらいの内容しかのせられてないな。

あからさまにマスコミを批判していると取れる部分だけを抜粋してる感じだ。」

「確か質問は『知る権利や報道の自由についての憲法学的な主張』でしたよね?」

 黒田が聞き、山本が「そうですけど、何か?」と聞くと、

「その質問は誘導尋問と変わらないと思います。

憲法に規定されている権利は何も憲法だけで保護されているわけではありません。

 国家と私人との間で重要な人権侵害が発生した場合は憲法による法の裁きが必要になりますが、

基本的には人権に関しては他の法律で私人間の物を定めているものが多数存在していて、訴訟事案は全て憲法とは違う法律で判断され、決着がつかない場合にのみ憲法を利用するという憲法の間接適用が基本となっている現代において、この質問の仕方は『憲法をベースで考えるなら、私人間の適用は人権侵害にあたる』と答える学者がほとんどだったと思います。」

「つまり、聞き方ひとつでマスコミ批判をしているような回答を引き出しているということですか?」

 伊達が聞き、黒田がうなずく。

「その道のプロなら自分の欲しい答えを導き出せるような質問は簡単にできるということなんだろうな。」

 山本が言ったあとで、テレビのアナウンサーが

「なお、本局の取材に対応した学者の先生方は、みな口をそろえて『そんなつもりで言ったのではない』と答えました。

 こうして、世の中に考えが音声で出ている以上、受け取り手がどのように感じるのかを理解していない専門家の傲慢さがにじみ出ているのではないでしょうか。」

 画面のアナウンサーを見ながら伊達が

「この人こんなこと言って大丈夫なんでしょうかね?

マスコミ批判をしている人をさらに批判するとかSNSが炎上しそうですけどね。」

「この局は確か三橋元教授に犯罪の解説や他の分野に対してもコメンテーターを依頼して、多用してたから、今となっては専門家と呼ばれる人に嫌悪感を抱いてるのかもしれないですよ。」

 黒田が冷静に言い放つと、

「憲法学者が口をそろえるのも当然なんだろうな。そういうふうに仕向けられてたんだから。」

 山本が言うと、伊達が

「これ、やばいですよね?竹中さんが言ってたみたいにテレビ局相手に信用を下げさせるような報道をさせているなら、早急に手を打たないと本当に取り返しつかなくなりますよ。」

「黒田さん、何か手はありますか?警察からの圧力だと思わせないような手段です。」

 山本に聞かれて黒田は少し悩んでから、

「テレビなどを管轄しているのは総務省の仕事ですから、そちらを経由してなら・・・・何とか?」

「それしかないかもしれないですね。何とかできますか?」

「わかりました、叔父の手を借りながら何とかします。」

「あ、あとこの資料に関してお願いしたいんですけど」

 伊達はそう言って、前島大臣から受け取った資料を手渡し、

「前島大臣にかけられている贈収賄疑惑に関して、大臣本人が調べた結果、秘書の男が大臣の名前をかたって献金を受けていたとする資料です。

 その資料の信ぴょう性の確認をお願いします。」

 黒田は資料を確認しながら、

「この資料を二課で調べてもらえばいいですか?」

「いえ、できればこの資料で『佐和田』たちに罠をしかけられればと思ってます。

できれば公にならないように調べて頂きたいです。」

 山本が言うと、黒田は資料を置き

「どのような罠を仕掛けるつもりですか?テレビという視聴者数の多い媒体を介しておとり捜査のような真似をすることはさすがに見逃せませんよ?」

「資料の中に秘書が次に、企業側と会う日が記されてます。この日に張り込んで献金を受け取っているところを撮影して、信用できるテレビ局に放送をお願いします。」

「そんなテレビ局があるんですか?」

 黒田が訝しげに聞くと

「まあ、テレビ局自体には信用できるところはありませんが、個人的に信用できるディレクターなら知ってます。相手側が協力してくれるかはわかりませんけど。」

「その撮影も、そのディレクターに頼むのですか?」

「それは危険なので伊達にやらせます。」

 山本が言った直後、伊達の表情があからさまに険しくなり、

「えっ、俺がやるんですか?」

「この撮影に関しては全部任せる。手段が多少強引になったとしても、警察官だとバレなければ大目に見る。俺が言えるのはここまでだ。」

 山本の発言に黒田は驚き制止をしようとし、伊達はニヤリと笑って

「まあ、そういうことなら任せといてください。過激な動画になっても後で怒らないでくださいね。」

 伊達はそう言うと課長室から出て行った。黒田が

「どういうつもりですか、彼にあんなこと言ったらケガ人が何人出るかわかったものじゃないですよ?」

「今回の事件には『秘政会』と呼ばれる政界の裏組織が絡んでると思います。

この秘書もその『秘政会』の一員であると前島大臣が言ってました。その大元にいるのが『SH』と呼ばれる謎の人物です。そいつが黒木達のさらに後ろにいる黒幕である可能性もあります。

今回の罠は『SH』をあぶりだすものでもあるんです。

 ご存知ですか『SH』と呼ばれる人物について?」

「総監から何度か聞いたことがあります。でも、詳細は不明で存在自体が怪しいということでしたので、私はさほど気にしていませんでした。」

「武さんは今警視庁にいますか?」

「『SH』のことを聞きに行くんですか?」

「まぁ、それもあるんですけど、親父の事件に関しても相談したいと思ってたのでついでに。」

「ああ、そうでうすね。総監は・・・・・・おられると思います。何でしたら今連絡を入れましょうか?」

「いえ、あの人に答えを考える時間を与えると、煙に巻かれる心配があるので、これから乗り込んできますよ。ああ、それから、親父の事件について色々とお世話になりました。

 黒田さんがいてくれなければ、俺はきっと逃げ続けたままだったと思います。

ありがとうございました。」

 山本はそう言って頭を下げ、部屋から出て行った。

 黒田は電話に手を伸ばすが先ほどの山本の言葉が思い起こされ、

「あの人は虎じゃなくてタヌキだからな・・・・・・」

 そう言って、電話に伸ばした手を戻し、紅茶のポッドをつかんで紅茶をいれた。


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