52部
「まさかこんなに早くまた会いに来てくださるとは思ってなかったです」
前島は驚きを隠せずに言った。山本が
「申し訳ありません。テレビを賑わしている件に関して、週刊誌ではなく、テレビで取り上げる大物となればあなたの可能性が高かったのと、我々の捜査に協力してくれそうな人が他に思いつかなかったので。」
「協力というのは?」
「あなたには贈収賄疑惑がかけられていますよね。そのことについてお話を頂いたうえで、こちらで情報をまとめて、相手側に罠をはりたいと思っています。」
「なるほど。この前も言いましたが私は仕事をあまりさせてもらえません。
不本意ではありますが、そのことは贈賄する側の企業の方たちにも認知されてることです。
私はいわばスケープゴート、いわゆる逃げ道として使われているのだと思います。」
「それでは、大臣自体は収賄は行っていないが、秘書あるいは官僚側がわいろを受け取っっている可能性は否定されないということですか?」
伊達が聞くと、前島は黙ってうなずき、
「政治家が秘書に責任を押し付けて、責任逃れをするなんて話はざらにありますが私の場合はその逆です。秘書が勝手にしたことを大臣である私に責任を押し付ける形になってます。
こちらの資料をお渡ししますので、好きなように活用してください。」
前島は机から書類を取り出して伊達に渡した。伊達が
「これは?」
「それは私が独自に集めた資料で、献金を私名目で受け取っていた秘書の名前と渡した企業が載っています。残念ながら、私の評価は低いので私が秘書が勝手にやっていたことでも、すべて私のしたこととして処理されるでしょう。」
「なるほど、それでは資料に関しては精査した上で判断します。」
伊達が資料の中身を取り出して、確認を始めた。山本が
「その秘書は『秘政会』の人間ですか?」
「ええ、そうです。『秘政会』のことをご存じだったんですね。」
前島はどこか『秘政会』については触れたくないかのような態度をとった。山本が
「何か不都合なことでもありますか?」
「いや、それは誰から聞いたのですか?」
山本は伊達を確認するが、伊達は資料を真剣に読み込んでいるようで聞ける雰囲気ではなかったので、
「小谷さんからです。」
前島はかなり驚いたのか、椅子から立ち上がり、
「それは本当ですか?小谷君が本当に話したんですか?」
「・・・・ええ、まあ・・・・・・」
山本は前島のこんなに焦っているところを初めて見たので言葉が繋がらなかった。
「どこまで、どこまで小谷君は話したんですか?」
「なぜそんなことが知りたいんですか?あなたももしかして秘政会と関係があるんですか?」
前島は自分の態度が裏目に出たことを感じたのか椅子に座り直して、
「すみません、取り乱してしまいました。
私の関連を聞くということは、詳細は知られていないということですよね?」
「その通りです。『秘政会』というものがあるということ、秘書が政治を議員の代わりに行う組織であるということ以外は知りませんでした。
ここまで来てしまったので、お話頂けますか?」
前島は机を見下ろしたまま、山本と視線を合わせないようにして、
「『秘政会』は現在の『秘書が政治を行う会』ではありませんでした。創設当初は『秘密裏に政治家を監視する会』だったんです。」
「どういうことですか?政治家を監視するという意味がわからないのですが?」
「政治家には昔から政治献金関連の問題が付きものでした。当時、財務省としては国会議員の政治活動費が不正に使われていないか、違法な献金によって政治活動費を得ていないかを重点的に調査していました。当時の首相が政治献金絡みで辞職したりもありましたから、その問題に関して敏感になっていたんです。」
「財務省が作った組織だったわけですか?」
「正確に言うと、一人の優れた男がその能力をいかんなく発揮したことでできた組織です。
彼は会計検査院へ出向したさいに人脈を作り、その有能さから政治家からも厚い信頼を得ていたことで、政治家の秘書たちとの交流もあり、会計検査院の人脈と政治家の秘書を使って政治家の不正を監視する非公式な組織を形成していました。」
「北条総理ですか?」
「いえ・・・・・・・」
「もしかして・・・・・・・・」
山本の脳裏に一人の男が浮かび上がる。その人物の名前を前島が言った
「信繁君です。彼が作った『秘政会』はあくまで絶大な権力を有する政治家を監視し、不正行為があった際には適切に対処するためのものでした。実際に信繁君が調べた政治家が警察に逮捕された事案もありました。」
