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51部

「どうやら我々の身元は既に警察に特定されているようです。」

 5人の男が小さな机を囲んで座り、小柄な男性が言った。

「安心してください、谷さん。

まだ身元が特定されただけで、今回の事件に関与している明確な証拠は得られていません。

 逆に言うなら、逮捕されたところで罪状が決められないのが今回の事案の最大の特徴であり、あなた方を守る壁なのですよ。」

 5人の中で一番若い男が言い、谷が

「君は何も手を汚していないからそういうことが言えるんだ。

我々は既に三澤さんと井上を殺しているんだ、このままいくと殺人罪は確実に適用される。」

「はぁ、そうですか?でも、山本警部にUSBを渡して裏切った三澤さんは身元不明の焼死体ですし、井上氏に関しては自殺したような偽装もしてあります。

 何よりあなた方が手を下した直接的な証拠は一切出ない。」

若い男は不敵に笑い、谷の興奮を和らげようとしている。そこに大柄の男が

「君の計画に賛同はしているが、我々の行動は全てが沢田さんの理念に基づいたものだということを忘れないで欲しいな。」

「当然じゃないですか、伊藤さん。

沢田氏の崇高な理念を持ちながら、行動に移せずにいたあなた方に行動計画を与えただけに過ぎない僕は本来なら口を挟める立場にはないのですから。」

伊藤と呼ばれた大柄の男は黙ってうなずく。それを見て不安そうに谷が

「大丈夫なのか、伊藤さん?この若造のことは信用できないだろ。

名前だって名乗らないし、計画の節々に私達の計画とは違う悪意がある。」

 太った男が

「それでも彼が持ってきた計画なしにここまでのことはなしえなかったんだろ谷さん?」

「それは・・・・・そうだが、でも・・・・・」

 浅黒い肌をした男が

「谷さん、これ以上の仲間割れは無駄だ。ここまで来てしまえば引き返すことはできないし、それに、彼に何か別の目的があったとして関係はないだろ。

 俺達の復讐には彼の計画が必要だった、それだけだよ。」

「西川君の言うこともわかるけど、もし我々のしたことが沢田さんの理念から外れていたならどうするんだ?」

「はいはい、そこまでにしましょう。

僕が何者で、なぜあなた方に協力したのかは初めてお会いした時に話した通りです。

 僕は僕の計画がどれだけ社会を変えるのかを知りたい。そして、そのためにはその分野の専門家であるあなた方のお力が必要不可欠だったからです。

 僕はあなた方が失敗しようが成功しようが、実験の結果さえわかればそれでいい。

それ以外の目的などありはしないんですよ。

 谷さんも、口ばかり動かしてないで次に進んでください。

あの情報は鮮度が命ですから、警察から圧力がかかる前に公表してもらわないと計画が狂います。

そうなるとあなた方の身の安全も保障できなくなるんですから。

 計画を忠実に実行することがあなたの不安を解消する唯一の手段だと考えてください。」

 若い男が言ったところで、男の携帯が鳴り、

「ああ、時間のようですね。それでは引き続き頑張ってください。」

 若い男はそういうと席を立ち、出て行ってしまった。

「西川、あいつのことを信用できるのか?」

 伊藤が聞くと西川は

「信用はできないですね。ただ、先ほども言いましたがここまで来てしまえば、もう引き返せないということとやり直しの利かないということだけは明白です。

 もしかしたら、三澤さんはあの若者の危険性にいち早く気づいていたからこそ、そのような暴挙に出たのかもしれません。」

「三澤はただビビっただけだろう。あいつは昔から気が小さかったからな。」

 伊藤が笑い飛ばし、谷が

「伊藤さん、三澤さんは慎重な取材と正確な情報収集能力を持った人でした。

軽く見過ぎても・・・・・・・・・」

「なんだと!」

 伊藤が勢いよく立ち上がり、谷に迫る。間に西川が入り、

「伊藤さん、ここでの仲間割れは計画の失敗に繋がります。

谷さんは計画のために石橋をたたいているだけで弱気になっているわけではないでない、そうですよね谷さん?」

「それは、そうだけど・・・・・」

「ということです。計画を前に進めましょう、私達にはもう後戻りできる道はありません。」

 伊藤は「ふうっ」と一息入れてから席に戻った。西川が

「谷さん、とりあえず例の資料を拡散してください。

そして、皆であの若者が本当は何者なのかを調べましょう。

『SH』なんて、名乗ってましたがどう見てもまだ20代くらいの若造です。その若造にこの計画が立てられるとも思えません。裏でもっと大物が糸を引いているはずです。」

「そうだな、」

「そうですね。」

「沢田さんの理念のために」

 谷が言ったところで、全員が飲み物を天井に向かって掲げた。


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