「それが何で、今の形になったんですか?」
「信繁君の死後、元々が信繁君を中心として繋がっていた組織だったために、次第にその関係が無くなり、あとを任されていた小谷君が私の秘書になったところから少しずつおかしくなっていたのだと思います。」
「それで小谷が今も『秘政会』の中心人物でいるわけですね?」
伊達が資料を読み終わって、こちらの会話に入って来た。前島は黙ってうなずき、山本が
「どうだった、資料は?」
「かなり調べられています。仕事ができないと言われていた前島大臣にしてはかなり出来がいいですね。」
「本人の前なんだからもっとオブラートに包めよ。」
「その必要はないでしょう。ところで、大臣、この資料はあなたが作られたということで間違いないですね?」
「はい、私は考え事をして最善策を見つけ出すなどの思考力はありませんが、資料をまとめたりするのは昔から得意だったので。」
「そうですか。警部、とりあえずこの資料は使えそうです。
黒田さんに裏付けを頼む必要はありますが、十分罠をはるのには役立つと思います。」
「そうか。この資料はこちらで預かりますね。」
「はい、あの、すみませんが次の仕事の時間なので・・・・・」
「ああ、すみませんお忙しいところを。」
山本がそう言って、頭を下げて出ようとしたところで、伊達が山本の腕をつかみ引き留め、
「大臣、『SH』と呼ばれる人物に覚えはありますか?」
「『SH』ですか?何かのイニシャルでしょうか?」
前島が本当にわからないと言った顔で首をかしげる。伊達が
「小谷さんから特別に頂いた資料にあなたが『SH』と会談したと書かれていました。
○月○日です。覚えておられますよね、この日のことは?」
「え~と確かその日は、学生主催の政治討論会に参加しました。
大学生が主催したイベントだったのですが、高校生から50代くらいの人まで幅広い年齢層の人が集まってましたし、『会談した』となると政治について話した人は全員が会談相手になりますから特定ができないのですが。」
「例えば、小谷さんが連れてきた人とかはいなかったですか?」
「いなかったと思います。」
「印象に残っている人とかは?」
「そういえば、20代くらいの若い男の子で、政治家の人数についてはなしている人がいました。
彼もあなたと同じで真正面から私が仕事ができないことをズバズバいう人で周りが注意するまで止まりませんでした。
別に本当のことを言われているだけだったので怒りはしなかったのですが、最後に彼が『もうすぐ無能な政治家は国会議員になれなくなる時代が来る』と言っていたのが印象に残ってます。」
「なんで、その言葉が印象に残ったんですか?」
伊達が聞くと、前島は『閣議決定要因』と書かれた文書を見せて、
「外部には出せない文書ですが、ここを見てもらえますか?」
そう言って文書の一部分を指さした。
「国会議員資格任用制導入に関する法案の提出・決定について・・・・」
伊達が読み上げると山本が
「足束教授が黒木がそんな話をしていたと言ってたな。」
「黒木君が提出した法案を北条君が付け足して、閣議で了承した法案なんですが、この話をイベントの時にしていたんですよ。
北条君から黒木議員がこんな法案を作ろうとしてるから勉強しとけと言われた後に、一般人の若者からこの話を聞いたので印象に残ったんです。」
「なるほど、その若者が『SH』だった可能性はあるな。
他に何か覚えておられることはありますか?外見的特徴とか一緒にいた人とか。」
「すみません、20代くらいの男性だったことくらいしかわからないです。」
「トントン」ドアがノックされる男が聞こえて、外から
「大臣、そろそろお時間です。お願いします。」
前島が慌てたようにドアに向かって
「すみません、直ぐに行きます。すみません、できるだけ思い出しておくので今日はこのへんで。」
「そうですね、お時間お取りしてすみませんでした。」
山本が頭を下げると、前島は「すみません」と言いながら前を駆け抜けてドアを開けて出て行った。
「20代の男・・・・・・。警部が五條に行ったことがもし本当なら・・・どうでしょう?」
「可能性は高いが証拠も何もない。それに『SH』のことより先に、今回の事件でこれ以上被害者を増やさないことを優先させるべきだな。黒田さんのとこ行くぞ。」
そう言って山本と伊達も大臣室から出て行った。




